第78話

 山里たちはドローンから機材を下ろし、組み立てていく。

 それぞれのパーツは単純な拠点設営のパーツに見えるが、あっという間に本当の姿を露わにした。


 バリスタ。

 攻城兵器のひとつ。バカでかいクロスボウをイメージしてもらえば話が早い。地面に固定した巨大なクロスボウから、槍みたいなボルトを発射する。

 組み立てたそれに、鈍器使いがボルトを乗せた。槍使いが角度を調整する。


「やっと仕事だ! 本業はこっちなんだよ!」


 槍使いは射撃手が本業だったらしい。


「追い込みできるかー!?」


 山里が叫んだ。シャベルマンが片手を挙げて応える。

 スケルトンホースを放した彼は、ドローンから異質な形のシャベルを取り出した。コンビニでヨーグルトを買ったら付いてくるスプーンみたいな形をしている。柄の部分は総金属製の筒になっていた。


 なんかで見たことあるんだよな。


 刃と柄のつなぎ目が折れ曲がる。刃の背中を地面に押し付け、柄の先っぽをノーライフキングに向けた。


「思い出した。シャベル迫撃砲だ、あれ」

「なにそれ、トンチキすぎない?」


 スイの言葉には完全同意だ。

 ソ連で発明された、迫撃砲も撃てるシャベルだ。意味わかんねえけど、まぁそういう兵器があったらしい。シャベルとしても不便で、迫撃砲としても弱い。そんなポンコツ兵器だったらしいが……。


 しゅぽんっ。


 間抜けな音がした。シャベルから、筒のようなものが飛ばされる。

 ノーライフキングを守るように動いた骨の腕に命中。ばきりと内部にめり込んでから、一気に白い泡が広がった。何体ものスケルトンを巻き込んだ泡は、そのままぴたりと形を止める。


 ノーライフキングが不快そうな顔をした。どうやら泡に包まれたスケルトンが動かなくなっているらしい。


「火球の魔法で樹脂発泡剤の缶を飛ばす! 何発も食らえば大型モンスターだって止まるぞ!」


 山里が怒鳴った。

 ノーライフキングは腕の1本で身を守りながら、もう1本でシャベルマンを狙う。逃げ出すシャベルマン。

 好機と見たスイが、粘着性の火球を放った。ラプトルのブレスに似たやつだ。

 それも腕で防ぐ。


「ナイス! 射線が通った!」


 槍使いが操るバリスタから、大きなボルトが放たれた。

 長い鎖を尾のように引いて飛ぶ。狙い過たず、ノーライフキングの胸を貫通した。

 鎖の半ばで勢いが止まり、ノーライフキングの前後に鎖とボルトが垂れ下がる。


『む?』


 何をされたのか今一つ理解していない表情のノーライフキング。別にバリスタで射抜かれたところで、痛くも痒くもないのだろう。

 続けて放たれたもう1発。ノーライフキングの左足に命中。ここで表情が変わった。


『鬱陶しいな』

『うちはもともと、こういう小細工が得意なパーティーでね!』


 我らが勇者が、勇者っぽくないことを言いやがる。

 巨大な拳がバリスタに打ち込まれた。慌てて逃げ出した山里たち。せっかく組み立てたバリスタは木っ端微塵にされた。

 だが。別の方向から、垂れ下がった鎖に樹脂発泡剤が撃ち込まれる。


『いいのか? フォームは硬いが刃物に弱いぞ!』


 槍使いが手でボルトを投げた。垂れ下がり低い位置にあった樹脂フォームの塊に刺さる。

 ノーライフキングに繋がる、鉄の鎖が増えていく。ぐぐっ……と少し高度が下がった。

 表情が歪む。かなりウザそうだな。動きが途端に鈍くなっている。


『よお。見下ろされるのは初めてか?』


 ――だからって、俺を忘れちゃ困る。


 光の足場を踏み、宙に躍り出た。大きく右に振りかぶったツヴァイハンダー。切っ先が陽光を反射して、剣呑に光る。

 ノーライフキングの目が見開かれた。


 ばちゃん。


 振り抜かれた大剣が、整った顔面を吹き飛ばした。回転の勢いそのままに、オマケの回し蹴りをぶち込む。

 ノーライフキングは足場にしていた骨の球体から足を踏み外し、鎖の重みに引きずられ落ちていった。


 不思議パワーの浮力無しで、その鎖の重みはキツイだろうよ!

 ノーライフキングの落下地点に割り込む、ごっつい人影。パイルバンカーを引き絞ったトウカだ。


 重力加速と、爆発的に打ち出される杭がぶつかり合う。

 水っぽい音がした。腹部がはじけ飛び、ノーライフキングの上下がバラバラに地面に落ちた。トウカの足元に聖剣が転がる。


『この人類もやるなぁ……』


 どこから出た声だか。

 感心したようなノーライフキングの言葉には、ぞっとするような冷たさがあった。


「焼いておくね」


 スイの魔法がバラバラにされたノーライフキングを包む。しかし。


『私たちも』『けっこう頑張ったんだよね』『滅びてはしまったけれど』『死後数千年』『積み重ねてきた』『喪った世界を』『取り戻すために』


 輪唱のように。周囲から声が響いた。

 首筋を冷たい汗が伝う。最悪の予感がした。


 ノーライフキングから奪い足場にしていた骨の球体。その全てが、肉を帯びる。


『『『『『『『『ははははははは』』』』』』』』


 哄笑が響いた。

 伸びる手が足を掴み、球体に引きずり込もうとしてくる。


 ――クソが。


 周囲の全てのスケルトンがノーライフキングに変化していた。

 浮力を失ったそれらと共に、落下が始まった。

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