第74話
「つーか、眺めてる場合じゃねえぞ」
ノーライフキングに気を取られていたが、その奥に立ち上る土煙に視線をやる。
何体いるのか不明だが、デュラハンの軍団が槍を構え、一斉に騎馬突撃でこちらに向かっていた。
「ですが、下手に距離を詰めては爆撃に巻き込まれかねません」
上から声がした。
トウカだけは
「ちっ、本当に今回のダンジョンアタックは不愉快なことばっかだな」
思い通りに動けない。
ロボのときは不意打ちも含めて、お互いに殴り合っている感じがあった。たっぷりと殴られる代わりに、こちらも思い切りぶん殴れた。
今回は網に絡めとられた状態で放置されているような気分だ。
詠唱が止まり、魔法陣が光を放った。どうやら間に合ったらしい。
ふわりと放たれた火球。そこに、ノーライフキングの腕が1本飛んでいく。
「やっべぇ!!」
慌てて全員が頭を下げた。
近距離での炸裂。さきほどとは比較にならないほどの衝撃が走った。
肌を焼く熱風。瞬間的だったから火傷はしていなそうだが、もろに吸い込んだら死んでそうだ。
火球を食らった腕1本はほとんどが砕け散り、一部生き残りとおぼしきスケルトンが地面に落ちた。
そいつらは両脚と片手で器用に着地して、残りの腕でツヴァイハンダーを担ぐ。スケルトンチャンピオンが10体ほど、そのタフネスで生き残ったようだ。
一方、自分たちが撃った火球の爆風を浴びた儀式魔法の陣地は酷いことになっている。爆風でなぎ倒された魔法使いたちが、地面に這いつくばって、苦痛に呻いていた。
死にはしていないが、ダウンって感じだな。
その真上に、巨大な手のひら。大きな影が、複数人の倒れている魔法使いに覆いかぶさる。
縦横15メートル×10メートルってところか?
「い、いやだ、死に――」
いつの間にか伸ばされていたノーライフキングの腕が、真っすぐに下ろされた。どん、という地鳴り。十数人はまとめて叩き潰されていそうだ。
「やっば」
山里が呟いた。
儀式魔法がねえなら出たいところだが、ノーライフキングを殴る役と、デュラハンを止める役が必要だ。
飛び出す影があった。メガネの後ろ姿だ。
聖剣を片手に、倒れている魔法使いたちのところに駆ける。おいおい、そんなガラじゃねえだろ、お前は。
さらに魔法使いたちを潰そうと振り下ろされる第二撃。しかしそれは、メガネが掲げた聖剣の切っ先にぴたりと止められた。
「は?」
思わず疑問の声が漏れた。
人間の肉体で受け止められる質量じゃない。
いや、仮に受け止められるような強靭なスーパーヒーローだったとしても、剣が刺さるだけで、周囲が潰されることに変わりはねえはずだ。
「あれが聖剣の効果……」
半端に飛び出した
「対アンデッドのォ、強烈な
弾き返された腕がノーライフキングの元に戻る。
「他の効果は不明だがァ……これだけで十分戦えるゥ」
斥力。弾き返し、寄せ付けない力。引力の反対だな。
確かに、アンデッドの大半は決定打に近接物理攻撃を多用する。強制的に距離をとることができれば、無傷で乗り切れる可能性さえある。
「勇者ってガラじゃねえだろうが!」
思わず怒鳴った。
ふわりと、ノーライフキングの本体が近づいてくる。偉そうな態度で俺たちを見下しながら、口を開いた。
『魔人殺しの剣……まだあったとはな。そして、扱える人間もまだいたか』
ハスキーなのに透明感のある声だ。とてもアンデッドから出たとは思えない、涼し気な響きだった。
つーかこいつも喋るのかよ。
『魔人殺し?』
問いかけたスイに、ノーライフキングが視線を向ける。
『ダンジョンに呑まれた子ら……。ダンジョンと世界が繋がれば生まれてくる、お前のような者を魔人と呼んだのだよ』
要するに魔法使い殺しの剣ってことか。
こちらに向かっていたデュラハンたちが左右に分かれる。俺たちを包囲するように、隊列を広げていった。
『内に魔法を宿すアンデッドでは近寄れぬだろうな』
そう言いながら、座っている骨の球体から飛び降りる。そして、目に止まらぬ速さでメガネの眼前に現れた。
「っ!?」
ほとんど反射だったのだろう。メガネがとっさに聖剣を振るう。それを軽く
体を曲げ、真横に吹き飛ぶメガネ。それでも聖剣を手放さなかったのか、一緒に飛んでいく。
木に叩きつけられ、ずるずると地面に落ちた。口の端から血を流し、腕で体を起こそうと藻掻く。
だが、好機。
地上に降りたノーライフキングに、俺とヒルネが肉薄する。
「――止まれ!!!」
山里がこれまでになく焦った声を上げた。
地面をこすりながら急停止する俺たち。あと1歩のところから先一面、地面から剣の切っ先が飛び出した。まるで針の山だ。危ねえ。
ずるりずるりと、スケルトンチャンピオン達が這い出して来る。
ノーライフキングは迎えに来た骨の玉に再度腰かけ、悠々と宙に戻っていった。
仕切り直しに、相手は戦力追加。やってられねえな。
あとさ。
『お前、アンデッドじゃねえの!?』
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