第42話
地下15層までの俺たちは、まるで嵐だった。
先頭が俺と隼人とシャベルマン。
隼人の装備は暗褐色の戦闘服に、ペルシャ風味を感じる
軽量ながら火力の高い戦士といったところか。その代わり敵の攻撃を受けるという発想がない立ち回りに見える。
ステップでコボルトの進行方向を誘導し、即座に切り返して、すれ違いざまに首を刎ねる。まるでサッカーのドリブルを見ているようだ。
シャベルマンは見た目が異質にも関わらず、やたら堅実な立ち回りだ。なんでだよ。狂人みたいに振り回すタイプの見た目だろうが。
シャベルの刃の部分を敵の顔に寄せて、相手の視界を狭めて殴りつけるような動きを多用していた。
他のメンバーは歩いているだけで拠点に到着だ。
「隼人君のメイン武器はシミターか?」
「一応ってところ? 相手に応じて武器の使い変えをするから、どれとは言えないけど、上の方の階層なら軽いものの方が疲れないからね」
隼人はシミターの表面を布でさっと綺麗にすると、鞘に納めてドローンに預けた。代わりに取り出したのは、やたら鎖の部分が長いモーニングスターだ。
鎖部分だけで4メートルはありそうだ。デカい相手には、無理やり遠心力で威力を増した鉄球を叩きつけるのだろう。
「確かに浅い層からそいつを持ち歩くのは骨が折れるな」
「深層での決定力は大きいから頼りになるんだけどね。せっかくドローンがあるんだし、色々と持ち込んだ方が得だよ」
シャベルマンはこっち見んな。何か言いたげな様子に、彼のドローンを覗いてやる。
「予備のシャベルばっかじゃねーか!」
予備武器は大事だが、同じの10本積んでどうすんだよ。何がこいつをそんなに駆り立てるんだ。
俺はシャベルマンの頭を軽く叩いてから、休憩室に向かった。
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翌朝。
地下25階層まではヒルネが離れた位置で偵察に当たる。
先頭はスイと柚子。柚子の装備は薙刀だ。幅広の穂先には、魔法言語の刻印が入っている。それと、足首と手首に樹脂の羽のようなものがくっついているが、何に使うか見当もつかない。空気抵抗が増えるだけで邪魔そうにすら見えた。
ヒルネの誘導で不要な戦闘は回避しながら進む。時折出てくるアンデッドは、俺たちに近づくことすら出来ず、スイの炎弾を食らい沈められた。
「スイ。柚子の戦いが見たい。骨どもを近寄らせてやれ」
「うーん、もう少しこの杖に慣れたかったんだけどな」
スイは新調した武器の調子を確かめたかったらしい。魔法を全く使わない俺には理解できねえが、なんかあるんだろうな。感覚的な違いみたいなのが。
ちなみに、杖どころじゃないものを媒体に魔法を使おうとしている化け物は、今のところ大人しくしている。今のトウカの支援魔法、なんか怖くて受けたくねえ。回復とかされたら、過剰に再生して肉が吹き飛んだりしそうだ。
「おーい」
戻ってきたヒルネが手を振る。
「階段前にスケルトンチャンピオンとスケルトン2体、何か探してる感じでウロウロしてる感じです! 鬼火は紫!」
紫か。ぼちぼち強いが、なんとなく今の俺たちなら余裕で相手取れるような気がする。
俺自身も劇的に何かが変わったわけじゃないが、以前よりも上手く戦える確信があった。
「私がやる。指をくわえて見てると良い」
柚子が走り出した。隼人にちらりと視線を向けるが、動じた様子はない。いつものことなんだろうな。そんでもって、スケルトンチャンピオン程度なら心配する必要もない、と。
遠目に見える骨の群れに向かい、柚子が跳躍した。その体が、糸に引っ張られるような不自然な挙動で加速する。
「ありゃ、風か?」
「そうだよ。武器自体の重さと、魔法をすべて自分の加速に使うことで、柚子は軽い体重というデメリットを克服したんだ」
隼人が誇らしげに言った。こいつらにも、こいつらの冒険の物語があったんだろうな。
速さは威力だ。矢のように飛びこんだ柚子が、全体重をぶつけるような薙ぎ払いをスケルトンチャンピオンにぶつけた。
俺らのところまで響いてくる衝突の音。頑丈な鎧を着込んでいるはずのスケルトンチャンピオンが、その体をくの字に折って吹き飛んだ。潰れた鎧が邪魔するのか、ダンゴムシのように丸まったまま、地面を転げまわる。
返す刀でスケルトン2体の骨盤を斬り払い、状況終了。
はっや。
「あれが日本トップクラスか。やっべえ」
山里がアホ面しながら言う。
確かにとんでもねえが、動きが直線的過ぎるのが気になるところだな。単体でロボに通用するとは思えない。なんなら、俺でも
だが。
「使えるな」
「どこから目線だよ」
「上からに決まってんだろうが。あれをロボにブチ当てる流れの組み立てを作りてえとこだな」
スケルトンハートを手にした柚子に合流すると、ドヤ顔で顎をしゃくって来やがった。流石に血圧上がるわ。
「おい、俺たちも磨き抜かれた連携見せてやんぞ。次からは俺らが先頭だ。なあ、シャベルマン」
「うす」
「おかしくない!? 私たち3人から選ぶ流れだったよね!?」
スイはそう言うが、ちゃんとした理由があるんだよな。
一応ここから先は、ワーウルフと
あと、トウカの物理攻撃は粉々の血肉を浴びそうだから、それも無し。
使い勝手の良さと共闘の経験で選ぶと、シャベルマン一択になっちまうんだよな。
俺は無口な男シャベルマンと並んで、地下26層に下りた。
雲の側面に橙色の光が当たる、夕暮れ時の入り口。ロボとの出会いを思い出す風景の中、俺はダンジョンの階段周りの草をじっと観察していた。
「――草に踏まれた跡があるな」
ダンジョンの階段に対して、外側に茎が折れている。俺はその隣に自分の足を置いて体重をかけてみた。似たような跡がつくが、よくよく見れば、大きな違いがある。
先にあった踏み跡は、草の繊維が部分的に千切れている。対して、俺が踏んだ方は、曲がっちゃいるが千切れてはいない。
「わざとつけたな、これ」
「そういえば永野さんって斥候だっけ?」
俺の後ろから隼人がひょこりと顔を覗かせた。
「ああ。これ、時間が経っても足跡を追跡できるように、踏んでから足の裏で左右にグリグリしてんな。草の傷の範囲からして、足の裏のサイズは18センチ程度」
「18? 小さいですねー」
反対側からヒルネも顔を出してくる。
ヒルネは良く聞いておけよ。
「草の傷に対して、その外側の踏まれてない草まで、絡んだりして荒れてるだろ。つまり、この18センチの外側に指があんだよ。だいたい足跡の倍、36センチくらいはあるな。で、足跡2つの間に、重いものを引きずったような跡。リザードマン全開ですって感じの特徴だ」
リザードマンの足は、ワニの足に似ている。だいたい半分くらいが指だが、全体的にのっぺりとしており、人間の足に似たような雰囲気の作りだ。
「ここまで露骨に跡を残してるっつーことは、恐らく誘ってるな」
この階層の戦闘で、俺らは事前に用意した草罠を使って有利に立ち回った。今度は、ロボが草で罠を作り待ち構えている。
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