第28話
めちゃくちゃ草を結んでやった。具体的には50メートルくらい1人で結んだ。反省の意を示すため、ってほど殊勝な理由ではないけどな。
不思議なことに、汚れ一つない服に着替えたヒルネがテントから出てくる。なんでこんな平地で着替えているんでしょうねえ!
「よし、それじゃあ改めて報告をくれ。配信映像からだと、集落に入った直後からカメラの乱れが酷すぎる」
「なんでそんないつも通りなんですかねー」
ヒルネがぼやいた。
それからヒルネ自身が目にしたものを聞き取る。
集落の規模は建物10戸程度で、井戸と
合流予定のパーティーはいたが、5人組のはずなのに、10人いたらしい。複数のワーウルフっぽいやつは特定して捕縛したが、その過程で学習されたのか、それぞれ最後のワーウルフを特定できず、疑心暗鬼の状況。
ということらしい。
「良くないな」
「助けに行く?」
スイが難しそうな顔で尋ねてくる。「助けに行こう!」とか言うかと思ったが、なかなか現実が見れているな。
「助けるのはやぶさかじゃないんだがな。ヒルネ、お前はどう思う?」
俺が決めてもいいが、今日の俺は師匠気分だ。いいとこが少ないやつには出番をやらねぇとな。
「えーーーっと。集落に入ってすぐに化けられちゃったってことは、今そのパーティーに化けてる他に、ワーウルフが集落に潜んでるってことだから、危険性は高いかなーと」
「そうだな」
「ただ、化けられないように、みんなで固まっていけば、そんなに苦戦しない気もするから、助けに行ってもいいかなとも思います!」
「それもそうだ」
俺はトウカにも視線をやるが、こくりと頷くだけだった。
「一応言っておくとな。この階層はワーウルフとコボルトが出る。コボルトが姿を消している理由がまだわかっていない。イレギュラーが発生したら、この草罠を仕掛けている場所まで撤退するぞ」
全員がしっかり頷いた。
罠はいいぞ。簡易的な防衛拠点としても使えるからな。
俺は釣り糸をドローンから回収し、長さに余裕を持たせて全員の装備を繋いでいく。
「切れないように注意しろ。糸も含めてコピーしてくるだろうが、流石に仲間に繋がった状態では再現できんだろ」
「めっちゃ切られそう……」
それもそうだ。だが、糸を切るひと手間を敵に強要するってだけでも意味はある。
俺は倒したワーウルフの死体をドローンに積み込んで、集落に向かった。
集落の中。井戸が設置してある広場に、似たような迷彩服を着こんだ集団がたむろしている。黒とグレーで構成された、ドット絵みたいな柄。薄暗い空間を想定したデジタル迷彩ってところか。
雰囲気は最悪。お互いを疑いの目で監視しあっている。
「おいおい、ひでぇ空気だな。魚の群れの方がまだアットホームだぞ」
「なんだお前は……なんなんだお前は?」
声をかけてみれば、全員の疑いの目が、綺麗に矛先を俺へと変えた。
そんなひどい言われようするほどじゃないだろ。髭だって指でつまめるかなー、くらいしか伸びてないぞ。
「見るからに怪しいですし、雰囲気とか変ですけど、悪い人じゃな……ええと、私たちのパーティーメンバーなんです」
スイが
「私が連れてきた応援です!」
「荷物の運搬を依頼していたパーティーです」
ヒルネとトウカも前に出てくれる。
おかしくねぇか? モンスター相手だと俺が最前線なのに、人間との対話で一番後衛にされるの納得いかねぇぞ、おい。
「ワーウルフと人狼ゲームで遊んでるって聞いたからな。尋問の手伝いしに来てやったぞ」
彼らはお互いのリアクションを確かめ合うように、視線を交わす。野郎10人で顔色伺い合うな。修学旅行の夜にする好きな子発表会じゃねぇんだから。
「ワーウルフじゃねぇなら、身の潔白を証明したいはずだろ? ここで嫌がる奴はワーウルフってことで良いか?」
「ナガさん。そういう煽りはいけませんよ」
だって後衛は火力出すのも仕事だもん!
そんな俺たちのやり取りに、苛立った顔をした男が1人前に出た。そいつは大きくため息をついてから、俺たちに言う。
「舐められちゃ終わりの商売だが……いい加減疲れた。出来るってんなら、手を貸してもらおう。俺はこのパーティーのリーダーをしている、
「ほー」
俺は少しばかり感心した。頼む姿勢ではあるが、決して下手に出ない。世間一般からしたら褒められた様子じゃないだろうが、暴力商売ならこれで正解だ。
舐められる。弱いと思われる。そうすると、仕事がなくなる。仕事がなくなれば割の悪い仕事を引き受けることになり、自分や仲間の命を叩き売りする羽目になる。
それに、こいつらには物資の運搬をしてもらうんだしな。力を貸し合っての対等な関係ってもんよ。
「じゃあお前のセットからな。適当な建物に入るぞ」
俺は山里2人を連れて、大きめのボロ家に入る。それぞれを後ろ手に椅子に縛り付け、強制的に食卓テーブルにつかせた。
「で、どうするつもりだ? 俺はお前を知らないし、お前も俺を知らないだろう?」
山里が濃い顔でしかめっつらを作りながら言う。なんかこいつ、愛嬌ある顔立ちしてんな。野球部ならキャッチャーしてそう。
俺はドローンから刎ねたワーウルフの生首を取り出し、テーブルにダンと叩きつけるように置いた。
「ワーウルフは社会性の高いモンスター、という情報があってだな」
「そうだな」
群れを作り連携して狩りを行うからな。
「知性も高いから、同族と他を区別できるんじゃねぇかなと」
「それはそうだろうさ。だがな。ワーウルフの死体で動揺を誘おうと思ったんだろうが、無駄だ。こいつらは仲間の死体を無視する」
「そうか。やっぱり無視するんだな。埋葬とかの概念はないが、目の前に新鮮な肉があっても、同族のは無視するんだな」
「……おい」
山里たちの口元がひきつった。察しが良くて、大変結構。
「今から君たちには、俺の手料理を食べてもらう」
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