第23話
「さーて、そんじゃ解体すっか」
コメントはもう無視しよう。
投げ銭してくれた人を怒らせたのはミスだが、配信の視聴者に媚びるってのもなんか違うんだよな。そんなこと気にしながらやっていたら、ダンジョン内で長生きできないだろ。人気商売をしたいわけじゃないんだ、こっちは。
手に持ちたるは、100均の包丁。
「本当にそれで解体するんですか?」
「そらそうよ」
竜種の解体の仕方は、深層で暮らしている間に工夫して覚えたからな。
まずは肛門のあたりから喉の裏に向かって、鱗を
「一直線に鱗を剥がしたら、次はここから開いていく」
包丁の刃先でしゃっしゃと皮を剥がす。皮の内側の皮下脂肪は、比較的柔らかい組織だから、ここが一番楽な作業かもな。
尻尾なんかは皮をめくって、ずるりと引き抜くように剥がす。肉は地面に直に置くが、気にしない。食う直前に脂肪は切り落としてトリミングするからな。
ようやく全ての皮を剥がしたころ。スイは細剣を引き抜く作業に戻っており、トウカは野営の準備を始めていた。ヒルネはいつの間にか俺の作業を手伝っていた。
「休んでてもいいんだぞ?」
「ボス戦で活躍できなかったんで、これくらいはしますって」
「そうか」
皮を剥がしたら、次は筋肉のブロックをイメージをしながらバラしていく。べりべりと引き剝がすイメージだ。ある程度大きなブロックがとれたら、次は特殊な器官だな。
竜種が特に顕著なんだが、物理法則に反するモンスターは、それを成し遂げるための器官を持っている。
例えば、胃の近くにある火炎袋。内部を傷つけないよう気をつけながら腹膜を開けば、すぐそこにある。これは肝臓とセットでとる。重さ10キロくらいはありそうだな。
「なんか売れそうだからとったが、こういうの売れんのか?」
「昔は売れたらしいけど、今は値段がつかないですかねー。火炎袋って言ってるけど、実際のところは液体吐き出すための筋肉の塊っていうか……あんまり価値がなかったみたいっす」
「そうか? これ、あくまで見た目での素人判断だけど、肝臓から細い管がめっちゃ通ってきてるから、肝臓ありきで考えりゃ色々わかるんじゃねーのか?」
多摩支部:絶対に肝臓とセットで持ち帰ってください。値段については少々お待ちください。
:公式さん!?
:まーた大発見きたか?
冒険者にせよ探索者にせよ同じだと思うが、荒事に強い人間が現場であれこれするから、研究者が欲しいものを持って帰れないってのはあるあるなんだよな。
「そんな感じなら、これも欲しいんじゃないか?」
取り出したのは、足首回りの関節部だ。骨の間を、軟骨にしてはぷっくりモチモチしたものが埋めている。
「イカれた跳躍を実現してんのが、おそらくこの部分なんだよな。未知の軟骨成分とかとれるんじゃねえかなと」
ちなみに焼いて食うと美味い。
多摩支部:そちらも買い取ります。骨格の形状がわかる形で持ち帰ってください。それと、皮は買い取りますので、そちらも可能な限り持ち帰ってください。
おおう、こいつ1匹でドローンの積載量をどんどん取られていく。もっと大型のを倒したら、みんなで分担して持ち帰らないといけないだろうな。
ざっくりと肉を取り分けたら、広げた皮の内側にのっけてトリミングし、切り分ける。
こんなところかな。
「よし、焼いて食うぞ!」
「あー、やっぱりそうなるんだ」
細剣から手を離したスイが諦めたように言った。
「こんだけデカけりゃ見た目はちゃんと肉、サバイバルだと初心者向けってとこだな」
「一応、ちゃんとした携行食料はありますが……」
「これもちゃんとした肉だ」
「そうですね。竜種の肉に興味がないわけじゃないので、頂きます」
消極的に賛成といったところか。
こうやって少しずつ慣れさせていけば、ずるずると色んなものを食うようになっていくな。
肉をどんどん薄切りにしていく。そして、取り出したるはこれ。
「ツヴァイハンダー??」
スイが疑問を浮かべる。
「ヒルネ、ちょっと押さえろ。トウカは焚火を挟むようにして、例の
トウカはよく分かっていない顔ながら、金属の柵を組んでくれた。よし。
ラプトルの肋骨にツヴァイハンダーを立て掛け、柄をヒルネに固定させる。刃先からデカい薄切り肉を何枚も何枚も重ねて刺していく。しばらくすれば、小さめのケバブの出来上がりだ。サイズ感としては、2リットルのペットボトル3本分ってところか?
刃先をバールに引っかけて持ち、柄はヒルネに持たせて焚火に移動。逆茂木に両端を引っかけて、炙り焼きが出来る状態になった。あとはクルクル回しながら焼いて、出来たところから薄く削いで食べるだけ。
「うわー、こうしたら完全に食べものですねー!」
ヒルネが華やいだ声をあげる。
「最初から食べ物だろうが」
言わんとすることはわかるけどな。生き物のままの姿を見て「うまそう!」とはあんまりならない。せいぜい魚とかカニくらいのもんだろう。現代人は料理を食って生きているからな。命とは離れた場所で、命だったものを食っている。
交代交代でケバブを回し、じっくりと肉を焼いていく。表面に浮いた脂がぽとりぽとりと焚火に落ちて、細い煙をあげた。
だんだんと色合いが変わり、肉の焼ける香ばしい匂いがし始めた。
スイが沸かした湯で煮沸消毒してくれた100均包丁をとり、焼けた表面に当てた。ここまでくれば、みんなも肉の口になっている。全員の顔が期待に満ちたものになっていた。
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