第17話

 集団戦なんて簡単だ。より重たく、より早い方が勝つ。お互いに全速力で突進して、衝撃力の高い方が勝つんだ。冒険者時代に、何度もそう感じた。

 俺たちはかたまりだ。急ごしらえのパーティーでも、この衝突の一瞬だけは、命を預けあう一つの鉄塊になる。


「おおおおおおお!」


 塊の先頭、衝角ラムとして俺が突入した。スケルトンファイターの槍を打ち払い、広げた両手でラリアットのようにぶちかます。

 俺がこじあけた隙間に、スイとトウカが飛び込んだ。俺に迫る長剣を、スイの細剣が迎撃。互いにけ反る。トウカのメイスが、ファイターの頭から鎖骨までを粉々に叩き潰した。


「引くぞ!」


 打ち寄せたら、波のように引く。空いた射線を矢が駆ける。頭を失ったファイターの手首を撃ち抜き、槍を落とさせた。


「もういっぱぁぁぁつ!」

「あぁぁぁぁっ!」


 俺の声に合わせてスイが吠えた。そうだ。声を上げろ!

 もう1体のファイターの槍を掻い潜り、逆手に持ったバールを鎧に向かって突き立てる。金属のけたたましい悲鳴が響いた。激しくノックバックするファイター。

 支援魔法バフの効果だろうか。苦しんでいるのか、痛みを感じないはずのアンデッドが、がくりと膝をついた。


 トウカはスケルトンの横薙よこなぎを鎧で受け、反撃の殴りでバラバラにする。同時にスイの斬撃がスケルトンの脊柱を斬り飛ばした。上下真っ二つになったスケルトンが地面でジタバタと藻掻もがく。


「引くぞ!」


 カバーに入って来たスケルトンの袈裟斬けさぎりをバールで横に弾きながら、全速で後退。

 敵戦力はチャンピオンとスケルトン1体が健全で、ファイター2体とスケルトン1体が一時的に無力化。


 スケルトンは脆いが、骨盤を破壊していなければ、時間経過で再生する。ダラダラ戦っていたら、次々と戦線復帰してくるだろう。


「スイ! スケルトンとサシでやれ!」

「了解!」


「トウカはトドメを!」

「かしこまりました!」


「ヒルネは俺の支援、チャンピオン狩りだ!」

「お任せあれ!」


 突撃でガタガタにさせたら掃討戦だ。半殺しを全殺しにしながら、人数差で囲んで潰す!


「よぉ大将。ダメじゃないか、大将が後ろに陣取ってちゃ」


 骨にも怒りは宿るのか。

 スケルトンチャンピオンの目に宿る鬼火は、ごうごうとほとばしっている。


 改めて戦力分析。

 身長は2メートル半。胸から腰にかけて金属鎧。膝くらいまであるフォールズ――スカート状の金属パーツ――が厄介だな。

 手に持つのは長さ3メートルもあろうかという、巨大なツヴァイハンダーだ。先端から中ほどまでしか刃がついておらず、好きな場所を掴んで振り回せる長剣。

 総金属から生まれる一撃の重さはまるで斧。加害範囲は剣より広く、リーチの長さは槍のよう。


 受けに回れば死ぬな。


 後ろ足に体重を残し、いつでも下がれる体制ですり寄った。チャンピオンが腰をぐっと下げた。

 来る。


 右からのスイング。ごう、と空気が渦を巻く。下がって回避。

 重さを感じないのか、慣性を無視したような動きで、左からのスイング。下がって回避。戦闘服が一瞬引っ張られるような感覚がした。見れば、胸元が小さく切れている。

 ――踏み込みの1歩がでかい。


 体がデカけりゃ、踏み込みもデカい。

 体がデカけりゃ、懐も広い!


 次のスイングが飛んでくる前に、こちらから大きく前進。一気に剣の間合いの内側に飛び込む!

 眼前には城壁に感じるほど大きな装甲。くるりと反転し、敵であるチャンピオンの胸に背中を預ける。広がる視界の先で、驚きに目を丸くするヒルネがいた。短剣の二刀流に持ち替えており、いつでも飛び込める体勢だ。偉いぞ。


 空を切ったツヴァイハンダー。だがそれだけで隙になるような武器じゃない。即座に切腹のような動きで、つかを俺めがけて突き込んでくる。両手で持ったバールでそれを受け止めた。


 チャンピオンは大きな体を丸めるように、体とつかで俺を挟み込んで潰そうとする。重い。が、全身で突っ張れば耐えられないほどじゃない。


「今だ、ヒルネ!」


 そう言ったが早いか。言う前から動いていたのか。

 スケルトンの肘関節――それも両方に、短剣が刺し込まれた。込められていた力の大きさゆえに、骨にひびが入る。

 ナイスアシストだ!


「っおらぁぁ!」


 全身全霊で力を振り絞り押し返すと、ついに肘から先の骨がもぎ取れた。

 弾き飛ばされるように、仰向けに倒れるチャンピオン。


「お待たせ」


 為すべきことを終えたスイが俺の横をすれ違う。


『アフィ レ オ マロシ』


 フォールズの下から放り込まれた火球が炸裂した。鎧のあらゆる隙間から炎が噴き出す。

 強い光に照らされたスイは。なるほど、これが人気配信者かと。そう思わせるほど綺麗な横顔をしていた。



:うおおおおおおおお!

:勝っちゃぁぁぁぁぁぁ

:北京原人最強!北京原人最強!

:トウカのチャージ迫力やばい

:スイちゃん最強!

:ヒルネも大活躍やん



 コメントが沸き立つ。

 急造の連携の割に、かなり上手くいったな。正直、過去のどの冒険者パーティーよりも動きが良かったかもしれん。

 あと重装甲の相手に通る火力があるのは素晴らしいな。


「あ、そうだ! 赤のスケルトンチャンピオンなら、あれがあるかも!」

「確かにー!」


 スイ達3人がチャンピオンの鎧を剥ぎ取る。焼き焦がされた肋骨ろっこつの内側には、赤と白の斑模様まだらもようが気持ち悪い、心臓の形をしたものが転がっている。


「スケルトンハート、ありましたね」


 見た目の気味悪さを意にも介さず、トウカが拾い上げる。


「なんだそりゃ」


「ざっくりと言えばお宝かな。これを利用した魔法化加工機械は、100分の1ミリ四方の文字を金属に彫れるんだって」


「はえー」


 何が凄いのか分からんが、どうやらとても凄いことらしい。理解できないことに触れると、IQ下がる感じするよな。


「これ1つで8万円です。等分したら1人当たり2万円ですね」


 マジかよ、すげえ。めっちゃ美味いな。

 命懸けで戦って、たった2万円。なんて考えるやつもいるとは思う。だが、2万円ってのは結構な大金だ。高所作業7時間の日当が1万円だったりするからな。命懸けの仕事なんて世の中に幾らでもあって、それらの報酬は想像以上に安いのが現実なんだから。


「地上に帰ったら何食うかなー」

「焼肉ですわー」


 ヒルネが即答する。何を言ってるんだこいつは。


「焼肉なんてダンジョンで幾らでも食えるだろ」

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