第17話
集団戦なんて簡単だ。より重たく、より早い方が勝つ。お互いに全速力で突進して、衝撃力の高い方が勝つんだ。冒険者時代に、何度もそう感じた。
俺たちは
「おおおおおおお!」
塊の先頭、
俺がこじあけた隙間に、スイとトウカが飛び込んだ。俺に迫る長剣を、スイの細剣が迎撃。互いに
「引くぞ!」
打ち寄せたら、波のように引く。空いた射線を矢が駆ける。頭を失ったファイターの手首を撃ち抜き、槍を落とさせた。
「もういっぱぁぁぁつ!」
「あぁぁぁぁっ!」
俺の声に合わせてスイが吠えた。そうだ。声を上げろ!
もう1体のファイターの槍を掻い潜り、逆手に持ったバールを鎧に向かって突き立てる。金属のけたたましい悲鳴が響いた。激しくノックバックするファイター。
トウカはスケルトンの
「引くぞ!」
カバーに入って来たスケルトンの
敵戦力はチャンピオンとスケルトン1体が健全で、ファイター2体とスケルトン1体が一時的に無力化。
スケルトンは脆いが、骨盤を破壊していなければ、時間経過で再生する。ダラダラ戦っていたら、次々と戦線復帰してくるだろう。
「スイ! スケルトンとサシでやれ!」
「了解!」
「トウカはトドメを!」
「かしこまりました!」
「ヒルネは俺の支援、チャンピオン狩りだ!」
「お任せあれ!」
突撃でガタガタにさせたら掃討戦だ。半殺しを全殺しにしながら、人数差で囲んで潰す!
「よぉ大将。ダメじゃないか、大将が後ろに陣取ってちゃ」
骨にも怒りは宿るのか。
スケルトンチャンピオンの目に宿る鬼火は、ごうごうと
改めて戦力分析。
身長は2メートル半。胸から腰にかけて金属鎧。膝くらいまであるフォールズ――スカート状の金属パーツ――が厄介だな。
手に持つのは長さ3メートルもあろうかという、巨大なツヴァイハンダーだ。先端から中ほどまでしか刃がついておらず、好きな場所を掴んで振り回せる長剣。
総金属から生まれる一撃の重さはまるで斧。加害範囲は剣より広く、リーチの長さは槍のよう。
受けに回れば死ぬな。
後ろ足に体重を残し、いつでも下がれる体制ですり寄った。チャンピオンが腰をぐっと下げた。
来る。
右からのスイング。ごう、と空気が渦を巻く。下がって回避。
重さを感じないのか、慣性を無視したような動きで、左からのスイング。下がって回避。戦闘服が一瞬引っ張られるような感覚がした。見れば、胸元が小さく切れている。
――踏み込みの1歩がでかい。
体がデカけりゃ、踏み込みもデカい。
体がデカけりゃ、懐も広い!
次のスイングが飛んでくる前に、こちらから大きく前進。一気に剣の間合いの内側に飛び込む!
眼前には城壁に感じるほど大きな装甲。くるりと反転し、敵であるチャンピオンの胸に背中を預ける。広がる視界の先で、驚きに目を丸くするヒルネがいた。短剣の二刀流に持ち替えており、いつでも飛び込める体勢だ。偉いぞ。
空を切ったツヴァイハンダー。だがそれだけで隙になるような武器じゃない。即座に切腹のような動きで、
チャンピオンは大きな体を丸めるように、体と
「今だ、ヒルネ!」
そう言ったが早いか。言う前から動いていたのか。
スケルトンの肘関節――それも両方に、短剣が刺し込まれた。込められていた力の大きさゆえに、骨に
ナイスアシストだ!
「っおらぁぁ!」
全身全霊で力を振り絞り押し返すと、ついに肘から先の骨がもぎ取れた。
弾き飛ばされるように、仰向けに倒れるチャンピオン。
「お待たせ」
為すべきことを終えたスイが俺の横をすれ違う。
『アフィ レ オ マロシ』
フォールズの下から放り込まれた火球が炸裂した。鎧のあらゆる隙間から炎が噴き出す。
強い光に照らされたスイは。なるほど、これが人気配信者かと。そう思わせるほど綺麗な横顔をしていた。
:うおおおおおおおお!
:勝っちゃぁぁぁぁぁぁ
:北京原人最強!北京原人最強!
:トウカのチャージ迫力やばい
:スイちゃん最強!
:ヒルネも大活躍やん
コメントが沸き立つ。
急造の連携の割に、かなり上手くいったな。正直、過去のどの冒険者パーティーよりも動きが良かったかもしれん。
あと重装甲の相手に通る火力があるのは素晴らしいな。
「あ、そうだ! 赤のスケルトンチャンピオンなら、あれがあるかも!」
「確かにー!」
スイ達3人がチャンピオンの鎧を剥ぎ取る。焼き焦がされた
「スケルトンハート、ありましたね」
見た目の気味悪さを意にも介さず、トウカが拾い上げる。
「なんだそりゃ」
「ざっくりと言えばお宝かな。これを利用した魔法化加工機械は、100分の1ミリ四方の文字を金属に彫れるんだって」
「はえー」
何が凄いのか分からんが、どうやらとても凄いことらしい。理解できないことに触れると、IQ下がる感じするよな。
「これ1つで8万円です。等分したら1人当たり2万円ですね」
マジかよ、すげえ。めっちゃ美味いな。
命懸けで戦って、たった2万円。なんて考えるやつもいるとは思う。だが、2万円ってのは結構な大金だ。高所作業7時間の日当が1万円だったりするからな。命懸けの仕事なんて世の中に幾らでもあって、それらの報酬は想像以上に安いのが現実なんだから。
「地上に帰ったら何食うかなー」
「焼肉ですわー」
ヒルネが即答する。何を言ってるんだこいつは。
「焼肉なんてダンジョンで幾らでも食えるだろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます