第13話

「その〇級みたいなのって何か関係あんのか?」


「階級が高いほうが凄いんだよ」


 なるほど、わかった。れん君は頭が悪い。

 同じことを思ったのか、お仲間の康太こうた君がフォローする。


「ええと、補足するとですね、階級は実績をもとに、おおよその実力を協会が保証するという、出来ることの指標みたいなものです。探索者はダンジョンから持ち帰ったものを売るだけじゃなくて、環境調査とか、特殊な環境での実験なんかを依頼されることもあります。依頼者が誰に依頼をするのか、階級とか能力のランクを見て判断する感じです」


「なるほどな。派遣社員の資格経験欄みたいなもんか」


「派遣社員?」


 おお、派遣社員という仕組みすら滅びたのか。悪とも思わないが、仲介の搾取がひどく、使う側は雑になり、働く側はモチベーションが低かったりで、あんまり良くない環境になっていたからな。より良い仕組みが生まれていることを願う。


「特殊技能ってのは?」


「研究者やエンジニアなんかが書かれていることが多いみたいです。あと、医師免許は持っているだけで級が1つ上がるらしいです」


「ダンジョン潜るのに医者がついていたら安心だもんな」


 傷を消毒して縫合ほうごうしてくれるだけで、どれだけ生存率が上がることやら。

 というか、康太君はなかなか説明が上手いな。蓮君のオマケかと思っていたら、地味な顔してるくせに役に立ちやがる。蓮君の腰ぎんちゃくさえ辞めたら、一端いっぱしに成長するだろうよ。


「戦闘Bっておっさんどうなってんだ? 特殊技能もついてるし、元自衛隊か?」


 蓮君が俺の認証済み技能を指さしながら言う。

 康太君も改めて俺の免許証をマジマジと見つめた。


「戦闘とサバイバルってことはレンジャーですか? いえ、レンジャーにしては哨戒が低すぎます。どういう経歴でこうなるんですか?」


 自衛隊上がりだと、戦闘と哨戒の技能が上がるのか。さもありなんって感じだ。で、レンジャー上がりだとサバイバルなんかもついてくる、と。


 冒険者にも元自衛官がいた。1回だけ一緒に潜ったが、本当に頼りになった。自衛隊を辞めた理由が、上官と喧嘩したからと言っていたな。そのあと、お目付け役のチンピラと揉めて、即座にぶっ殺したのは見ものだった。そりゃ自衛隊こうむいんは続かねえよって思ったな。


「経歴って言ってもな。ダンジョンに無許可でも潜れた時代に入って、そのあと出るに出られず25年。最近になって親切なお嬢ちゃんに助けてもらってな。改めてちゃんと資格とったってわけだ」


「25年……ああああああああ!」


 蓮君が叫んだ。うるせえ。


「北京原人!?」


「誰だよそれ」


 そういえば、なんかスイの配信コメントでもそんなこと書いてあったな。


「佐藤の配信に映ってたやつだよなぁ!?」


「声キンキンうるせえ。声変わり前かよ。その通りだよ。つーかなに、北京原人って」


「お前めっちゃバズってたぞ。北京原人っていうのは、あのときの見た目からついたあだ名みたいな?」


「だからうるせえ、静かにしゃべれ馬鹿」


 一発殴ると大人しくなった。泣きそうな顔で真っすぐ気を付けの姿勢になった。いきなり剣向けてきたことといい、本当に暴力に慣れていないんだな。ダンジョンとかいう、暴力頼みで稼ぐような空間にいて、不思議なものだ。


 北京原人は俺のあだ名だったのか。確かにあのときの俺はそう言われても仕方のない見た目だったからな。むしろ名付けたやつを褒めてやりたいくらいだ。


「で、バズってたって言っても俺じゃなくてスイがバズっただけだからな」


 バズの概念は残っているのが絶妙に面白いな。あれこそ一過性ですぐに消えてなくなる概念だったのに。

 人に注目されるってことの重要性は、時代が変わっても不変だったってことかね。


「佐藤さんのチャンネルはもともと人気でしたけど、コンテンツとしては弱いって言われがちだったところで、あの伝説の配信ですからね。あれから1週間くらいなのに、まだHOTワードに載ってます」


「さっきから二人とも佐藤佐藤って、逆にお友達かなんかなのか? 配信者ってだいたい下の名前で呼ばれるもんじゃないのか?」


「あー、実はクラスメイトなんですよ」


 康太君は照れくさそうに頬をかいた。マジかよ。


「同級生なのに、お前ら恥ずかしくなるくらい弱いな」


「言うな!」


「うるせえ!」


 学習能力がない蓮君にビンタする。

 蓮君はもう喋んなくていいんだよ。俺は康太君と話しているんだ。バカはバカ話をするときだけ出てきてくれればいい。その方がスムーズだし盛り上がる。ちゃんと後でうんこの話にしてあげるからな。


「僕らは最近資格をとったんです。というより、僕が探索者になりたいって言ったら、蓮君が付き合ってくれて」


「意外だな」


 康太君は色白で手足も細い。清潔感はあるがおしゃれではなく、口元がもにょっとした覇気のない顔つきだ。真面目そうだが、華はない。こっちが主体だとはなんとも。


「ガキの頃からの付き合いだからな。康太がわがまま言うのも珍しいし、応援してやりたくてさ」


 意外といいやつじゃねぇか。でもさ。いい話なんだけど、そういうの男がやってもあんまり盛り上がんないな。


「応援してやりたいなら、他の探索者に喧嘩売らない方がいいぞ」


「すいませんでした」


 素直でよろしい。

 あるんだよな。初めて武器振り回して、気が大きくなっちゃうこと。だいたい反省する前に死ぬから、蓮君はラッキーだ。


 いつまでもこいつらと話していても仕方がない。俺は会話を打ち切って、自分が倒したコボルトから魔石を抜き取った。こいつらの魔石は尾の先端にある。残りの部位は捨て置く。


 下を目指して歩き出すと、ぶった切った尻尾を雑にドローンが吊るすコンテナに放り込んだ2人がついてきた。

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