第12話
「いやぁ、悪いね。そっちに飛んでっちゃったみたいだ」
俺が肩をすくめると、ボンボンの額に青筋が浮かんだ。
相手の戦力は、盾とショートソードに、ショートスピア。ショートスピアの男子はキョロって感じだな。不安そうにボンボンの顔色を
槍向けらえると厄介だが、キレてるのがショートソードの方だけなら対処は楽だな。
「てめぇ、死にたいのか?」
ボンボンがショートソードの切っ先を俺に向けた。
「ガキ、知らないなら教えてやるよ。人に武器を向けたら殺し合いの合図だぞ」
俺はバールを床に放り投げると、無造作に歩いて距離を詰めていく。
「な、2対1だぞ!?」
「知っても武器下ろさないのか?」
あんなにトサカに来てたっていうのに、もう怯んだ顔をしてやがる。それでも武器を下ろさないのはいい根性しているのか、それとも判断が遅いだけか。
多摩支部:そこまでです。探索者同士で戦うのは禁止されています。
お、コメントありがとう支部長さん。
スマートウォッチが振動する。たぶんこれも支部長ちゃんだな。
どちらも無視して、俺はボンボンの剣をつまんで横にどけた。にっこり笑顔で笑いかけてやってから、口の中に指を突っ込んだ。
「おごっ!?」
下あごをカコンと真下に引いてやると、あっさり
慣れてなきゃ自力で戻すのは大変だろうけどな。
「今どきの探索者の作法には詳しくないが、ダンジョン内で
有核種。スライムやゴーレムなどのことだ。
有核種はダンジョンの掃除屋だ。ゴミや死体、そして死体になりそうな生き物を食べて分解する。血の匂いを嗅ぎつけたのか、さっそく周囲の壁の隙間にゼリーのような粘液が
「あ、あうあうああああ!」
「何言ってるかわかんねえよ。外れた
ヤスほどではないが、俺だって何回かは外れてる。亜人系の棍棒や、ドラゴンの尾などの打撃を顔面に食らうと、簡単に外れてしまうからな。
両手の指を奥歯に引っかけて、外側に押し広げるようにすると、
医学的には良くないんだろうが、ダンジョン内での応急処置としてはメジャーなものだった。
つーか、今どきのってそんなことも知らないでダンジョン潜ってるのか?
あんな量のお勉強してる割に、内容が偏りすぎじゃね。こういう知識の方が、ダンジョン内だと生存率に直結すると思うんだが。
弱いものイジメしていても可哀想なので直してやると、ボンボンが口元を押さえながら、怯えた顔で俺を見ていた。
「な、なんなんだよお前は」
俺は大げさにため息をつく。
「友好的にやりたきゃ、自分から名乗れ。素性がわからない相手に喧嘩を売るな。目的がわからない相手に要求をするな。ダンジョンに限らないが、ダンジョン内だと命に関わる」
いや、どっちかというと日常の日本社会での方が命に関わるのかもしれないが。
新宿の繁華街で、酔っぱらいが喧嘩を売っているところを見たことがある。俺は社長だぞ~だなんて下品にオラオラ絡んだあと、相手が銀行のお偉いさんだと気づいて、真っ青になっていたな。そいつの会社がずいぶんと
経済界でそこそこの地位があるやつ、ヤクザとかモンスターより怖いまである。
「ぐ……俺は7級探索者の
「その顔でその名前、将来ホスト目指してんのか?」
「ホスト?」
どうやらホストも既に存在しない仕事らしい。パチスロが生き残ってるの、マジで奇跡だったんだな。
「その7級ってなんなんだ?」
そういえば前にスイも田辺巡査部長に「4級特定地下探索者の~」とか言われていた気がする。漢字検定かよ。
「そんなことも知らないのか? 免許証に書いてあるだろ」
「マジ?」
この数日間で新しい情報に触れすぎて、ちょっと食傷気味なんだよ。細かいこといちいち見てらんねえって。
ドローンを叩くと、免許証もといステータス画面みたいなのが表示される。右側には俺の3D全身画像みたいなやつ。左側にはこんな感じの文字列が記されている。
発行日 2050年5月11日
最終更新日2050年5月11日
有効期限 2051年5月11日
この者を 8級特定地下探索者として認める
一般社団法人特定地下探索者協会
発行
一般社団法人特定地下探索者協会多摩支部支部長
電子印確認コード 10004529664003
認証済み技能
探索 C
捜索 E
戦闘 B
警戒 C
哨戒 D
採取 A
解体 C
特殊技能 サバイバル
3人で顔を寄せて一緒に免許証を見る。こんなこと書いてあったのか。面白いな。
「支部長ちゃん、
「そこじゃねーだろ! 今日登録の8級じゃねーか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます