第11話
地下1階層。
思い返してみれば久しぶりに探索する階層だ。1~5階層で出てくるのはコボルトとドワーフ。どちらも妖精種亜人系のモンスターになる。スライムはだいたい壁の隙間に隠れていて、ほぼ遭遇しないからノーカンだ。
人間という生き物は不思議なものだ。
攻撃のための器官は牙ではなく手。知覚は目に頼っている。どちらも体の高い位置についている。
普通、動物というのは自分よりも小さい生き物を狩る。見下ろして戦うのが得意なのだ。
だが人間だけは、自分の腰より低い場所にいる敵と戦うのを苦手としている。見下ろして戦うより、なんなら見上げながら戦いやすい構造になっているのだ。
とはいえ、自分より大きい相手は自分より強いものだ。
必然。人間にとって一番戦いやすい相手とは、同種である人間ということになる。
「ダンジョンは浅い層の方が敵が戦いやすいってのも変な話だがな」
俺はいるかもわからない配信視聴者に話しかけた。
「普通、攻め込んでくる敵に対しては、前線ほど強力な兵を配置するもんだろ」
徐々に難易度が上がっていくとか、学校の勉強じゃないんだから。
多摩支部:その通りですが、ダンジョンの発生理由や存在意義については何もわかっていないのが現状です。
ドローンの表面にコメントが流れた。いえーい、支部長ちゃん見てるー?
ビーコン情報を取得し、スマートウォッチがホログラムで表示したマップに従い、サクサクと下に降りていく。
地下3階層。
石造りの建物内部みたいな迷路の先で、壁にかけられた松明の光に揺れる、小さな人影を発見。ようやくモンスターのお出ましってところか。
近づくにつれてコツコツと硬いものを叩く音がする。これはドワーフだな。
無造作にその目の前に出る。
ドワーフ。
身長150センチくらいの髭もじゃのおじさん。体つきはビール樽のようで、オーバーオールを着ている。
言葉の通じないモンスターではあるが、こいつらは何もしなければ敵対しない、穏やかなモンスターだ。ダンジョンの壁を壊してるんだか修復してるんだか分からんが、壁を叩いている様子がよく観察されている。
「お、当たりじゃねーか」
ドワーフはツルハシやハンマー、バールのようなものなど、鈍器にも使える工具を持ち歩いている。今回のはバールのようなものだ。
パンっ。
クリクリした目で不思議そうに見上げてくるドワーフに、思いっきりビンタをした。頬を押さえ涙目で、目を白黒させるドワーフ。おまけとして反対側の頬もビンタしてやった。
戸惑っているのをいいことに、持っていたバールを没収する。
「これこれ。冒険者時代はなー、当時はこれが一番人気の装備だったんだよ。ハンマーやツルハシも悪くないが、こいつが一番使いやすい。当時の冒険者はバール扱えて一人前だったな」
返して欲しそうにつきまとうドワーフを蹴り飛ばし、さらに下の階層へ。
地下4階層と地下5階層の階段を最短距離で歩く。このルートは壁際に砂が溜まっている。結構な人通りがあるのかもしれない。
予想的中と言うべきか。付近から戦闘の音が聞こえてくる。
ドワーフとコボルトが争っている姿は目撃例なし。ということは人間だな。
「お、やってんねー」
スイと同い年くらいか?
高校生くらいの男2人が、4体のコボルトの群れと戦っている。
コボルト。
身長はドワーフとほぼ同じで、二足歩行の犬って感じだな。だいたい木の盾と棍棒で武装している。足は短く戦闘時のステップは遅いが、獲物を追跡するときは四足歩行で素早く走り回る。
「ちょっと通るぞ」
彼らの横をぬるっと通り抜け、戦っているコボルトの横もそのまま通り抜ける。
こいつらは社会性が高く連携を大事にするから、逆に、突発的な出来事への反応が鈍いんだよ。
あと、目を合わせなければそこまでヘイト――敵意を買うこともない。
「おい、そこのお前、待てよ!」
だというのに。
前線を張っていた男子が声をかけてきやがった。
強化プラスチックのアーマーに、ポリカーボネートのライオットシールド、右手にはショートソードか。短い金髪と薄い眉毛でチンピラ予備軍みたいな顔してるくせに、ボンボンみてぇな金のかかった装備してやがるな。
コボルトたちの視線がチラチラと俺に向く。面倒だな。
「何の用だよ」
「俺らが苦労して戦ってる横をよー、そうやって通り抜けられると気分悪いんだけ……ど!」
ボンボンの剣がコボルトの首を
何で絡んできてるんだ、こいつは。
「コボルトごときに苦労してってから横通ったんだろうが。それとも何だ? 助けて欲しかったのか?」
ボンボンの表情が
多摩支部:他の特定地下探索者とのトラブルは避けるようお願いします。
喧嘩売ったんじゃなくて落ちてんの拾っただけなんだわ、支部長ちゃん。
後衛の男子が槍を突き出して、もう1匹仕留める。群れの数を削られたコボルト2匹が殺気立った。
「って、なんで俺に来るんだよ!」
1匹ががむしゃらにボンボンに向かっていき、もう1匹が俺に飛びかかって来た。
棍棒をバールで受け流し、盾の上を掴んだ。そのままコボルトをボンボンに投げつける。
「う、うおおおお!? 何しやがる!」
飛んできたコボルトが絡みつくようにブチ当たり、ボンボンが転げる。慌てて後衛の男子がフォローに入って、がむしゃらにコボルトを突きまわした。何度目かの突きが急所に刺さったのか、ようやく死ぬ。
ボンボンは死んだコボルトにマウントをとられていたせいで、返り血を大量に浴びてビチャビチャだ。くさそう。
「よくもやりやがったな……」
仲間が差し出した手を乱暴に振り払い、ボンボンがゆっくりと立ち上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます