同情するなら笹をくれ

さくらみお

第1話

 (ナレーションの声は、美声の女性をイメージしていただけると幸いです)


 ここはとある県の片田舎にある女子高。

 右を向いても左を向いても若い女の子たちでいっぱいの、女の園よ。


 でもね。女子高って響きはとっても素敵だけど、一部の意識の高い系女の子を除けば、たいていの女子は男の目がないと、男子よりもだらしなくなるのよ。

 異性の存在って、とっても大切よね。


 ああ、ほらほら、1年3組の教室を見て。

 教室もめちゃくちゃに汚いし、ごみ箱もお菓子のゴミの山よ。

 机の上も化粧品やら鏡やら、ジュースやお菓子だらけ。

 教科書って言葉を知らない人種みたい。

 スカートの下にだっさい三本ラインのジャージを履いて、大股おっ広げて会話しているわ。



 なんの会話をしているのかしら。

 ああ、先週末にあった学校イベントの七夕祭について、反省会をしているわ。



 七夕祭はこの女子高の目玉行事で、隣駅の男子校と七夕の飾りつけをしながら交流するイベントよ。

 いつもはだらしない女の子たちも、この日だけは精一杯のおしゃれをして、彼氏ゲットに挑むハンティングの日でもあるわ。


 でもね。


 大抵のスペック高い系男子は、一部の意識高い系女子が総ざらいして、大半のコミュ障女子は、コミュ障男子と一切触れ合うこともなく、お互いが黙々と折り紙で飾りを作り続ける、とっても黒いイベントだったの。


 つまり、惨・敗。


 そんな負け組ジャージ女子代表・春奈はるなは親友の美紅みくと何がダメだったんだろうか? と話しているみたい。

 それが分かんない時点で、お察しね。



 さて季節はまだ梅雨が明けない七月で、不快指数は絶賛爆上がり中。

 コロコロと気分と話題が変わるのが女の子。

 もう反省会の話題はどこへやら。

 話は別に移り変わった様ね。


「美紅えもん~。暑い、暑すぎる〜。なんか涼しくする方法ない~?」と、親友にボケてもらうためにネタを振った春奈だったが、ホラー映画好きの美紅が「そういえば」と真面目に話を返してきたわ。



「ねえ春奈、バタリアンって知っている?」



「バタリアン~? なにそれ?」

「ゾンビ映画だよ。脳みそくれ~って、ゾンビが喋りながら襲ってくるやつ。何しても死なないんだよ」


「えー? なにそれ。知らない」


「そのバタリアンみたいなゾンビが、この朝日町に出たらしいよ」

「えっ」


「学校の裏山ってさ、駅までの近道じゃん? バスケ部の愛花とか、テニス部の里奈とか、バタリアンみたんだって!」


「……うっそー……」


 ホラー話が苦手な春奈は一気に肝が冷えたようね。

 しかも春奈も陸上部。

 帰りは近道の裏山を通っているらしいの。


 春奈は慌てて昼休み終了まで「バタリアン」を検索したわ。

 それはもう「ザ・ゾンビ」という存在が画像に出てきて、それだけで一気に身震いするほどに。

 こんな存在が、自分の学校の裏にいるなんて。


 春奈は恐ろしくなって、その日は部活を休むことにしたそうよ。



 ◆



 ――でもね、結果として。


 春奈は短距離走のインターハイの期待選手という事で、先輩がバタリアンが怖いくらいで部活を休ませてくれなかったのよ。

 先輩、凄いわね。


 夜も更けた時間に人気のない裏山の歩道を一人で歩く春奈。

 先輩たちは自転車通学なので、さっさと帰ってしまったわ。


「くそ~っ!! 明日からは大変でも自転車にする~!!」


 視聴者の聡明な皆さんは、そんなに怖いなら裏山を通らなければいいのでは? と思うかもしれないわね。

 そうよ、春奈は少し頭が残念な子だから、その発想が思いつかなかったのよ。


 そんな春奈が裏山の中腹に差し掛かった時、ガサガサっと、茂みの向こうが揺れたわ。


 ビクウッと跳び上がる春奈。


 その音は、どんどん、どんどんと春奈に近づいてくる。


 そして、次の瞬間。


 茂みの中から真っ赤な二つの目が現れて、春奈を捕らえたのよ。


「ぎゃああああああああああ!!!!!」


「……クレ……。……クレ~……!!」


 それは、美紅が言っていたゾンビのバタリアン!!!?


「うぎゃあああああああああ!!」


 春奈は走ったわ。

 でも怖くて、足はガクガクで、しかも薄暗い山道。

 足がもつれて盛大に転んだの。


「……クレ……。……クレ~!!」


 追って来るバタリアン。

 昼間に調べたバタリアンは生きた人間の脳みそを食べるそう。


 もう、ダメだ!! 食われる!!

 と思った時。


 春奈の目の前に現れたのは、パンダだったの。

 目がキラキラの、なんかデフォルメっぽい可愛い子だったのよ。


「……え?」

「……ささくれ」


「え?」

「だから、笹をくれ~」


 次の瞬間、春奈を囲う様にデフォルメパンダたちが大量に現れて、口々に言ったわ。


「笹くれ~」

「笹くれ~」

「笹くれ~」

「ささくれ~」


「え、え、えええええええ??」


 

 何か訳アリのパンダたち。

 話を聞くと、このパンタ達は生前、笹を食べ損ねて亡くなったパンダの亡霊らしいわ。


 その名も、パンダリアン。


 最初はリアルパンダの亡霊として人間から笹を貰おうとしたらしいけれど、怖がられてしまうため、可愛くデフォルメして絶讃活動中らしいわ。


「へえー……それで、この裏山に?」


 こくり、と一匹のパンダリアンが頷いた。


「でも、この山には笹は無いんだよね……」

「そんな、我々のササレーダーによると、この山のどっかに大量の笹がある筈なのに!」


 と、某・龍の玉を探す漫画のレーダーに酷似した、『ササレーダー』を見せてくれるパンダリアン。

 確かにこの山に笹の強い気配を感じるようね。


 大量の笹?

 春奈は最近、どこかで大量の笹を見た記憶があった。


「……あっ! 学校!!」


 そう。春奈の学校では先週に七夕祭が開催されて、まだ笹がたくさんあるのよ。

 きっとそれに反応して、パンダリアンたちはこの朝日町にやって来たのね。


「うちの学校へ行けば、笹がたくさんあるわ! 場所を教えるから、夜のうちに食べに行くといいわ」


「……」


 でも、パンダリアンたちはそれだけでは、ダメみたいだったの。

 証拠にパンダリアンの誰一匹、笹の在り処だけでは嬉しそうな顔をしていないわ。


「……どうしたの?」

「我々は笹を食べ損ねた以外にも、やり残したことがある」

「どんなこと?」


「人間に可愛がられることだ!」


「人間に甘えて、笹を食べさせて貰いたかった!」


「できれば女子!!」

「できれば女子高生!!!!」



 なんて、具体的なやり残しでしょう!



 女子高生に笹を食べさせて貰わないと成仏出来ないだなんて。

 パンダリアンたちがなかなか成仏出来ない理由が分かりましたね。


「まじか」


「頼む、我々パンダリアンは99匹いる。お前のツテであと98人くらいの女子高生を揃えられないか?」

「なに、その合コンみたいなお願い……」


「頼む!!」


 それからどうしたか、ですって?

 もちろん、叶えてあげましたよ。


 翌朝。

 女子高生たちが学校に登校すると、グラウンドにとっても可愛いパンダが99匹もゴロゴロしていたんだもの。


 可愛いものが大好きな女の子たちは、喜んで七夕の笹をパンダリアンたちに与えたわ。


 もちろん、春奈もパンダリアンに笹を与えたわ。


「どう? これで、成仏できる?」


「謝謝! 我が人生に一遍の悔いなし!」


 そう言うと、99匹のパンダリアン達は光輝き、天に消えて行ったそうよ。

 

 めでたし、めでたしね。

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