第9話 俺の人生ようやく始まった!

 国王の夜会は二、三時間ほどで終わった。

 帰りはシトリー様の馬車にのり、報酬の金のインゴット二キロを受け取って帰宅。


 自室に帰る門はコビーの実家の一角にあるので。


「ただいまー」

「ただいま戻りました」


 コビーと一緒にルウさんや彼女のお母さんに挨拶した。

 ルウさんはテーブルの上に置かれたランプを頼りに新聞を読んでいる。


「遅かったな、それにその仰々しい格好はなんだ」

「本日国王様の夜会に出席させて頂いたので、そのためですね」

「ほう! リョウマは夜会に招待されたのか、大したものだ」


 ルウさんの豪気な哄笑を後ろに、俺は自室に帰って普段着に着替えた。

 テレビをつけて日本のニュース番組を見つつ、そろそろ例の計画のために動こうと思う。


 その計画の名は――会社退職計画!! である。

 来週の初め、さっそく部長に相談してみようと思う。


 当然退職の理由も聞かれると思う、が、そちらは素直に答えるまでだ。


 未来の嫁さんと一緒に新事業を始めるので、退職します! と言ったるんだ。


 冷蔵庫から取り出したサワー缶をぐびぐびと飲み干し。


「よし! 覚悟は決まった」


 自分を鼓舞するように覚悟の文字を口にして、消灯して寝た。


 ◇ ◇ ◇


 翌日、朝六時に起きるとコビーのお母さんが台所にいた。


「おはようございます」

「おはようリョウマくん、今朝の献立は私の得意料理にするからね」


 ありがたいことである。


 お母さんが朝食を作って来れる風景をBGMにして、会社のツールを伝って部長に退職したい旨をそれとなく伝えた。部長から返事が来たのは朝十一時頃のことで、辞める分には構わない、けど引継ぎだけはしっかりするように、とのことだった。


「……これで会社ともおさらばか」


 隣でアニメを見ていたコビーが、俺の言葉を受けて声を掛けてくれた。


「とうとう辞めるんだね、悲しいの?」

「悲しい? 苦楽を共にしたようなものだしな、別れるのは寂しいよ」

「でも……リョウマはもっと私の世界にいられるんだね!」

「うむ! 俺は異世界で悠々自適に過ごしたいんだッ!!」


 そのための資料などはすべてネットの中に埋もれている!


 これは勝つる!


「コビー、本屋行くけど一緒に来る?」

「行く!」


 金のインゴットを入れたリュックサックを背負い、街に繰り出した。

 先ずは本屋に向かってお母さん用の料理本を購入。

 お母さんは料理が趣味みたいな感じだし、これでレパートリーが増えてくれればいいな。


 その次に実際に異世界で入手した金のインゴットを換金してみた、その結果。


「すっごいにっこにこだねリョウマ」


 獣人ではあるが、コビーと言う可愛い恋人を隣につれた俺は満面の微笑み。

 今ならどんなことだろうと許せそうだ。


「コビー、せっかく街に来たんだしお前の洋服色々買おう」

「おおー、急に羽振りがよくなった」

「そう? 元から羽振りよかったはずだ、ことコビーに関しては」


 そう言いつつ、彼女の頭をポンポンとする。


 シトリー様から頂いた金のインゴットを換金したらそらもうえぐい査定結果でさ。

 気分上々だよ、なーっはっはっは!


 その足で洋服屋に向かい、ワンシーズンの物からオールシーズン使えそうなコビーに見合った洋服を購入した。コビーは「リョウマと出会ってから贅沢しすぎだね」と大輪の笑顔で言っていた。


 彼女との出会いは記憶にないとはいえ、俺の人生は彼女と出会ったことで一変。

 それまで辛い労働人生をよぎなくされていたが、今や不自由なく暮らせている。


 異世界との交流で毎日活気を持てるようになれたし、来たよ、来た来た!


 俺の人生ようやく始まった!

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