第7話 夜会
シトリー様が担当している領地はバルハート王国の中でも面積が広いらしい。
ここは王国の西南部に位置し、西の末端には海に面した港町があって。
そこから上がって来る交易品の流通の主要都市として機能していた。
王都自体は国の中央のやや右にあるらしい。
それで俺は、国の主要部の九か所に門を設置することになった。
先ずは西にある港街への門を、いつもよりも大きめの設計で作る。
「これが港町に通じる門になります」
と手招きで紹介すると、シトリー様はさっそく門をくぐって先を確かめた。
「……上出来だリョウマ殿、次は王都への門を作って欲しい」
承知承知のすけ。
と言っても、港町の門のよこに王都への門を作ったら混雑しないか?
その考慮から俺は都市から王都へに続く街道側の場所へと向かった。
なんでもこの街道には盗賊が出没するらしい。
だから俺は成ろう! 異世界きっての盗賊殺しに!
手のひらから王都に繋がる門をポン! と出して、シトリー様の確認を取った。
「いいぞ、この調子で他七か所の門もお願いする」
承知承知のすけ。
「あ、でもシトリー様、一つ注意点がありまして」
「何か?」
「俺が作った門ですが、意外と耐久度がもろいみたいでして」
俺の門は物理的に壊せるといえば壊せるのだ。
この前、ルウさんが何を思ったのか家にある門を力ずくで壊したことがあった。彼の弁明だと、奥さんと口論になって門より自分の方が優秀だと知らしめてやりたかったらしい。
「門は壊せるんです、なので厳重な警備をお願いします」
「貴重な情報感謝する」
その時、化粧品を買うように頼んだコビーが戻って来た。
黒い紙袋の中はコビーが見繕った化粧品でぎゅうぎゅう詰めだ。
「シトリー様、これは俺の国が作った化粧品になります、よければどうぞ」
「いいのか? こんなに良くしてもらっても出せるものはないぞ?」
先行投資なのだから、これでいいのだ。
異世界ものの小説では、化粧品も異世界の人に喜ばれる品になっている。
◇ ◇ ◇
その後、九つの主要都市すべてに他の都市につながる門を設置し終えた。
その頃には夕方になっていて、シトリー様も途中で退席していた。
シトリー様の代わりに彼女の使いが確認作業を取って、作業が終わると同時に件の金のインゴットを先ずは二つ頂いた、よっしゃあ! 後はこれを明日にでも日本円に換金して貯金するぞ! おう!
シトリー様の使いの人は黒いおさげ頭を向けて感謝の言葉を口にした。
「ありがとうございます、これで我が王国はますます豊かになっていくことでしょう」
「誰かのお役に立てることがあって、俺としても嬉しい限りです」
「シトリー様のご準備も出来ましたようなので、再度お屋敷に来て頂けますか?」
準備? なんの?
言われるがまま素直に彼女が待つ邸宅に向かったら。
コビーとシトリー様が華やかなことになっていた。
コビーが一生着ることのなかったであろうきらびやかな臙脂色のドレスにすそを通しているではないか。しかも普段はしない化粧までしている……ってそれ、シトリー様にあげた奴なんじゃ?
「えっへへ、綺麗でしょリョウマ?」
「あ、うん。でも何でドレスを着ることになったんだ?」
「この後、王都で定例の夜会があるから一緒にどうってシトリー様が誘ってくれたんだ」
奥手に控えていたシトリー様も艶やかな白いドレス姿になっている。
彼女もコビー同様の口紅を使って、目元にはチークも入っている。
「頂いた化粧品を有意義に使うのに時間が掛かってしまった」
「な、なるほど。それで俺も夜会に出席するということでいいんですか?」
「もちろん、リョウマ殿は夜会の目玉だしな。あ、格好はそのままでいい」
なぜ?
そして俺達はシトリー様が用意した馬車に乗り込み、門をつたって王都に向かった。王都に作られた門にはすでにギャラリーが集まっていて、門をくぐって王都にやって来た瞬間、衆人がざわめいていた。
――すごい、本当に一瞬で現れたぞ。
――転移魔法の一種? にしては上級すぎる。
コビーは馬車の窓から集まったギャラリーに目をやって。
「注目されてる、リョウマの門ってどれだけ凄いの」
コビーの発言に、シトリー様は得意気に言っていたよ。
「リョウマ殿の力は唯一無二、何かと比べることすら恐れ多いほどの力だ」
「そ、そうですか?」
「リョウマ殿のおかげでこの国はもっともっと栄える、もしかしたらあなたは一世代でこの国の誰よりも偉大な御仁になるかもしれない。そのあなたの初めての相手が私であったことは光栄です」
言い方が微妙に引っかかるが、要は立ててくれているんだよな。
馬車に揺られて夜会に出席すると、当然のように俺は浮いた。
他と比べると格好があまりにも不釣り合いで、周囲の目が痛い。
夜会の会場は数個ある円テーブルの下に臙脂色の絨毯が敷かれていて。
白い大理石の床はつるつるしている。
会場自体は誰かの屋敷の吹き抜けの部屋で、窓の景色は深い藍色をした夜だった。
俺はコビーやシトリー様と一緒に、テーブルの一つについていた。
コビーはテーブルにはべられた料理に舌鼓するも、不満そうな表情だ。
「かつ丼の方が美味しい」
「失礼だぞ、状況的に」
仮に本心から言っているのであっても、めっなんだぞ。
試しに俺もスティックに刺された海鮮料理のようなものをつまむ……酸っぱいな。
全体的に夜会に出されている料理には酸味があって、コビーの言うこともわかる。
「国王様がいらっしゃったぞ」
料理に感想していると、シトリー様がこの国の王様の来場をしめした。
ぱっと見、三十三歳の俺よりも年上かな、でも割と若く見える。
王様は入口付近にいたお偉いさんに挨拶している。
どうやら近しいテーブルから順々に挨拶していっている様子だ。
コビーが俺の服のすそを引っ張り始め、何かをうったえていた。
「どうしたんだ?」
「この国の王様は色にうつつを抜かしていることで有名だから、守ってねリョウマ」
「わかった、コビーは俺の影に隠れていればいいから」
これがコビーをヒロインとする恋愛ゲームなら好感度稼げただろ。
俺は国王をまえにして妄想の世界にダイブしていた。
横にいたシトリー様がグラスに注がれた飲み物で喉を潤し終えた頃。
順々にテーブルを回っていた国王様が俺達のテーブルに近づいて来た。
「おお、シトリーではないか、君とこの夜会で会うのは珍しいな」
「陛下、お久しぶりにしております。本日はある男をご紹介したくて参りました」
国王様はその台詞と同時にみすぼらしい格好の俺を優美な目で見詰めた。
「この男が何か?」
「この男性が持つ力は、我が国にとってまたとない才能なのです」
「……それは報告に上がっていた、転移門を自由自在につくるというあの?」
シトリー様は国王にお辞儀して「然様でございます」と言うなり、俺の背中を手で押す。
なし崩し的に王様に対して何か言えという圧力を掛けられた俺はと言えば。
「お初目に掛かります、私の名前はリョウマと申します。以後お見知りおきを」
「リョウマか、そなたが手繰るという不思議な門を、一つ出してみてくれないか?」
「喜んで、行先はどこにしましょう?」
王様に今行きたい場所について尋ねると、彼は王都の洋服屋を指定した。
俺はすぐに手のひらを前に差し出し、ポン! と門を出して見せた。
「おお、報告に上がっていた内容はまことであったか」
一緒に王都の洋服屋に向かうと、王様は対応に出てきた店長に何事か言い含ませる。王様から依頼を受けた店長は俺の方にやって来て、ちょっと強引に服を仕立てらせるのだった。
「リョウマ、着替えた後、すぐに夜会の会場に戻って来てくれ。そなたを大々的に紹介しよう」
その日の俺は、夜会に集った貴族たちの前で国王の口から直々に称賛を受けた。
俺は我が国始まって以来の大器の持ち主かもしれない、ってね。
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