第4話 ありがとう異世界系小説
獣人の娘のコビーと一緒に彼女の故郷に帰り、かつ丼で勝つった。
故郷の農村の人々は俺から貰ったかつ丼を口にして涙するんだもの。
――コビーが凄い大金持ちと結婚したらしい。
――コビーの旦那さんはかつ丼をこれからもくれるらしい。
などなどと、地方の集落ならではの噂を飛び交わせている。
まゆつばな噂に気をよくしたのはコビーのお父さんだ。
お父さんはかつ丼を配ってからしきりに俺の肩を叩くんだ。
「にしてもリョウマ、お前さんの格好はちと目立つな、誰か着替えさせてやってくれないか」
と言った感じで、俺は麻布で出来たシャツと羽織。
それからズボンといったこの世界の標準的な格好に着替えた。
「お、お父さん」
「俺の名前はルウだ、名前で呼んでくれ。んで、改まってなんだ?」
「……実は俺、貴族家の出身なんかじゃないんです」
俺は普通の日本人で、日本という国はこの世界とは違った世界で。
日本はこの世界よりも文明が発達している。素直にそう伝えた。
コビーと出会ったいきさつ、彼女を酒の勢いで抱いてしまったことなど。
俺はありのままを農村の若頭やっている彼に伝えた。
「へぇ、つまりお前が出したこの門の先に、日本があるんだな?」
「えぇ、何なら日本を少し案内しますか?」
「そうだな、そうしてくれるのなら助かるが、今日は無理だな。収穫しなきゃならん」
この農村で収穫しているのは根菜やイモ類にキャベツみたいな野菜だ。
お母さんがかつ丼のお礼として一部を分けてくれた、く、食えるのか?
とりあえず異世界の野菜を自室の冷蔵庫にしまい。
コビーの連れとして、農村の収穫を手伝ってその日が終わった。
翌朝は酷い寝起きだった。
朝六時にセットしてある目覚ましよりも先に、子供の声で起床。
数人の獣人の子供が俺の部屋に土足であがってきて。
カーペットやフローリングを汚し、悪戯本位で早朝から俺をからかいに来たのだ。
一緒に起こされたコビーが申し訳なさそうな顔で謝っていた。
「ごめんね?」
「別にいいよ」
彼女の頭を手でポンポンと叩き、慣例にのっとって許すと伝える。
コビーは俺の仕草に顔を赤らめていた。
「今日は何しよっか?」
今日? 今日は昨日言ったようにお金の問題を解決したい。
昨日のかつ丼五十人前も結構な痛手だったし、このままじゃ破産する。
「このままじゃ破産する、が、俺は試してみたいことがある」
「どんなことするの?」
まぁ先ずはコーヒーでも飲んで落ち着こう。
昨日、俺は異世界についてコビーの父親のルウさんに色々と話した。
異世界で流通している通貨は俺の読み通り、金銀銅で作られた貨幣で。
ルウさんは農村の収穫以外にも、村の若いものをつれて冒険者ギルドの仕事を請け負ったりしているらしい。冒険者ギルドの仕事には薬草の採取だったり、モンスターの討伐など、ネット小説で見る古典的な仕事がいくつもあるみたいだ。
そこで俺は思った。
「冒険者ギルドの仕事で、日本でも高値で取引されている金貨を荒稼ぎする!」
「金貨を!? そんなこと出来たら超一流の冒険者だよ?」
な、ならば! 異世界系小説でよくある砂糖、塩、コショウなどで一時金を稼ぐ! 近場の量販店に向かい、砂糖、塩、コショウ、醤油、みそやバターにマーガリンなどをそれぞれ十キロ購入した。
後は異世界の洋服に着替え、コビーと一緒に彼女の故郷に向かった。
購入した調味料は自宅という名の保管庫に置いてある。
「どうしたのリョウマ?」
彼女の故郷に向かった後、今朝の一件で誰かの不法侵入が不安になった。
ので、やって来た門に手をかざして、今度はシュボンと門をしまう。
出来そうな気がして試しにやってみたら出来た。
ならば、彼女と出会った丘にも俺の自室につながる門があるのでそれもしまおう。
日本に通じる門を全てしまった後、畑にいるルウさんのもとにむかった。
「砂糖や塩やらコショウを売りたいだと?」
「ええ、日本では普及されているので、こちらだと高値で売れるんじゃないですか?」
「お、おお、調味料は貴重だ。だったよなお前?」
ルウさんが奥さんに聞くと、彼女はにこやかに笑いながらうなずいた。
「もしその話が本当ならリョウマさんから少しおすそ分けして欲しいわね」
これはいける! ありがとう、ネット小説!
ネット小説で得た雑学のおかげで、一時の金策ができそうだった。
かといって調味料の仲卸業者になるには障害がいくらかあることだろう。
「お母さんたちの分はあとで持っていきますので、待っててくださいね」
そう言うと彼女は俺の腕をポンポンと叩いて嬉しそうにしていた。
その後、俺はルウさんに件の調味料を高値で買ってくれそうな商人がいる都市の大雑把な方角を聞いた。
「あっちの方角に大きな街がある、昨日の収穫物もその街に年貢として納める。この地方の領主様が暮らしている街だ。砂糖や塩、コショウなんかは領主様に直々に打診してみるといいだろう」
了解です! じゃあ俺はコビーを連れて街の偵察に向かうか。
件の大きな街に向かう門を出すと、ルウさんに引き留められた。
「リョウマ、街への門はそのままにしておいてくれ、便利だからな」
俺の門は便利で大変使い勝手がいい、俺、覚えた。
門を通ると、街の入口に出た。
隣にいたコビーを見やり、街について聞く。
「この街って村からどれくらいの距離なの?」
「歩いて三時間ぐらいじゃないかなー」
「街を案内してくれよ」
街は土剥れのコビーの故郷の村から片道十キロほどの場所にあって。
入口から伸びる石畳の通りの両脇に二階建ての石造家屋がある。
家屋の天井や外壁はパステル色でカラフルに仕立てられてて、心が弾む。
街にはコビーのような獣人や、俺みたいな普通の人間が主に見かけられる。
行きかう人の数は農村の比じゃないことは確かだ。
「この街は地方一番の大都市だから、人数も凄いし、家屋も素晴らしいんだよ」
「みたいだな」
「けど日本はもっと凄いんでしょ?」
「うーん、場所にもよるけど、都会ならまぁそうだな」
日本がどう凄いのか、口下手な俺だと早々説明できない。
けど、車両などが行きかう道路はこの街の石畳とは違ってより滑らかに平坦だし。
通りに面した家屋も立派だが、都会にあるビル群と比べるとレベルが違う。
「ふーん、言葉にならないほど凄いのかな?」
「いやいや、その街にはその街の良し悪しがあるって意味」
「ああ、そういう意味ね」
とコビーは言うが、本当に意味を理解しているのだろうか。
「で、たしかここが領主様の邸宅だったはずだよ」
案内されたのは鉄柵で覆われた広大な土地だった。
正面玄関には門番の衛兵が警備していて、貴族の家らしいたたずまいをしている。
衛兵の一人が中の様子をうかがっている俺達に質問をし始めた。
「ここは領主様のお家である、用がないなら立ち去れ」
「あ、すみません。俺達実は旅交易みたいなことをしようと思っていて、領主様に見て頂きたい商品があるのですが、面会のご予定を入れて頂くことは可能でしたか?」
俺の発言を補足するように、コビーが口を開いた。
「私達は領主様にお仕えしている獣人族のフルムーン村の者になります、今年も豊作だったので年貢は多めに納められそうだともお伝えください」
コビーの獣人族然とした姿に、衛兵も納得したようすだった。
「一応お伝えしておくが、確証はできないぞ? ちなみに領主様に見せたい商品はなんだ?」
「上質な砂糖や塩、コショウと言った貴重な調味料をそれぞれ十キロになります」
そのことを伝えると、衛兵は頭にかぶっていた鉄兜を外して素面をあらわし、立派な口ひげをたずさえた口を大きく開いて言った。
「しっかりと伝えさせていただくよ」
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