第2話 スキル『門』
昨夜の俺は肩まで伸びた黄金色のショートカットヘアーを持ったコビーという獣人の娘と落ち合って、意気投合。したまでは良かったんだが、その後彼女と男と女の情事に及んでしまったらしい。
彼女は異世界の人で、俺は地球人で、彼女の話から察するにリビングの壁際にある異質な門でつながっている彼女の世界は日本よりも文明で劣っている。と来るのであれば。
俺は地球を捨てて彼女の世界で生きた方がよさげと総合的に判断した。
決してITの仕事が嫌になったわけじゃなくてね?
とりあえずコビーと一緒に件の異世界の様子を見に行くことにした。
玄関に置いてあったランニングシューズを履き、いざ異世界へ――
「おお、異世界ってこんな感じなんだな」
門の先はなだらかな丘の上だった。
一面草原がひろがっていて、俺の部屋につながる門は丘にある大樹の横に存在していた。
肌を優しい風が撫でてすぎさっていく……これが悠久の大地って奴か。
「モンスターとかいないのか?」
「いるよ、低級のモンスターだったらほらあそこに」
コビーは丘から遠めに映るモンスターを指さすが、俺の目には見えない。
「じゃあステータスウィンドウとかは?」
「あるにはあるけど、たぶんリョウマは使えないよ」
ステータスウィンドウは街などにある冒険者ギルドにいるその筋のプロにしか使えないようで、今の俺のレベルだったり技能は不明なようだ。けど……なんか違和感があるんだよな。
胸の奥底、みぞおちあたりにみなぎる『力』が眠っている感覚がする。
「この世界には魔王とかいるのか?」
「いるよ」
「じゃあその逆に勇者は?」
「いるんじゃない?」
「通貨はどうなってるんだ? 銅貨とか銀貨とか金貨とか色々あるのか?」
コビーを質問攻めしていると、鬱陶しそうに眉をしかめていた。
「そーゆう話は昨日あらたかしたのに、酔っ払いは面倒だなぁ……そんなことよりリョウマ、昨日の約束」
昨日の約束? と強調されても覚えちゃあいないのよ、うん。
だから素直に彼女に聞いたよ、昨日何約束したのか。
「日本の美味しいもの食べさせてくれるって言ったじゃんかー」
「あー、そうなんだ……わかった」
じゃあ一先ず日本(俺の部屋)に帰ります。
彼女も一足飛びで日本(俺の部屋)に異世界からやって来て、ベッドに腰掛けた。
パソコンからよく出前を利用している店のメニューを開き、彼女に選ばせてみた。
「これは? なんて書いてあるの?」
コビーは日本語が通じても、読み書きは出来ないみたいだな。
もしかしたら異世界には言葉が通じる魔法が存在するのかな。
「かつ丼って言って、基本は豚肉を油で揚げて卵でとじた、うーんそんな料理?」
量的には大体このくらいとジェスチャーで伝えると、彼女は喜んだ様子だ。
「じゃあそれで、肉料理はあたしの所ではめったに食べられないんだ」
「俺も他所の国のことは知らないけど、日本でなら普通に食うぞ」
「普通のことなんだね、すごいじゃんリョウマの国」
「まぁ俺の国じゃないけど、かつ丼二人前でいくか、それと御漬物と豚汁でいっかな」
決定! 後は三十分少々待てばかつ丼が届くよ。
かつ丼が届くまでの間、俺は彼女とこれからのことについて話し合おうと思います。
ベッドに腰掛けている彼女とテーブルを挟んで対峙するようにあぐら座りする。
「コビー、昨日はすまなかった」
「昨日?」
「酔った勢いで君を、その……滅茶苦茶にしてしまってだな!?」
コビーに謝罪として頭を下げると、彼女は手で俺の頭頂部をぽんぽんと叩いた。
「これ、あたしの故郷では許すって意味だよ」
「申し訳ねぇ、申し訳ねぇ……!」
「いいの、盗賊に襲われるよりはマシだから」
思った以上に、彼女の住む世界は無法地帯なようだ。
「そうだ、あのさリョウマ」
「何?」
「お風呂貸してもらえない? 昨日リョウマに獣臭いって言われたしさ」
次いで出てきた彼女の口から聞かされた俺の失言には、失笑するしかなかった。
彼女がお風呂に入っている間、俺は会社を辞める事由を考えていた。
とは言っても、すぐに辞めたくはない。
コビーの世界で生きられる確証が欲しいというか、そのための備蓄が欲しい。
試しに再度、一人で異世界に向かった。
見晴らしのいい丘から見えるのは異世界の地平線と、遠くに掛った積乱雲だ。
あの雲はこっちに流れてきているみたいだし、もうじきここも嵐に見舞われるだろう。
「……えっと」
それで、俺はなんとなしに右の手のひらを前に差し出した。
そして鳩尾からあふれ出る力のようなものが、右腕を伝ってポンと吐き出された。
「……おお」
あふれ出た力の先に、新しい門が現れたんだ。
ひょいっと覗く感じで現れた門に頭を突っ込み、すぐに引っ込めた。
今回現れた新しい門は、俺の部屋の浴室とつながったみたいだったので……ね?
入浴中のコビーと目が合い、すぐに顔を引っ込めたけど、この後帰るのが怖いまる。
◇ ◇ ◇
その後、コビーは届いたかつ丼を至福の笑顔で頬張っていた。
さっき新たにやらかした俺の失態はかつ丼の味で忘れてしまったみたいだ。
「美味ーい!」
「美味しいだろ? 俺、ここの味の常連なんだ」
「お肉の旨味が持て余さず引き出されてるって感じで、とにかく美味い!」
今朝、起きた時は血相が悪くなるくらいやらかした思いだったけど。
いざコビーと話して、彼女と一緒に生きていく考えが強まっていくと。
不思議とだが、起きた時に覚えた不安はむさんしていた。
その理由の一つとなったのが、異世界でポンと出せた謎の門なんだけれど。
俺はこの力に、今では無限の自信を覚えている。
この力は――世界を変える。
それが吉兆と出るか、はたまた凶兆と出るかは、この後の展開次第だと思えた。
異世界門~スキル【門】で美味しい狩場や召喚獣を自由自在に出し入れする~ サカイヌツク @minimum
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