異世界門~スキル【門】で美味しい狩場や召喚獣を自由自在に出し入れする~
サカイヌツク
異世界生活編
第1話 俺の馬鹿!
「あー、異世界転移したい」
とぼやいたのは通勤電車の中だった。
スーツを着た周囲の社会人の目が痛いのなんのって。
自宅の最寄り駅に到着次第、気配を殺して陰に隠れた。
「恥ずかしかったぁ……口に出しちゃうなんて、俺、疲れてるな」
今度有給申請出して、たまには旅行にでも行こうかな。
俺こと
普通のサラリーマンだけどさ、彼女はまぁいいとして貯金ないとか馬鹿か?
平気平気だと思っていたけど、目に見えないストレスが溜まってるんだなと解釈。
なので
コンビニに寄って、サワーやカクテル系、梅酒、リキュールも買って。
大好きなカレーや牛のもつ煮、おつまみも頑張って買い込んだ、俺偉い!
話としては、酒に呑まれて、久しぶりに記憶をなくすほど飲んだことから始まる。
翌朝は午前六時に鳴るよう設定した目覚まし時計のデジタル音で目を覚ます。
ガバ! と上体を勢いよく起こして、ボサボサ頭で洗面所に向かった。
「……うー、昨日の夜の記憶がねぇ、やたら楽しかった印象はあるけど」
この『やたら楽しかった印象』とやらが何に起因しているのかはっきりとしなくてちょっと怖い。というか昨日は立ち入ってはいけない禁域に踏み入ったような感覚があって、でも思い出せない。
とりあえず顔を洗って水でボサボサ頭をとかし、平時通りパソコンを立ち上げようとリビングに戻って、そいつの存在を目で確認して驚きのあまりしりもちついてしまった。
「な……だ、誰だこの子」
九畳ほどのフローリングに薄灰色のカーペットが敷いてある隙間に、謎の寝具を敷いて寝ているぱっと見若い女の子がいる。っていうか壁際にある謎の扉はなんだっつーの!
冷静になろうとしても落ち着かないが、女の子を放置しておくわけにもいかないし、起こしてみるか。
「お、おい」
動揺した面持ちで彼女の肩に触れ、横に揺さぶると、猫耳のような頭の突起がぴくりと動いた。
「ん、お早う」
その子の毛髪は
瞳の色は綺麗な碧色をしていて、昔飼っていた猫を思い出す。
身長は百五十センチぐらいで、今時の子にしては小柄だし。
何より格好が漫画アニメなどで見る冒険者のものだった。
膝上までしかすそがない亜麻色の半ズボンと。
へそ出しルックの黒いインナーシャツだけ。
テーブルの上に乗っているショートソードなどの装備品は恐らく彼女のものだろう。
女の子は俺からじろじろと警戒の眼差しを向けられて、不思議そうに口を開いた。
「どうしたの? 昨日はじょう舌だったのに、今日は無口だね」
右の手のひらで顔を覆い隠し、その事態に膝がガクっと折れてしまった。
俺の様子に女の子はすこし戸惑っているみたいだ。
「ど、どうしたの? あたし何かいけないことしちゃったかな?」
「いやいや、悪いのだとしたらそれは俺だから」
その後、俺は彼女とコーヒーを飲みつつ昨日のことについて話し合うことにした。
◇ ◇ ◇
えっと、話を振り返ろう。
まず、彼女の名前はコビー、特徴もない普通の獣人の娘だという。
普通の獣人という時点で開いた口がふさがらないが、彼女は猫耳と尻尾を持っていた。
それで昨夜、彼女は冒険の旅路で外泊していたところ急にホームシックになって一人でしくしくと泣いていたら突然俺がどこからともなく現れたらしい。当初こそ警戒したものの、すでに泥酔しきった俺に地元にいる幼馴染の兄をほうふつとしたらしくすすめられたお酒を一緒に呑んで意気投合したようだ。
ここじゃあ寒いし、俺の家に来ない? と誘われ、謎の門をつたって俺の部屋にやって来たようだ。
彼女から示唆された謎の門はいぜんとしてリビングの壁際に存在している、ここ賃貸なのにどうすればいいんだ! っと、問題はそこじゃないよな。問題は彼女は明らかに地球外の生命体だということだろう。
「コビーさん」
「コビーでいいよリョウマ」
「ならコビー、実は俺達が昨夜やってしまったことは禁忌破りなんだ」
コビーは俺の話に耳をかたむけると、緊張からかたずをのんでいるようだった。
「禁忌破りって、あたし何をしちゃったの?」
「先ず、ここは君の住んでいる世界じゃない」
「う、うん、それはなんとなく察した。ここは王都の客室よりも便利だし」
コビーは異世界の人であることは違いない。
しかし、もしこのことをきっかけに異世界と地球の戦争が始まったとしたら?
その時の俺は戦犯過ぎて逃げようにも逃げられない絶望的な状況になるじゃないか!
だからコビーには悪いが、ここは体よく誤魔化して彼女を元の世界に返そう。
「本来なら俺達は同じ空間に存在してはいけない、だからコビーには元の世界に帰って欲しい」
「え……でも」
と言い、彼女はテーブルの下でお腹をなでている……まさか!
「あたし、リョウマの子を身籠ったかもしれないんだよ?」
俺の馬鹿ッッッ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます