第54話

「旗印……ですか?」


私が言っていることがよくわからないらしく、ヒマリはきょとんとしている。


「そう。繰り返しになるけど、教皇一派には退場してもらう。

それで、今教皇達に反発してる派閥に神聖王国の実権を握ってもらう。

クラリスを助けて、さらに戦争まで回避しようと思ったらもうそれしかない」


ここまでは何回か話しているから、ヒマリもよくわかっているようでこくこくと頷いている。


「でもね、それだけだと弱いんだ。

間違いなく神聖王国は混乱するだろうし、反発する人達も出てくる。

だから、ヒマリが必要になるの」


「あたしが、みんな仲良くしてねってお願いするような感じですか?」


「うん、まぁそんな感じかな?

神聖王国は聖女信仰が盛んな国でしょ?

だからこそ、新しく政権をもってもらう人達をヒマリが支持してるって示す必要があるの」


「なるほど……。それなら、あたし頑張ります!」


良い返事だ。

キリリと表情を引き締め、胸の前で拳を握って見せるヒマリに、気持ちだけは笑顔を向ける。

実際はもちろん無表情だけど。


「なるほど。確かに隊長のお考えはよく分かりました。

仰る通り、事後の混乱を抑えるには間違いなく有効でしょう。

ですが、それでしたら事前に陛下にお話されても良かったのでは?」


そうだよねぇ。

それだけなら陛下に話しても何の問題もない。

と言うより、陛下だって同じようなことはかんがえてるだろうし。


「そうだね。でも、その先のことは話したくなかったんだよねぇ」


「その先とは?」


私の言葉に、ヒマリは隊員達だけでなく、ヒギンスも頭上に疑問符を浮かべている。


「よーく考えてみて。

ヒマリを旗印にするだけだと、ヒマリは聖女としてずっと神聖王国にいなきゃいけなくなるんだよ」


「あ……。確かにそうなりますね……」


今になってその事実に思い至ったらしく、ヒマリが小声で呟く。


何しろ、新政権にとっては貴重な旗印だ。

ヒマリが望んでいたように、国外に出すなんて絶対にあり得ない。

それどころか、新政権内の有力な家柄に嫁がされる可能性が高い。

つまり、国内のトップが入れ替わり、クラリスの命は助かるが、ヒマリ自身は神聖王国から逃げ出す前の状況に戻ることになるわけだ。

それは良くないよねぇ。


「だからね、もう私達も思い切り目立とうと思う」


もう派手にね。

思いっ切りいっちゃうよ。


「それで、ヒマリの後ろにはイシュレア王国が控えてるんだぞって新政権の人達にも理解してもらう。

政権奪取の手伝いするんだもん。ヒマリの今後について私達も多少は口出し出来るでしょ?」


まぁ、いざとなったら新政権の連中を脅すなり何なりするし。


「ふむ……」


ヒギンスは難しい顔をして考え込んでいる。

それは当然だよね。

陛下に黙って思いっ切り神聖王国の内政に干渉するわけだもん。

そうなったら、当然今後の神聖王国の混乱にイシュレア王国も関わらないといけなくなるし。

陛下はいい顔しないだろうしね。

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