第53話

そうやって旅を続けて約一週間。


ヒマリも頑張ってくれて、幌馬車にも少しづつ慣れ、野営の時は料理も手伝ってくれるようになった。

こんな事言ったら不謹慎ではあるんだけど、何となくキャンプみたいで少し楽しい。


「思ったより順調に来れたっすね!」


ジェイクが森の中で調達して来た野鳥を捌きながら言うのに、みんなも頷いている。


道程は順調に進み、明日には神聖王国に入って先行しているフレバンとキースと合流出来る予定だ。


「正直、聖女様がこれほど逞しい方だとは思いませんでした」


アレクの言葉に、私と一緒にお決まりメニューの野菜スープを作っていたヒマリが笑顔を浮かべる。


「皆さんのおかげです!あたしはまだまだです」


「そんなことないよ。実際かなりの強行軍で来てるから。

よく頑張ってる」


「ありがとうございます……」


私が素直に称賛の言葉を送ると、ヒマリが照れたようにはにかむ。

でも、これは本当だ。

馬車酔いをすることは何回かあったけど、一度も弱音を吐いてないし。違うものは吐いてたけど。


「隊長ー!

隊長も甲斐甲斐しく聖女様のお世話をずっとしてて、お姉ちゃんみたいで可愛いですよー!」


「ちょっとカレン。危ないから離れなさい」


包丁を持っているのに、それを全く気にせず抱き着いて来るカレンを無理矢理引き離す。

それにお姉ちゃんみたいってなんだ。私の方が実際年上だっての。


「ところで隊長」


ずっと私達のやり取りを黙って見ていたヒギンスが口を開く。その表情は真剣そのものだ。


「どしたの?」


「そろそろ話して下さっても良いのではありませんか?

陛下にも話されていないことを何かお考えですよね?」


やっぱりヒギンスは気付くかぁ。


「うん、そうだねぇ。話しておこうか」


本当はフレバンやキースと合流してからみんなには話そうと思ってたんだけどね。


「基本的には陛下達にも話した通りだよ。

教皇一派にはまとめて退場してもらう」


生きたままか、殺してかはまだわからないけどね。

まぁ、そこは言わなくてもみんなわかるでしょ。

ヒマリは気付かないかもしれないけど、わざわざ教えて怖がらせる必要もないし。


「で、神聖王国の実権は今教皇に反発している人達にもってもらう。ここまではおーけー?」


私の言葉にみんなが頷く。


「でもね、たぶんそれだけだと弱い。

だからね、ヒマリ。貴女の力が必要になる」


「あたしですか?」


突然自分の名前が出てきょとんとしているヒマリの目をじっと見て言葉を続ける。


「ヒマリには、新しい神聖王国の旗印になってもらう」

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