第50話

「そ、そんな……」


私が教皇達に呆れ返っている横で、ヒマリが顔を真っ青にしてガタガタ震えている。

まぁ、そりゃこうなるか。


「正直、この決定は愚かとして言いようがないですが、既に日時までもが告知されてしまっています。

外交等の手段での処刑の阻止はほぼ不可能だろうと言う他ありません」


「いつ?」


震えるヒマリの背中をさすりながら尋ねる私に、宰相は難しい顔をしてみせる。


「来月の始め……とのことです」


「…………そう」


これは宰相もあんな顔する訳だ。思った以上に早い。

あと約半月か。

そもそもが神聖王国までは10日近くはかかるはずだし……。これはちょっと厄介かも。


「本来ならば、ある程度時間をかけて事前調査をした上で万全を期して欲しかったところだが……。

こうなっては猶予がない。

サキ、いけるか?」


「うーん……」


陛下の言葉に、ちらりと部屋の片隅に控えているヒギンスに視線を送る。

それに気付いたヒギンスは、小さく頷く。


「たぶん大丈夫です。

でも、結構な確率で荒事になると思います」


「やはりそうなるか……」


私の返答に、陛下と宰相が揃って難しい顔をして黙り込む。

たぶん、今二人が考えているのは、異国の、それもたった一人の少女を助ける為だけに動くべきなのかってことだと思う。

だって、荒事になった場合、最悪戦争だ。


それを避けるために慎重にことを進めるはずだったのに、ここに来てそうも言ってられなくなってしまった。

それなら、うちの国としてはもう手を引くべき。

為政者としてはそう判断してるはずだ。


でも……ねぇ?


「ねえヒマリ」


「は、はい?」


「大神殿にいる神官の中で、教皇の言いなりにならない派閥みたいのってある?

あるならどれくらいの規模?」


「え?えっと……。あたしもそんなに詳しくはないですけど、たぶん3割くらいかなと……」


んー、思ったより少ないな。


「なら、教皇の腹心的な神官はどのくらい?」


「そうですね……。枢機卿のうち……あ、枢機卿は五人いるんですけど。

三人は教皇様の言いなりですね。

他のお二人は教皇様とは距離を取ってるように見えました。

あ、そのうちのお一人がクラリス様のお父様です」


「なるほどねぇ」


「おい、サキ。お前何を企んでる?」


ヒマリの話を聞いて考え込む私に、陛下が怪しむような視線を向けてくる。


「え?決まってるじゃないですか」


陛下達だって、内心はクラリスを助けてあげたいって思ってるんでしょ?

だから悩んでたんだろうし。

なら、やる事は簡単よ。


「教皇一派。まとめて処理しちゃおうかなって」


穏便に済ませられないなら、当然そうなるよね?

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