第45話
「あの、辛いことを話させてしまってごめんなさい」
「え?私は全然大丈夫よ。
言ったでしょ?楽しんでやってたんだって。
だから、別に辛くもなんともないよ」
俯いたまま、か細い声で謝罪の言葉を口にするヒマリ。
別に謝るようなことなんて何もしてないのに。
「でも、あたしにはサキさんが大丈夫そうには見えないです」
「いや、本当に私は大丈夫……」
まだ少し青ざめたままの顔を私に向けながら言うヒマリに、否定しようとするも「だって!」と途中で言葉を遮られる。
「ヒマリ?」
突然の大声にびっくりする私を、ヒマリはその大きな瞳に溢れんばかりの涙を浮かべて見やる。
「だって、サキさん泣いてるじゃないですか!」
「は?私は泣いてなんて……」
言いながらそっと頬に触れて呆然としてしまう。
なんだこれ。
なんで濡れてるの?
え?私泣いてる?
「あれ?おかしいな。どうしたんだろ?
あー、みんなごめんね?
何なのいきなり。訳わかんないんだけど」
「サキ様」
混乱している私に、部屋の片隅から落ち着いた声がかけられる。
視線を向けると、レイシアとソフィアが真剣な眼差しでこちらを見ている。
「思い返せばわたくし。まだサキ様にお伝えしていないことがありました」
「……なに?」
なんでか涙が止まらなくて困ってるから、出来れば恨み言なら今度にして欲しいんだけどな。
「我が家門の起こした不始末により、サキ様に多大なご迷惑をおかけしたことを、心からお詫び申し上げます」
「私もです。両親に代わり、心からお詫び致します」
真剣な表情で告げたレイシアに続き、ソフィアまでも頭を下げる。
「え……。突然どうしたの二人とも。私のこと恨んでるでしょ?
二人の家族に、私が何したかわかってる?
レイシアは実際見てたでしょ?」
なんでこの二人が私に謝るの?
意味がわからない。私は二人の家族の仇なんだよ?
「あの時は、確かにとても恐ろしく思いました。ですが、兄はそれだけのことをしたのだと、よくわかっております。
サキ様はそのお立場でやるべき事をなさっただけ。
それを恨みに思うなど、わたくしの矜恃が許しませんわ」
「レイシアの言う通りです。
そればかりか、サキ様は私達のことを救ってくださったではありませんか」
「私はそんな……」
元から良い子だったソフィアだけならともかく、傲慢令嬢だったレイシアまで一体どうしちゃったんだ。
もう混乱し過ぎて訳がわからない。
「隊長」
今度は誰だと見てみれば、穏やかに微笑んでいるのはアレク。
その横ではジェイクがにこにこしている。
「隊長が就任なさってから、我が隊では任務で負傷した者すら一人もおりません。それはご存じですよね?」
もちろん知ってるので、こくりと頷く。
それが何だって言うの?
「あ、その顔!隊長わかってませんね!?
うちらの任務で、負傷者すらいないって有り得ないですからね!?
普通なら、何人か殉職してても不思議じゃないような任務ばっかりやってんですよ、うちって!!」
ジェイクの言葉に、何を言ってるんだと思う。
「そんなの当たり前でしょ。
私がいるのにみんなに怪我なんてさせる訳が無い」
いつの間にやら涙は止まったけど、みんなが突然こんな事を言い始めた理由がさっぱりわからない。
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