第36話

「助けたいって?そのクラリス様って子は今まずいことにでもなってるの?」


まぁ、聖女を取り込む為だけに婚約破棄なんてするくらいだから想像は付くけど。


「そうなんです……」


案の定聖女は弱々しく頷いて私の言葉を肯定する。


「なんでかわからないんですけど、何故かクラリス様は私をずっと虐めてたことにされてて。

聖女虐待の悪女って言われちゃってるんです。

全部でたらめなのに、いつの間にか証拠まで揃えられてて……」


やっぱりねぇ。

胸糞悪い話ではあるけど、一方的に婚約破棄するなら証拠の捏造くらいはやりそうだ。


「今クラリス様は神殿に幽閉されてるんです。

何もしてないのに罪人扱いされちゃってて……。

無罪を信じてくれてる神官様も中にはいるんですけど、教皇様の決定だから、神殿にいる他の神官様達は逆らえなくて」


まぁ、そりゃそうだよね。

そのクラリス様って子がどの程度の人望があったのかはわからないけど、いざとなったら皆自分の身が可愛いもんね。

教皇の意向に逆らったら、自分まで破滅しかねない。


「つまり、教皇やルシウスだっけ?

そいつ等を殺してクラリスって子を助ければいいのね?

ついでに神官も皆殺しにする?」


「え!?」


私の言葉に、何故か聖女がギョッとした顔をする。

なんでだ。

クラリスを助けるなら、それが一番手っ取り早いし確実でしょうに。


「いや、あたしとしては何もそこまでは……。

きちんとクラリス様の無罪が証明されて、助けることが出来ればそれで……」


また随分と甘いことを。

たぶんそれめっちゃ大変だぞ?


「サキよ。私としても出来れば穏便に済ませて欲しい。

流石にお前の言う通りにやると、神聖王国との戦争になるのは確実だ」


「えー」


それなら他の騎士団に任せて欲しいと思うんだけど……。

うちの仕事なのそれ?


「私達の仕業ってバレないようにすれば良くないですか?

たぶん証拠残さないで殺れますよ?」


きっとヒギンスとかに上手いこと作戦考えてもらえば大丈夫だと思うんだよね。

私はそーゆーの苦手だから全然思いつかないけど。


「仮にそうだとしても、その後の神聖王国の混乱は避けられないだろう?

それで一番割を食うのは無辜の民だ」


「そんなの私には……」


関係ないと言いかけたところで気付いた。

そうなったら、聖女が頑張って瘴気を浄化して神聖王国を平和にした意味もなくなっちゃうんだなって。


横目に見た聖女は、怯えたような不安そうな顔で私を見ている。

こんなか弱そうな子が、突然無理やり連れて来られた異世界で必死に頑張ったんだよね……。

うーん……。


「はぁ……。わかりました。何とか穏便に済ませる方法を考えてみます」


まぁ、実際考えるのはヒギンスだけど。


「!!……ありがとうございます!!」


私の心の声に気が付くはずもなく、聖女はようやく表情を和らげて喜んでいる。

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