第35話

「え?そうなの?」


予想外の聖女の言葉に、思わずきょとんとしてしまう。

まぁ、表情筋は相変わらずだから周りの誰にもわからないだろうけど。


「はい。

最初浄化しろって言われた時は、勝手に召喚していきなり何言ってるのって腹も立ちましたけど。

それでも、神殿の人達は優しかったし、困ってるならそれくらいは良いかなって思って」


優しいなぁ。

私だったら突然そんな身勝手なこと言われたら、絶対ブチ切れて皆殺しにして逃げてるわ。

やっぱり聖女に選ばれるような子は、私みたいな壊れた化け物とは違うんだね。



そんなことを考えていた私の前で「でも……」と呟いた聖女が俯いたままフルフルと震えている。


「?」


「浄化が終わって、さぁこれからどうしようかなって考えてる時に、教皇様はなんて言ったと思います!?」


何故か突然聖女が怒り出した。

どうしたのよ急に。反抗期か?


「いきなり教皇様の息子と結婚しろとか言い出したんですよ!?

ルシウス様……あ、教皇様の息子さんなんの名前なんですけど。

ルシウス様には婚約者がいたのに、一方的にそれを破棄してあたしを新しい婚約者に勝手に決めたんです!」


あぁ、それは……。

ちらっと視線を向けた先で、陛下が頷く。


「恐らく神殿側としては聖女を手放したくないのだろうな。

そのための手段として、結婚で身内に取り込もうということだろう」


やっぱりそうだよね。

その教皇の考えてることは想像が付く。

聖女信仰の盛んな国で、その聖女を身内に取り込む利益は計り知れないもん。


「クラリス様は……。

あ、クラリス様って言うのがルシウス様の元々の婚約者の方なんですけどね。

突然この世界に来てしまったあたしにすごく良くしてくれた方で。

本当に、本当に優しくて立派な方なんです。

それなのに、教皇様もルシウス様もクラリス様をあっさり捨てて……。

あたし、それがどうしても許せなくて!!」


あぁ、なるほど。

それで神聖王国を出奔したってことか。

正直、この世界の価値観で考えたら珍しいことでもない気はするけど、日本人の価値観で考えたら腹も立つだろうしね。


「つまり、結婚が嫌で逃げ出して来たから匿って欲しいってことかな?」


私個人としては同じ日本人だし、匿うくらいは全然構わない。

だけど、仮にも教皇の息子。

つまりは時期教皇になるだろう男の婚約者を匿うとなると、神聖王国との関係が確実に悪化すると思うんだけど。

その辺は陛下はどう思ってるんだろう?


「あ、いえ、その。

匿って欲しいってわけじゃなくて……いや、匿って欲しいは欲しいんですけど……」


慌てたように首を振ったり頷いたりしている聖女。

感情表現が豊かで羨ましい限りだわ。


「えっとですね、その。

あたしもイシュレア王国に居させて欲しいのはそうなんですけど。

それよりも、まずはクラリス様を助けたくて。

それを手伝って欲しいんです」

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