第32話

「えーと。色々聞きたいことはあるんですけど……」


うーん、実際聞きたいことがたくさんあるのは事実だし、聞いておいた方がいいことも頭ではわかってる。

でも、聞いたらもうなかったことには出来ないよねぇ。

それはめんどくさいしなぁ。


「もちろん情報の共有はさせてもらう。

そのためにここに来た訳だしな」


そんな私の内心とは裏腹に、陛下は話す気満々だし。

のんびりお茶を飲んでる王妃様の様子からして、王妃様もこのことは知ってた上に陛下を止める気はなさそうだし。

カレンは裏切り者だからそもそもあてにならないし。


「わかりました。じゃあ、一番気になることから聞いてもいいですか?」


周りからの援護も見込めなさそうだし、観念して話を聞く体勢になった私に、陛下が満足そうに頷く。


「聖女が会いに来たとかならまだわかるんです。

たぶんこっちに来る前は同じ国の人間だろうから、私のこと知ったら気になるかなって思うんで」


なんせ、いきなり知らない世界に連れて来られてしまったんだ。

他国に同じ境遇にある同郷の人間がいると知ったら気にならないわけがない。

まぁ、厳密には『流れ人』の私と『招き人』だと言うその聖女とは同じ境遇とは言えないかもしれないけどさ。


「あぁ、サキと同じニホン国の出身だと聞いている」


私の言葉に陛下は頷く。


「でもですよ。助けを求めてるってのがさっぱりわかんないんですよね。

ライオネア神聖王国は聖女信仰が盛んなんですよね?

それなら、その聖女だってすごい大切にされていたんじゃないですか?」


『招き人』を召喚する儀式は、王城や神殿で行われると聞いたことがある。

それなら、突然山の中に一人で放り出された私のようなことにはならないはず。

その私にしたって、宰相に連れられて王城に来てからは何不自由なく暮らせている。

まぁ、色々扱き使われてる気はするけど。


「うむ。粗雑に扱われていたりということはないようだ。

神聖王国の神殿で暮らしていたらしいが、生活面での不自由はなかったと聞いている。

だが……」


「何か問題があったんですか?」


難しい顔をしている陛下の様子に、何か待遇が変わるような出来事でもあったのかと気になる。

その聖女はもちろん全然知らない人だろうけど、同じ元日本人が何かしらの危害を加えられていたのなら良い気はしないし。


「ここからは本人に聞いてもらう方がいいかもしれんな。

呼んで来てくれ」


部屋の隅に控えていた侍従が、陛下の言葉で部屋を出て行く。

あぁ、聖女はもうこの王城に滞在してるのねってそれはそうか。


さて、どんな人なんだろうね。


軽く話しながら、お茶やお菓子を味わいながら待つこと暫し。


部屋の扉がノックされ、そこからゆっくりと入って来たのは、私と同じ黒髪と黒い瞳を持つ10代後半の少女だった。

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