第30話
「うん、やっぱり無理ですって。
私なんか領主になったら領民が可哀想ですよ」
今でこそ、近衛騎士団特別部隊長とかいう大層な肩書きがあるけど、元々の私は単なる女子大生だもん。
部隊長としてなんとかやれてるのも、細かいところをヒギンスや隊員達がカバーしてくれてるかるだし。
それがなきゃ、私なんてただの壊れた化け物だ。
「サキなら、案外と良い領主になるとわたくしも思うわよ?」
陛下と王妃様の前なのを気にせず、ぐでーっとだらしなくテーブルに突っ伏している私に、王妃様がクスクスと笑っている。
「むーりーでーすー」
日本にいた時に読んでいた異世界物の小説だと、だいたい異世界に来た人はものすごいチート能力を持っていたり、チート能力はない一般人とか言いながらも何かしらの分野で「いやいや、その知識って趣味のレベル超えてるよね?」って知識を持ってたりするけど、私にはそんなものはない。
そもそも、私が知ってるようなレベルの日本のものって、過去に来た『流れ人』や『招き人』が伝えていてすでにこの世界にあるしね。
なんせ、この手の小説で食文化革命の代名詞的な存在である(と私が勝手に思ってる)マヨネーズもばっちりあるもん。
「ねえ、カレン?貴女もサキは良い領主になると思うでしょ?」
ノートマン家の一件以来、常に私を護衛すると言って離れなくなってしまったカレンは、今も私のすぐ後ろに控えている。
私としては過保護なんじゃないかと思うんだけど、未だに伯爵に私の毒殺を指示した相手もわかっていないので、カレンの好きにさせている。
ヒギンスや他のみんなも心配してるしね。
「そうですね!こんなに可愛らしい領主が治める土地なら、私も移住したいです!
たぶん、うちの部隊みんな近衛辞めて隊長に付いて行きますね!」
「現役の近衛騎士が国王の前でそんなことを言ったらいかんだろ……」
「あらあら、サキは大人気ね」
カレンの言葉に苦笑する陛下と、楽しそうに笑っている王妃様。
私としてはそう言って貰えるのは嬉しいとは思うけど、確かに近衛騎士が言ったら不味いよねー。
みんなは私の部下である前に国に仕える騎士なわけだし。
この国の王族はその辺うるさくないから大丈夫なんだろうけど。
「それにしても、陛下がこの時間に王妃様のところにいるなんて珍しいですね」
そろそろ爵位と領地の話から逃げたかったので、話題を変えることにする。
実際、普段この時間は政務中の陛下が王妃様の部屋にいることはなかったし。
「あぁ、実はサキに話したいことがあってな。
今日は登城していると聞いたから、ここで待ってれば会えると思って待っていたんだ」
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