第29話

「まぁ、そんなわけでうちの屋敷のキャパもそろそろ限界みたいなんです」


ノートマン元伯爵の事件から特に何事もなく平和な日々が過ぎ、あっという間に三ヶ月が経った。


当主が鉱山へと送られた後、夫人が頑張って家を支えようとしていたらしいけど、事件を受けてこれまで付き合いのあった貴族や取り引きのあった商会はもちろん、親族達までもがあっさりとそっぽを向いてしまったらしい。


結果として、立ち行かなくなってしまったノートマン家は領地と爵位を返上することになった。

平民となった夫人と娘さんだけど、意外なことに夫人は予想外に逞しい人だったみたいで、得意だった刺繍の腕を活かしてどこかの仕立て屋で働ける事になったそうだ。

噂では、伯爵夫人だった時以上に活き活きとしているとか。


だけど、娘のレミアの方は完全に箱入りとして育てていたため、とてもじゃないけど市井で働くのは無理だと思ったらしく、なんと私の屋敷で雇って欲しいと頼んで来た。

どうやら、色んな事件絡みで没落したり取り潰された貴族の子女を雇い入れてたのを知っていたみたい。


まぁ、それは別に構わなかったから受け入れたんだけど、それでアーシャとセバスチャンに言われたんだよね。

屋敷の規模的に、もうそろそろ使用人の人数もいっぱいいっぱいだって。


いつものように部下達の訓練を見に王城へと来た帰り、王妃様のところへ顔を出したら、ちょうど陛下も王妃様のところへと来てたから良い機会なんでそのことを相談しているのが今の状況ね。


「だから散々爵位と領地を授けると言って来たではないか。

そうしておけば領地で雇い入れることも出来ただろう?」


「えー、それはちょっと」


陛下の言葉に、今日も仕事をしていない表情筋の代わりに言葉で不満を伝える。


確かに、これまでもうんざりするくらい言われて来た。

だけど、どっちも欲しくない。


そもそも、領地なんて貰っても治め方とか全然わかんないし。

爵位貰って本格的に貴族になるのもめんどくさいし。


ちなみに、私は平民だと言いたいんだけど、この国の昔からの取り決めで『流れ人』や『招き人』は国で保護した時点から伯爵相当の待遇だって決まってるんだよね。


だから、爵位こそないだけで待遇的には貴族みたいなもん。

まぁ、そのおかげで色々と助かったこともあるのは事実だから、それはそれで良いんだけど陛下は以前から正式な伯爵位と領地を授けるってしつこい。


理由は色々とあるんだろうけど、そのうちの一つとして、この国では実は今貴族が足りない。

そりゃそうだよね。

先の大戦から続く混乱の中で、たくさんの貴族家が取り潰されたりして来たんだもん。


それは仕方ないことだったんだけど、その人数があまりにも多すぎたせいで治める領主が不在になってしまった土地も多い。

今は王家が役人を派遣したりで暫定的に治めてるらしいけど、陛下としては正式な領主にきちんと任せたいわけだ。


その気持ちはもちろんわかるけど……。

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