第23話

「ほらほら、そのくらいにしといてやれ」


怯えて逃げようとするカレンを追いかけ回していると、ガイエスさんに止められた。


せっかく楽しく遊んでたのに、邪魔されるのは心外だけど、そう言えばここは夜会の会場。

周りの目もあるし、このくらいでゆるしてあげるか。


カレンを見ると、涙目になりながらガイエスさんの影に隠れている。

全くもう……。


「隊長、ノートマン伯爵が何やら話すようですぞ」


「そうなの?」


ヒギンスの言葉に辺りに目を向けると、一段高くなった場所で、何故か誇らしそうにしているノートマン伯爵の姿。


乾杯の挨拶でもするのか、使用人が来客にグラスを配って回っている。

私のところにも配りに来たので、とりあえずは受け取って大人しく待っていることにする。


「それでは、皆様にグラスが行き渡りましたかな!

本日は……」


何やら演説を始めたノートマン伯爵。

王国の現状がどーのこーのと延々と喋っている。


「話長いなー」


思わず呟く私に、近くにいる隊員達が笑いを堪えているのが見える。

いや、だって実際に長いんだから仕方なくない?


ほぼ聞き流してるけど、要約すればまだまだ国内は安定してないけど、みんなで力合わせて頑張りましょうってことでしょ?


素直にそれだけ言えばいいのに、何をそんなに長く話してるのやらだよ。

私は早くお菓子を食べたいんだ。


「……そして、本日は『流れ人』であられるヤマムラ部隊長殿にもお越し頂くという栄誉に預かりました!」


完全に話に飽きて、まだ手を付けてないお菓子に意識が100%向いていると、唐突に私の名前が呼ばれる。


やめてよ、みんなこっち見てるじゃん。

やめてやめて、なんで拍手が起きてるの。

こっち見んな。


私が心底嫌そうな顔をしている(つもり)なのに気が付くこともなく、ノートマン伯爵は相変わらず上機嫌で話し続けている。


「では、このめでたき日に乾杯!

王国に栄光あれ!!」


「王国に栄光あれ!」


やっと話が終わったらしく、乾杯の言葉と共に参列者が一斉にグラスを口に付ける。


ようやく終わったかと思いながら、私も渡されていたグラスに口を付け、中身を一口含んだところで止まる。


「みんなストップ」


「どうしました?」


突然の私の言葉に、同じように飲もうとしていた隊員達が動きを止める。


隊員達や、たまたま近くにいた人々の視線を受けながら、私は一口グラスの中身を飲む。

うん、間違いない。


「これ、毒だね」

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