第24話

「毒!?」


私の言葉に、周囲にざわめきが広まる。


オロオロしている貴族達を尻目に、隊員達はグラスの中身をサッと捨てている。

うん、誰も飲んではいないみたい。


「ヒギンス」


「はい、直ちに」


それだけ答えると、ヒギンスと隊員達が静かにその場を離れる。

とりあえず、何人か身柄を確保しておいてもらわないといけないからね。

細かいことまで言わないでも動いてくれるヒギンスとうちの隊員。素晴らしい。


「おい、サキ。お前は……あ~大丈夫なんだっけか」


「うん、ガイエスさん。この程度の毒なら私は何ともないよ」


そうなんだよね。私ってば、何故か毒が効かない体質になってるんだ。

『流れ人』は体の作りが根本的に違うからこの世界の毒が効かないのか、ただ単純に私の体質的に効きにくいのかはわからないけど。


仕事柄恨まれることが多いせいか、実は以前にも毒を盛られたことはあるんだけど、その時も知らずに飲んだけど全然平気だった。

ただ、すごく敏感にものすごく不味い毒の味は感じちゃうから不快は不快なんだけど。


「あの……口にされたようにお見受けしたのですが……。本当に毒が?」


私が一口飲んだのに平然としているものだから、近くにいた貴族が恐る恐るという様子で聞いてくる。


まぁ、知らない人から見たらそう見えるか。


「間違いないですよ。

えーっと、そこのメイドさん、ちょっと」


「は、はい!」


近くで呆然としていたメイドさんを呼んで、ちょっとお使いを頼む。


待つことしばし。メイドさんは大急ぎで頼んだものを持って来てくれた。


「よく見ててくださいね」


周りの人にも見えるように、メイドさんに持って来てもらったもの。

金魚鉢の中にグラスに残っていたワインを垂らす。


「これは……!!」


一瞬にしてお腹を上に向けて浮かんで来た金魚の姿に、周囲にいた人々から悲鳴があがる。


どうやら既に飲んでしまったらしく、顔を真っ青にして震えてる人もいる。


「みんな落ち着け!!

誰か体調が悪くなっている奴はいないか!?」


ガイエスさんが、会場中に響き渡る大声で問い掛ける。

私が見た感じ、倒れたりしてる人はいなさそう。

ということは、この毒は私だけを狙ったものと考えて良さそうだ。


「サキ、俺は会場の連中を落ち着かせる。

お前さんは毒の保存と……」


「うん、もうヒギンス達が動いてる」


「そうか。ならそっちは任せるぞ」


「了解」


会場は未だ混乱に包まれていて、もう夜会どころじゃない。

混乱してる参列者を宥めたり、グラスの中身を飲んでしまった人を念の為医師に見せたりの細々としたところはガイエスさんが何とかしてくれる。


それなら、私はわざわざご丁寧に毒をご馳走してくれた相手のところに行かないとね。


ヒギンス達なら、きっと上手くやってくれてるだろうから。

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