第21話

「まぁ、言いたいことはわかるがな。

夜会だって無意味に開かれている訳じゃないことは知ってるだろ?」


団長の言葉に頷く。


夜会と言うのは、貴族にとっては社交場という名の戦場だ。

ここで様々な情報を交わし、お互いの腹の中を探り合う。

王城内の権力の図式が変わろうとしている今こそ、貴族達にとっては重用な場所になるんだろう。


それに、それだけじゃない。

今夜のために用意された多くの人員や食材。

参加者達が用意する様々なドレスや装飾品。

それ以外にもとてもたくさん準備が必要になる。


夜会は、一度開かれるだけで多額のお金が動くことになる経済活動の一面もある。


そのことは私だって知っているし、実際にそれを目的として開かれる事だってある。

ただ、そう言う目的で夜会を開く貴族は、普段から税を上手く遣り繰りしていたり、税収以外の事業などで得た収益をその費用にしている。


でも、ノートマン伯爵の人柄を詳しく知ってるわけじゃないけど、今夜の夜会がそうだとは思えない。

そもそも、経済活動を目的とするような貴族達は、最近は慈善事業や奉仕活動にその資金を使ってるし。


その方が遥かに早く領民へと利益の還元が出来るし、理解も得やすいからね。

やっぱり、どんな理由があろうとも、夜会は貴族の贅沢な遊びだって思われやすいもん。


「おお!ヤマムラ部隊長殿!よくぞおいでくださった!」


掛けられた声に振り向けば、そこには今夜の主催者であるノートマン伯爵の姿。

後ろにいる女の子は娘さんかな?


「『流れ人』でもあられるヤマムラ部隊長殿にお越し頂けるとは光栄の極み!

今宵は是非ともごゆっくりお楽しみ頂きたい!」


「はぁ……ありがとうございます」


無駄に元気な伯爵のテンションに、私や近衛騎士団の面々がドン引きしているのには気付いていないのか、伯爵は上機嫌だ。


「さぁ、お前もヤマムラ部隊長殿にご挨拶をしなさい」


そう伯爵に背を押されて前におずおずと進み出る女の子。

控え目に言って今にも倒れそうな顔色をしている。

まぁ、体調不良じゃなくて私が怖いからだろうけど。

今夜は超強面の団長までいるしね。


「は、初めてご挨拶を致します。

ノートマン伯爵が娘、レミアと申します。

あの……せ、先日は大変なご無礼をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした……!!」


どうやら声が出るようになったらしいご令嬢は、今にも泣き出しそうな顔で頭を下げる。


「あー、もう気にしてないんで。

頭上げてください」


これじゃ私が虐めてるみたいじゃん。

ほら、ヒソヒソ貴族達の目にも怯えの色が浮かんじゃってるよ。

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