第20話
大広間の中は、既に大勢の招待客で賑わっていた。
今夜のために呼ばれたであろう楽団が優美な音楽を奏で、色とりどりの晴れやかな装いに身を包んだ人々が雑談に興じている。
確か、夜会のマナーとしては、まずは到着したら主催者に挨拶に行くんだっけ?
あまり夜会に出ることはない(そもそも呼ばれることがない)私だけど、そのくらいは知ってるもんね。
「おう!サキじゃねえか!」
ノートマン伯爵の姿を探してキョロキョロしていると、横手から大きな声で呼び掛けられる。
「あ、団長。こんばんは」
そこにいたのは、王室近衛騎士団の総団長を務めるガイエスさん。
一応私の上司になるこのおじさんは、身の丈2メートルはあるんじゃないかという巨漢で、右の額から頬にかけて大きな切り傷があるその顔は、控え目に言っても子どもが見たら泣き出すレベルで怖い。
それに、もう50歳を越えているらしいのにまだ現役バリバリだし、未だに近衛騎士団の誰よりも強い。
「珍しいな、お前が夜会に来るなんて」
私の後ろで姿勢を正して敬礼している隊員達に軽く敬礼を返しながらこちらへと近付いて来る。
「ちょっと、真横に立たないでくださいよ。ちっちゃく見える見えるじゃないですか」
「ガッハッハッ!俺がいなくてもお前はちっこいだろうが!」
私の抗議を豪快に笑い飛ばしながら、わしゃわしゃと頭を撫でてくる。
この人だって私の実年齢を知っているのに、毎度こうして子ども扱いをしてくるのは本当に困りものだ。
まぁ、変に怖がったりされるよりは面倒くさくなくて良いと言えば良いんだけど。
現に今も私達のやり取りを遠巻きに見ながら何かヒソヒソと囁いている貴族達が大勢いる。
会場に入った時はそう目立ってなかったと思うんだけど、団長の大声で注目を集めてしまったようだ。
いや、そもそもこれだけ大勢の騎士を引き連れてるんだから、時間の問題だったかな?
どっちにしろ、鬱陶しいのに変わりはない。
「おいおい、サキ。今はやめとけ」
ヒソヒソ貴族達に、私が険しい視線を向けたのに気が付いた団長が止めてくる。
「……ちっ」
「舌打ちすんな。さすがにここで力を使ったら、俺も立場上静観は出来んぞ?
始末書書きたいか?」
「……ならやめとく」
始末書だけで済むのかって思わなくもないけど、書くの面倒くさいし……。
「そもそも、今日の夜会って何のためにやってるんですかこれ。
今そんな場合じゃないと思うんですけど」
私が呼ばれたのはノートマン伯爵令嬢が私に非礼をしたお詫びってことらしいけど。
国は先の大戦からの復興中な上、先日の公爵の事件で王城内だってまだ混乱している。
呑気に夜会なんてしてる場合じゃないでしょ。
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