第19話

それからしばらくは夜会の準備をしたりで少し忙しかったけど、特に何も起きることなく夜会当日を迎えた。


ちなみに、私は夜会へは近衛の制服で参加する。


アーシャは良い機会とばかりに私にドレスを着せようとして来たけどね……。


でも、今の私の見た目や身長に合わせると、どうしても子ども用のドレスになってしまう。

中身は23歳の私としてはそれは嫌だったし、そもそもドレスその物が好きじゃない。

動きにくいし、コルセットで締め上げるからご飯食べられなくなるし……。


そんな訳で、普段の制服よりは少し立派な近衛騎士団の正装に身を包んだ私は、同じように正装している隊員達と屋敷で合流した。


ちなみに、普通は夜会に行くのにこんなに騎士を大勢連れて行くことはまずない。


でも、私には『流れ人』という肩書きがある。

国家レベルでの守護対象にされてしまっているこの肩書きがある以上、私が公的にどこかへ出掛ける時には、隊員達が護衛として付き添うことになってるんだ。

うちの隊員て、私の部下というだけじゃなくて護衛役でもあったりするからね。


まぁ、普段王城へ出勤したりする時は一人で行動してるけど、そこは気にしない。


ちなみに、今夜は一応夜会に参加するということで馬車だ。

カレンだけは同乗しているけど、他のみんなは馬に乗って馬車の周りを固めている。

私も馬が良かったなぁ……。背が足りなくて上手く乗れないけど。


窓の外に見える王都の風景をぼんやり眺めたり、カレンと軽く雑談をしているとあっという間にノートマン伯爵家へと到着した。

私の屋敷からそう遠くなかったこともあって、幸いなことにお尻は痛くならなかった。


「サキ・ヤマムラ部隊長様ですね、ようこそお越しくださいました」


馬車を降り、隊員を引き連れて伯爵家の正面玄関に近付くと、中から執事服に身を包んだ初老の男性が出迎えに出て来る。


招待状を見せると、そのまま会場まで案内してくれるという執事に続いて歩きながら何となしに屋敷の中を眺めてみる。


やたらと派手でキラキラ光る調度品が、至るところに置かれていて、なんと言うかこれは……。

うん、はっきり言って趣味が悪い。

うちの屋敷を見てみなさいよ、何もないから。


隊員達はさすがに何も言わないけど、軽く引いてるのが表情でわかる。

ジェイクなんて露骨に顔を顰めてるもんね。


「こちらでございます」


執事が大きな両開き扉の前で足を止めると、その左右に控えていた使用人がゆっくりと扉を開く。


さーて、何が出るか。

楽しい楽しい夜会の始まりだ。

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