第15話

「せめて身体強化くらいは隊長も使えたら、カレンのことも引き剥せるとは思うんすけどねぇ」


「あぁ、確かにそうね」


離れる気配のないカレンのことは、もう満足するまで好きにさせておくことにした私に、ジェイクがしみじみとした口調で言う。


身体強化と言うのは、その名の通り自分自身の身体能力を向上させる魔法だ。

比較的習得が簡単な魔法で、騎士のように戦いに身を置くものには必須とも言える。


そうそう、この世界には魔法があるのよね。

まぁ、そうじゃなきゃ『招き人』を召喚なんて出来ないわけだけど。


王城には魔法のスペシャリストを集めた魔術師団なんてのもいるし。


とは言っても、戦闘で自由自在に魔法を操って戦えるレベルの人はそう多くない。

と言うか、その多くない人達をかき集めたのが魔術師団だとも言える。


大抵の人は、ちょっとした火を起こすとか水を出すとか、そう言った生活の助けになるような魔法。

一般的に生活魔法と呼ばれるものしか使えない。


で、その生活魔法より少しだけ高度な魔法になるのが身体強化。

まぁ、一般人でも誰でも、少し訓練すれば使えるようなレベルの魔法だ。


でも、私はその身体強化すら使えない。

と言うか、生活魔法すら使えない。


それも当然だよね。

だって私この世界の人間じゃないんだもん。


初めて王城に来た時に、ボロボロだった私の治療をしてくれた魔術師が私の魔力についても調べてくれたけど、家具とかに使われている魔石と言うスイッチ代わりのものは起動させられているし、魔力がないわけではないらしい。

むしろ、魔力量だけなら高位の魔術師レベルで多いのだとか。


ただ、根本的に体の作りが違うのか。

その魔力を魔法として行使するための出力機的な機能が体に備わっていないそうだ。


こっちの世界に来た時に何故か幼くなったから、その時にこっちの世界に合わせて体も作り替えてくれれば良かったのに、私をこの世界へと飛ばした何者かは案外不親切らしい。

まぁ、そんな相手がいるのかすらわからないけど。


「隊長は魔法なんか使えなくてもいいんです!

可愛いからそれだけで充分なのです!」


「確かにその通り」


「むしろ、隊長が魔法まで使えたら俺ら要らなくね?」


「間違いない」


「キース、フレバン。マークまで……。

みんなして何してるの。訓練は?」


いつの間にか、訓練をしていたはずの他の隊員も戻って来ていて、執務室に書類を取りに行ってるヒギンス以外の全員が再集合している。


まぁ、私が訓練を見に来るとよくこうなる。

それで、戻って来たヒギンスに一喝されてみんなが慌てて訓練に戻るまでがお決まりの流れね。


案の定、今日もヒギンスに怒られて訓練に戻って行く騎士達を見ながら、そんな日常に少しだけ居心地のよさを感じてしまっている私がいた。

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