第11話

「んじゃ、行ってくるね」


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」


近衛騎士団の制服に身を包み、アーシャに見送られて屋敷を出た私は、一路王城を目指す。

本来なら馬車で行くべきらしいんだけど、私は基本徒歩通勤だ。


だって歩いても10分くらいだし。

それなら、馬車用意してる間に着くし。

馬車は揺れるからお尻痛くなるし。


そもそも、うちの部隊って他の近衛とは違ってちょっと特殊だしね。

本来なら近衛は王城や王族の警備をしているけど、うちは暗殺やら拷問やらが専門。

普段は特に仕事ないのよ。


だから、私も陛下達から呼ばれない限りは本来は出勤する必要もない。

それでも、最低でも三日に一度は出勤している。

それは何故か。


理由は単純で、部下達の顔を見に行ってるんだよね。

私と違って真面目な部下達は、毎日王城へ出勤している。

で、任務がない時も頑張って訓練したりしてるんだ。

だから、その訓練を見物がてら私も出勤してると言うわけ。


そうでもしないと、私なんて月イチ未満の出勤ペースになっちゃうからね。

よくよく考えると、実際に仕事あるのはそんな頻度なのに、あの屋敷の維持と使用人へのお給料を払ってもまだ余裕があるって、私へのお給料すごいよね。

まぁ、私の場合は『流れ人』だからってので多くなってるんだろうけどさ。

国レベルでの保護対象らしいから。


この二年で顔馴染みになった門番に挨拶を返しながら王城へ入ると、一路近衛の訓練場へ。

公爵の一件は片付いたし、多分みんないるでしょ。

後の事務処理はうちの仕事じゃないし。


当然と言えばそうなんだけど、訓練場があるのは軍関係の施設が建ち並んでいる方面になるから、道中すれ違ったりするのは騎士や兵士が多い。


彼等はいいね。

貴族達や文官達みたいにいちいち私に怯えない。

大して気にはしてないけど、それでもやっぱり通るだけでいちいち怯えられるのは少し鬱陶しいからね。

つい殺りたくなっちゃうのを我慢しなきゃいけない。


まぁ、騎士や兵士が実際私をどう思ってるかは知ったこっちゃないんだけど、みんながみんなご丁寧に敬礼までしてくれるから、私もそれに一応形だけは返しているとあっという間に訓練場に着いた。


少し前から元気な声や剣戟の音が聞こえて来てるから、どうやら今日もみんなは元気みたい。

他の隊の近衛もいるかもしれないけど、まぁほとんどがうちの部隊でしょ。


「あ、隊長ー!!」


私の姿に気がついた若い栗色の髪の騎士がこっちへと駆け寄ってくる。


「おはようございます!」


そう言って敬礼するのは、ジェイクという名前の騎士。

この前、レイシアをお風呂と着替えに連れて行ってくれた子だね。

部隊では最年少で、近衛歴もまだ短いんだけど、私と違って人当たりもいい子だからあーゆーことをよく任せてる。

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