第3話
三年前のあの日。
当時大学二年生だった私、山村咲はいつものようにバイトを終えて一人暮らしのアパートへと帰ろうとしていた。
地方出身の私は、大学入学を機に上京。
バイトにサークル。それに初めて出来た彼氏にと忙しくも楽しい日々を過ごしていた。
カンカンと良い音を鳴らしながらアパートの階段を上り、二階にある自分の部屋のドアを開けた瞬間。
私は見知らぬ森の中にいた。
「……は?」
何が起きたかわからず、呆然とする私の前に広がる漆黒の闇に包まれた森。
微かに聞こえてくるケモノの遠吠えは、本当ならとても恐ろしいんだろうけど、不思議と何も感じなかった。
今思えば、きっとこの時から既に私は壊れていたんだと思う。
それが突然異世界に来てしまった衝撃からなのか、それとも私は日本にいた時から元々壊れた人間だったのかはわからないけど。
そんな私でも、それからの一年は地獄だったなと今でも思う。
森の中を歩けば盗賊に襲われ、やっと人里を見つけたかと思えば親切な仮面を被った連中に騙され売られそうになる日々。
そうした中でも、何とか自分の身を守ることが出来たのは、いつの間にか身に付いた不思議な能力のおかげだろう。
それに気が付いたのは、まだこの世界に飛ばされたばかりの頃。
初めて盗賊に襲われた時だった。
なんの荷物も持ってなかった私だけど、それなら捕まえて売ろうとしたのか、自分達の欲望の捌け口としようとしたのか。
どっちかはわからないけど、兎に角そいつらは私を捕らえようと追い掛けて来た。
必死に走って逃げていたけど、慣れない森の中だったこともあり、私は木の根に躓いて転んでしまった。
もう捕まる!
そう思った瞬間、私は反射的に「来ないで!」と叫んでいた。
「な……なんだ!?体が動かねえ!」
私を捕らえようとした体勢のまま固まったようにしている盗賊達。
何が起きたのかわからないままその場は逃げた私だけど、その後も襲われる度に同じようなことが続いた。
まさか私がやってるの?
そう思った私は、自分を襲って来る盗賊や、騙そうとして来る連中を実験台にこの能力の検証を始めた。
その結果として分かったのは、
『私の視界内にいる相手に限り、言葉に出して言った全ての現象を引き起こすことが出来る』
ということ。
動きや言葉を封じるだけではなく、相手の命を奪うことも、また逆に助けることすらも可能。
とんでもない力だ。
でも、相手の心を支配することだけは出来なかった。
どんなに私が優しくして欲しい。助けて欲しいと願っても、それに応えてくれる人は誰もいなかったから。
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