第2話

頭の後ろで手を組みながら、鼻歌も歌って機嫌よく王城内を歩く私の姿を見掛けると、全ての人がサッと避ける。


それは歩きやすくなるから大歓迎なんだけど……。


「うるさいな。黙って」


こっちを見ながら、何かヒソヒソと囁きあっていた令嬢の集団に、視線だけ向けてそう告げる。


令嬢達は驚いたように口をパクパクとさせているけど、その口から声が出ることはない。

とうとう泣き出して逃げ去っていったけど、静かになって何より。

まぁ、何日かすれば声はまた出るようになるしね。


その様子を見ていた周囲の人達もいつの間にか居なくなり、王城の廊下を静寂が包み込む。

うん、静かで良いね。


そのまま機嫌よくさらに王城内を歩くことしばし。

見えて来たのは豪華な扉に、そこを守るように立つ大きな体の兵士。

この制服は近衛の……どの部隊だっけ。


「報告に来たんだけど。中にいる?」


見上げるくらい大柄な兵士にそう聞くと、答えを待たずに部屋の扉をノックする。

確か陛下の執務室だったよねここ。


中から聞こえた返事に、迷いなく扉に手をかける私に兵士達が少し困ったような様子だったけど、それを一切気にすることなく執務室に入る。


中に入ると、目に飛び込んで来るのは立派な執務机に座るおじさんと、その後ろに控えるように立つ青年。

手前に置かれたソファには、綺麗なお姉さんが座っている。


その中から、机に座っているおじさんに目を向けると声をかける。


「陛下、終わったんで報告に来ました」


「おお、そうか」


そう答えるのは、短い銀髪を綺麗にならし、青い瞳の渋いおじさん。

まぁ、おじさんと言ってもまだ30歳くらいだろうからお兄さんで呼んであげないと拗ねてしまう年齢かもしれない。


「公爵は全て話しそうか?」


「うん、たぶん今ごろ部下がくわしく話を聞いてると思います」


「そうか。さすが早いな」


私の言葉に満足そうに頷くと、陛下は後ろに控えていた茶髪にメガネをしたインテリイケメン的な人に何やら指示を出している。


ちなみに、このインテリイケメンは宰相らしく、私を拾った相手でもある。

まぁ、あんまり好きじゃないんだけど。

もういっそ殺っちゃおうかな。


「サキ……貴女は大丈夫なの?」


そんなことを考えていた私に、心配そうに声を掛けて来たお姉さん。

見事な金髪に、美しい紫の瞳をもつこの綺麗な人は王妃様。


この人は、誰もが怯える私のことを何故かいつも心配してくれている優しい人だから好きだ。

すごく美味しいお菓子もくれるし。


「うん、私は大丈夫だよ、王妃様」


この人のことは好きだから、にっこりと笑って返事をしようかなと思ったのに、私の表情筋はぴくりとも動かない。


やっぱり私の表情筋は壊れているみたい。

いや、表情筋だけじゃない。


三年前のあの日から、きっと私は壊れたままなんだ。

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