第4話 マジで無理

はっと目が覚めた。

辺りを見渡すと、真っ暗になっている家の近くの交差点と、

自分をうっすらと照らす電灯。物音1つ無い空間が広がり、

背中には、シュラと巳雨がもたれかかって眠っていた。

(…ここは…まさか、これも俺と同じ…?いや、それよりも…)

「おい、起きろ。宝木、シュラ。敵が来ている可能性がある。」

まだ眠っている巳雨とシュラの事を軽く揺さぶりながら、

ポケットから携帯を出す。

幸い、圏外ではなく、充電もあるので、助けには困らない。

しかし、先程現れた男、手賀てがによって送り込まれた空間、

そして、天使以外の人間離れした力を使えるであろう、自分以外の人間と

狩霊屋かりたまやという謎の組織。

どちらにせよ警戒するに越したことは無い。

だが、もしも自分以上の力を持つ、同じ様な能力者がいるとしたら。

それは共闘の手段にもなり、敵対の合図にも捉えられる。

あり得ない状況の連続の中、江に再び新たな災難が降りかかるのは

分かりきっていたことだ。しかし、まだ彼らは高校生であることが、その事実を

〝恐怖〟と定義づけることが出来るのだ。


「〈罰砲バッポウ〉、〝核参〟カクサン。」

突然、江の耳の上を一直線に何かが通り過ぎていった。

「やっぱり…いるのか。」

交差点から視えない壁にシュラと巳雨を抱えて隠れ、壁から少し顔を出し、

その正体を確認する。

電灯の奥に、誰かがいる。

交差点の中心を照らしていた光は、次第に途切れ途切れになり、ついに、

辺りが何も見えなくなる。

それと同時に、その正体が雲の間から覗き込んだ月に照らされ、あらわになる。

そこには、緑とピンクの蛍光色に輝く目を持った、謎の青年だった。

黒い長ズボンに、赤色の半袖のTシャツ、そして何よりも、肩から溢れ出ている

光が、江に自分と同じ様な、人間を超越した存在だと知らせているようだ。

(…交渉は無理そうだな。)

男の足音が近づいていく中、男の声が聞こえてきた。

「柄谷江、高校2年生の男子生徒。我々が警戒していた一級天使の二人を

一撃で撃破。新たなタマシイガリとして天使たちに刺客を向けられている、

〈魂合〉タイプの能力者…逸材であることに間違いはない。」

すらすらと口から出てくる情報一つ一つに、偽りはない。

「…あなたは何者ですか。」

動揺したのだろう。江は思わず質問したことを後悔する。

なぜなら、口を開いた瞬間に、眼の前の壁が吹っ飛んだからである。

パラパラと壁だったモノの残骸が崩れ、男と視線が合ってしまった。

「どうも、狩霊屋の第参支部、副主任の間田蛍光はざまだひかりだ。

早速で悪いが、お前ら二人の身柄を確保させてもらう。」

間田と名乗った男はそう言うと、手を宙に向かって大きく振り上げる。

手の動きに合わせるように、地面の中から二本のピンク色と緑色のレーザーのようなものが飛び出す。

二本の光線は、宙で形を変えながら、江達に向かって竜巻のように捻れながら

襲いかかる。幸い、〈魂合者〉として目覚めていたのが、渡り合える手段となった。

「〈悪刀マガタチ〉、〝黒均守クロウンモ〟!」

「…!出たな、死神の〈真髄しんずい〉…!」

江の手から生み出された刀が、2つの襲いかかる光線をプツンと断ち切る。

光線は切られると同時にパッと消滅し、そこには穴の空いた地面が残った。

黒いローブと頭上に紋様を浮かび上がらせた姿に変わった江を見た間田は

背中から拳銃を取り出す。

「その銃で、どうにか出来るとでも?」

「舐めないほうが良いぞ、なりたて…お前は別に能力者の種類は知らんだろう?」

「…種類?」

「ああ、俺達タマシイガリには、天使に対抗できる力の条件として、

〝魂〟が必ず必要となる。だがな、能力の発現と方法は、全然違う。

例えば、俺みたいな〈魂製〉タイプはな。」

間田が江に向かって弾丸を撃ち込む。江はそれを再び〈悪刀〉で対処しようと

刀を右手から左手に持ち替え、刀を振るった。

「〈悪刀〉、〝金…」


しかしその瞬間、信じがたいことが眼の前で起きた。

「〈罰砲バッポウ〉、〝左変サヘン〟」

眼の前にあった筈の弾丸が、視界から消える。

大きく斬りかかろうとしたため、隙が出来てしまった。

ガラ空きになった江の背中を、間田は逃さない。

「終わりだ。観念しろ。〈罰砲〉〝電立〟」

「しまっ…」

緑色の稲妻が、後ろで光る。しかし、その光が江に当たることは無かった。

そう、〈魂合者〉として目覚めたのは江だけでは無いのだ。

「〈悪刀〉〝空霧カラギリ〟!」

「…!参ったな…まさかお前も目覚めてたのか、最強の死神シュラ!」

「シュラ!」

「誠に申し訳御座いません!江様!ここからは押し通します!」

電撃は、目覚めたシュラの刀によって吸収され、そしてその力を放つ事のできる

新たな技、〝空霧〟

間田の光線には、制限がある。

能力、〈罰砲〉は2つの効果が宿った光線を放つ能力であり、

緑色の〝停止〟そして、ピンク色の〝重量〟の能力をそれぞれ持っている。

しかし、罰砲は相手が多いだけ、その効果は分散される。


シュラに光線が集中し、江に集まっていた光線が一気に移動する。

(チッ…。だが最悪シュラさえ倒せば…!)

二本の線は宙で弧を描きながら、シュラへと襲いかかる。


だが、間田が瞬きをした隙に予想もしなかった事態が発生した。

今、目の前は交差点だったのにも関わらず、なぜか自分は血を流しながら

冷たいコンクリートの地面に倒れていたのである。

(何をされた…⁉シュラの〝悪刀〟の影響なのか…⁉)

「シュラ、まだコイツ起きてんぞ。」

「いえ、流石にあの一撃を喰らったのですから、一日は動けないでしょう。」

「え…私寝てたの?」

そんな間田のもとに、3つの足音が聞こえてくる。

即座に起き上がろうと体に力を込めると、頭がひび割れるような感覚に見舞われる。

「グッ…」

「…にしても、まさかこの能力にも種類があるとはな。そこら辺詳しく

教えてもらおうか、間田さん。」


間田の思考が、シュラを倒すことに完全に回った瞬間、江はある策を実行した。


それは、〝自分なりの新たな技〟


そもそも、〈悪刀〉という能力は天界を脅かす悪意を断つために、

〝悪〟を用いて戦うために生まれたもの。

流派や型を様々な形で合わせることによって、一つの技を完成させる。


江は、それを直感でやってみせた。


生まれて持ち合わせた、異次元の関節の柔らかさと、瞬時に繰り出す筋肉の縮小

によってそれを可能にしてみせた。


間田が目を閉じる約0.0008前、〈悪刀〉を使用し、一気に間田との距離を詰める。

そのまま間田が瞼を下ろした瞬間、シュラの前に回り込み、

自分の筋力と関節を腕の一点に集中させ、切りかかった。

その秒数、0.0000000000000000000000000009秒。

痛みと理解が追いつかぬまま、間田はその場で斬られた。


「どうやって俺を斬った…」

「俺、変な体質だからさ、自分が思ったよりも力があるわけで

筋肉とか関節とか全部集中させられるんだよね、一箇所に。」

「なるほど…江様の〈悪刀〉は変幻自在の力に成りうるのですか…!」

「待って、私全然ついていけてないんだけど…」

間田を拘束し、家に帰るべくスマホのマップを見ながら移動している三人は

ここが先程までいた公園から少しだけ離れている場所である事の違和感と

一時の事態の解決に心身を削りながらも安堵していた。

「そういえば何かこっちに飛ばされた時に、かにたまや?

みたいな事言ってたけど…結局アンタ達は何なんだ?」

突然の襲撃のせいで忘れていたが、おそらく自分のような能力を持つ者が

組織を作っているのだと考えた江は、その答えを持っているであろう間田に

問いかけていた。

「狩霊屋だ、か・り・た・ま・や。60年前にお前らもご存知天使との

戦闘のために組まれた組織だ。年々増えていく能力者の保護と始末も行ってる。」

「俺達の場合は何でなんだ?」

「お前らの場合は〝勧誘〟だ。最近厄介な事が起きてな。

連携を取りたかったんだが、戦えるかどうかの力仕事で俺が担当に回されたワケ。」

「…最初から言っとけばよかったのに。」

「最近のタマシイガリは日和っこなんですね…僕は残念です。」

「待ってくれ、問題っていうのは何なんだ?」

間田が少し静かになった後、しばらくして大きく溜息をついて、

諦めたように口を開いた。

「全国各地で暴れまわってる、天使をひたすら殺してるヤバい能力者、

岡元呉羽おかもとくれは。そいつの発見と交渉だ。」

間田はそれを伝えると、そのまま眠ってしまった。

「…どうすんだ、これ。」

「知らないし…っていうか、何でこの人の助け来ないの?」

起こすのも面倒になっていた江と巳雨は、動かなくなった間田を引きずりながら

交差点を抜けた。シュラもそれに続くように後ろを小さな体で追いかけた。


そんな3人の元に、新たな災難が降り掛かった。


上から、バララララとプロベラ音がしたかと思うと、

突然、3人のいる場所が眩しく照らされる。

「…え、まだ終わらせてくれないの?」

「もういや…早く帰りたい。」

そして、眼の前に数人の影が現れた。

「江様、おそらくさっき言ってた狩霊屋とやらです。」

江と巳雨はその場で座り込み、間田よりも大きなため息をつき、

ボソッと吐き捨てた。


『マジで無理…。』

                続く。

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終焉のタマシイガリ ゆきぃ @sarazawa

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