第3話 狩霊屋

清天使会。清天学園の頂点に君臨する7人の天使のつどい。

約1億年以上前から神によって創り出された天使たちが、

天敵である悪魔から種族の滅亡を阻止するべく立ち上げたモノ。

現在から5万年前までは、人々を救い、悪魔を狩る。

そんな平和だった筈だった天使会の初代の7人は、




およそ3万年前に訪れた、〈天使改革てんしかいかく〉により、

平穏と慈愛に溢れたこれまでの平和は崩れ、そして訪れるのだ。


悪魔、天使に、第三者の人間を巻き込んだ争いが。




人目がつかない、遥か上空に建つ清天学園。

以前、学園内でもトップの戦力を誇る一級天使の二人、

ウィスとジャイルを派遣し、史上最強の剣士であるシュラを捕らえるよう

命じたが、付近の街を荒らしている中、シュラの認めた魂合者こんごうしゃである

柄谷江からやこうが突如覚醒を果たし、人質を取っていたにも

関わらず、完全に敗北。契約していた〈海月の天使キクラゲ〉も消滅し、

全天使勢力が柄谷江を標的に動き出していた。



そんな中、二人の天使が討伐された同時刻。各地に派遣した一級天使70人含めた

天使400人の反応が消滅した。

この件によって、柄谷江へと向けられていた多くの作戦や時間は、

一瞬にして、各地に派遣した天使の生存確認へと回されていった…。


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「それで?そのシュラと結んだ契約で、柄谷もその能力を使えるようになったと?」

清天使会からの刺客の天使を撃破したシュラと江は、先程まで眠っていた

宝木巳雨たからぎみうの前で、正座させられていた。

冷たい汗をツーっと首から垂らし、カタカタと震える江と、

何が起こっているのか全く理解しておらず、きょとんとした顔で座るシュラを、

禍々しい何かを纏った巳雨は呪いの籠もった目で見下ろしていた。

「いや、あのですね、宝木さん。俺だって知らなかったんですよ…

そんな状況でいきなり襲撃にあって、そしたらどうです?いけるのでは

と思ってたら天使の輪っかみたいなの頭の上に出てきたし…」

「江様!あれは輪っかではなく、魂合痕こんごうこんです!」

「…シュラ。頼む。後で飯食わせてやるから少し静かにしてくれ。な?」

「…それはそうと柄谷には、さ・ん・ざ・ん誤魔化されてたけど…

今から私の口にした全ての言葉を一語も聞き落とさない事。分かった?」

さんざん逃げ回った挙げ句、結局最初の目的だったはずの、告白阻止を

しようとしていた事が逆に首を絞める結果になった。

シュラも、江も数分しか能力の〈悪刀マガタチ〉を使っていないとはいえ、

キクラゲの攻撃を避けるために体力を消耗しすぎたため、正直、正座しているだけでもキツイ。

(…柄谷江。しっかりしろ。今この状況を打開できる策は…)

「あ、言っておくけど、今逃げようとか考えてたらコッチにも方法あるからね。」

完全に思考も読まれている中、逃げる方法は、無い。

「こほん…じゃあ、言うよ。私、結構前から、」

(不味いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!この状況は…)

そもそも、運ぶ場所を間違えたのだ。普通に、公園のベンチや、飲食店ならば

大胆な行動をせずとも解決はできた。

しかし、面倒くさがった過去の自分は、近くの人目の付かない公園を選んだ。

それにより、体力が有り余った巳雨と、体力切れの自分が今の状況を作った。

「柄谷、あなたの事が、」

(あ、駄目だこれ…)

江が完全に諦め、目をつぶって顔を下げた。

(…これでOKしたら、関係は良好。いつもの3人がより仲良くなるだけ。

でも、その選択肢を取ってしまったら…)

【良かった…これで良いんだ。私の人生…】

過去の暗がりが、その感情を遮りに来るのだ。

そう。まずは向き合うことから始めないと、どうしたって、嫌な未来以外は無い。

その中間地点が、この柄谷江という人間なのだから。

しかし、運がいいのか、悪いのか、運と過去が災難たすけを呼ぶ。

「す…」

「あー。居た居た、社長。アレじゃないですか?柄谷江。」

突如、公園の丁度真ん中に立つ時計の上から、しがれながらも、良く通った声が

聞こえる。3人の視線がその方向へと集まる。

時計の上に立っていたのは、黒いボサボサの髪の毛をむしりながら、

あくびをするサングラスの男だった。

白色のTシャツと黒色の短パンが夕日に照らされながら怪しく光る。

「…まさか天使の」

「おいおい。あんな連中と一緒にすんな。俺は手賀双三てがふたみ

狩霊屋かりたまやに所属する、第一支部の職員の1人だ。」

手賀と名乗った男は、ポケットからライターを出すと、自分の髪の毛にじか

炎を点火した。

「…!何やってんの⁉早く消さな…」

「お待ち下さい!巳雨様、江様!あの者…魂合者です!」

手賀の髪の毛に点いた炎が、キィィィンンと音を立てて光り始めた。

「正解!じゃあ、お三方。ちょっと着いてきてもらうぜ!」

シュラが悪刀を使用する直前で、赤く光る炎の中に吸い込まれ、それに続いて

江と巳雨も一瞬でその場から消えてしまった。

「はい、仕事おーわり。これで6連休!」

時計台から降りた手賀は機嫌よく口笛を吹きながら、飲み屋で溢れかえる

通りへと向かった。




各地で天使の反応が消え、その原因の捜索に向かっていた天使達は、

ある窮地に立たされていた。

「に、逃げろ!このままじゃ全滅だ…」

「クソっ!何でアイツ、〈魂製こんせい〉出来るんだ…!」

日本時刻16時30分、ある山奥で、積み重なった天使の残骸を発見。

至急本部に連絡をしようとした天使が、突然現れた若い日本人男性の拳を受け、

一瞬にして死亡。緊張と恐怖で無闇に切りかかった二級天使のおよそ8名が、

男の拳一振りで戦闘不能になる。残された二級天使達は現在逃走中。

しかし、天使たちが不幸だったのは、その男というのが、日本に滞在する

タマシイガリの中でも、五本指に入る実力を持っていたことだろう。

「やっと見つけた。」

「ッ…!全員迎え撃てッ!〈天使の亀ミズガメ〉!」

男の名前は、岡元呉羽おかもとくれは

タマシイガリが天使に支配される時代に終止符を打った最強の人間であり、

その能力は、魂を預けることで力を開放する魂合者と違い、

生まれながらに持った力で天使を討伐する、魂製者こんせいしゃとして

天使を狩り続けている。

「…〈時刑、8秒〉。」

能力の名は、〈時刑執行人〉。自分の労働した時間、につき、約9000トンの

衝撃を、対象に放つことが出来る。秒数が増えるほど衝撃は、命中率と威力を上げ、

「潰れろ。クソ天使共。」

「ガッ…」

物理攻撃のを避けやすい天使達を軽く捻り潰すことが出来る。

「さて、今日は帰って寝よう…明日は八戸やっこの誕生日だしな。」

呉羽が去った後には、衝撃で潰された森と、その中で下敷きになった

天使たち、およそ300人の死体が転がっていた。

                           

                         続く。

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