第41話『百鬼夜行』【怖さ★★★★】

「おお~!!すごい魔物の数ね!これが"出遭うと死んでしまう"といわれている『百鬼夜行』!?」

 勇者エリッサは崖の上から魔物の大軍を眺める。


「バカ!見つかるだろ!それに、産後間もないのだから、少しは大人しくしてくれ」

 戦士で勇者エリッサの旦那のタンクがエリッサの首元の軽鎧を掴み、猫を持つように引きずり下ろす。

「やん!パパったら、みんな見てるのに……大・胆」

 

「仕事の時はパパって言うな――!!」

 タンクが怒鳴り声を上げる。


 俺達は勇者パーティー『ラストリゾート(最後の砦)』を結成。勇者エリッサ、戦士タンク、剣聖フロラディーテ(通称フローラ)、アサシン(双剣上位クラス)トイレット・スリーノック・ハナフォサン(通称ハナ)、そして怪談師の俺で、北の大地で目撃された『百鬼夜行』の討伐任務にあたっていた。


「ハナちゃんの『百鬼夜行日』ズバリ当たったわね」

 白銀の鎧を着たフローラが茶染めの忍び装束のような格好のハナに向けて話す。


「お任せください!呪いの書物『拾芥抄しゅうがいしょう』によれば、百鬼夜行日は10月28日の丑三つ時!呪具集めが役に立ちました!」

 ハナは、ない胸を張り誇らしげにポーズを取る。


「それでは、はじめるぞ」

 俺は数枚の札を取り出し、百鬼夜行の上空へ投げると呪文を唱える。


「カタシハヤ、エカセニクリニ、タ(く)メルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコ[えひ]ニケリ」


 俺が投げた札が上空で五芒星を型どり、魔物の大軍に無数の光の矢が降り注ぐ。


『ぐおおおぉぉぉぉぉぉ――!!!!!!』

 大半の魔物は光の矢で浄化される。


「おおお!効果覿面こうかてきめん!あとはS級ランクの魔物くらいだね!行こう!みんな!」

 勇者エリッサは真っ先に崖を飛び降り、魔物の群れに飛び込む!


「だから、お前は後方待機と言っただろうが――!!!!!!!!」

 タンクが慌ててエリッサを追いかける。エリッサの相手は大変そうだ……。


「マスキ部隊長!行ってきます!」

 ハナはその場でスゥ――っと姿を消す。


「マスキさん、行ってきます!……ん」

 フローラは俺に近づき、目をつむる。


 え!?S級難易度のクエスト前に『行ってきますのチュー』するの?


 さっき抱き抱えられたエリッサを見て、羨ましく思ったのだろう……。


 仕方なく俺はフローラに軽い口づけをする。


「んっ……力が沸いてきました!!マスキさん!!行ってきま――す!!」


 フローラは目の前の魔物を小間切にしながら突進した。

 さて、俺は後方援護だ。仲間の体力に気をつけながら、補助札と回復札を用意する。


「勇者エリッサ!いっきまぁ~す!!」

  

 ズッバァァ――ン!!


 先の戦いで父の形見である『クサナギの剣』を手にしたエリッサは、なんというか……そう、無双であった。


「エリッサ様~!!私にも残しておいてください~!!」

 フローラがエリッサの後を追いながらウズウズしていた。


 ズズズスズ…………。


「きゃあ!」

 突如、エリッサが後方に弾け飛び、タンクが受け止める。


「バカ!無闇に前へ出るな!!しかし……なんだありゃ?」 


 エリッサを吹き飛ばした方に目を向けると、黒い、闇と言った方が分かりやすい、どす黒いもやが上空へ立ち上っていった!


『ウフフフフフフ……ワタシ……キレイ?』


 闇の中央をよく見ると、フローラより少し背の低い少女が、口を頬まで裂け、ニタァと不気味に微笑む。俺は背筋に悪寒が走り、皆に告げる。


「そいつが『魔王 口裂け女』だ!!気をつけろ!!」


 ふいに口裂け女の背後にハナが忍び寄る。


りました!!」


 双剣を口裂け女の喉元に当てた瞬間、フローラが叫んだ!


「ハナちゃん待って!!その娘……アナスタシア王女よ!!私、数年前に一度だけ会ったことがあるの!!間違いないわ!!」


『ネエ……ワタシ……キレイ?』


 ズズズスズ……!!


「え!?きゃぁ――!!」

 ハナが闇の力で吹き飛ばされる。


「ハナ!!」

 俺はハナの吹き飛ばされた方へダメージ軽減の札を投げ、出現させた魔方陣の中にハナを落とす。


 なんだって!?


 魔王 口裂け女が……アナスタシア王女!?


 確かに、王女は数年前から人前に姿を現さず、死亡説まで噂されていたが……。


『そこまでだ!!』

 突如、一つ目の覆面を被った集団が崖の上に現れた。


「悪いが……娘を返してもらう」

 中央の人物が覆面を取ると、国王が姿を現す。


「国王!?」

 タンクが叫ぶ。


「気安く名前を呼ぶな!不届き者!」

 国王の隣の人物が覆面を取ると、いつも国王の隣に構える重厚な鎧を着た女騎士が姿を現す。


「……そういうことか」

 俺は全てを理解した。


「フリーメイソン!」

 国王が呪文を唱えると闇の靄が勇者エリッサを包み込む。


「きゃぁぁ――!!」

 

「エリッサ!!」

 タンクが駆け寄るが闇の衣に弾かれてしまう。


「国王様!どういうことですか!!」

 フローラが国王に向かって叫ぶ。

 

 俺は答えをすでに知っていた。


 怪異『口避け女』は俺を呪いの殺したあと、一緒にこの世界に転生し、王女に取り憑いた。


 王女の口は裂け、不憫に思った国王は娘を幽閉したのだろう。


 光の力が強まると闇の力が同時に強まる事を知った国王は勇者を祭り上げ、同時に娘を『魔王』と名乗れるほど闇の力を高めた。


 そして、不死身の勇者エリッサに娘の怪異『口裂け女』を取り憑かせようとしたのだ……。


『アハハハハ――!!アァァ――!!!!』

 アナスタシア王女の闇が勇者エリッサに吸い込まれていく!!


 王は両手から闇の魔力をエリッサに注ぎながら俺に話しかけた。

「何度も試した。それでも娘の『闇』は取り除けなかった……。マスキ君、以前、君は私に話したな『気に入らない者を大量に殺した王の話』を……。あれは本当の話だ。娘の『闇』を他人へ移そうと……陰陽師団に何人も何人も何人も殺させた!!」


「ひぃ!!!!」

 恐ろしい国王の顔にフローラが悲鳴を上げる。


「だが、機は熟した!勇者ヨミュカ・エリッサ!人類の希望となった主なら『闇の器』として申し分ない!!」


「ああぁぁ――!!!!」

 エリッサを纏う闇がいっそう深みを増す。


 国王の言葉を聞いて激昂した戦士タンクがエリッサに包まれた闇の中に無理やり自身を押し込む。

「バカヤロ――!!エリッサは『人類の希望』じゃね――!!俺の女だ!!!!」

 タンクは闇に支配されそうなエリッサを力強く抱きしめた。


「……タン……ク!?」

 タンクに抱きしめられたエリッサの目に光が宿る。

 パァァァ――!!!!!!


「な、なんだと!!」

 勇者エリッサから放たれる眩い光に国王が驚く。


 エリッサから放たれる光は闇の魔力を少しずつ押し返した!

「パパ……ありがと。こんなママじゃ、あの子達に申し訳ないわね。私は不死身の勇者ヨミュカ・エリッサ!!ロムルスとレムのたったひとりの母親だぁ――!!!!!!!!」

 エリッサの光の剣が闇の魔王 アナスタシア王女を切り裂いた!


 ズバババババババァァ――!!!!!!


『ウギャァァァァ――!!!!!!!!』


「アナスタシア!!お前達!!勇者を殺せ!!」

 国王が覆面集団に命令する。


 いつの間にか崖の上にフローラが立ちはだかっていた。

「勇者に仇なす者は、この『剣聖』フロラディーテが許さん!!」


 シャキィ――――――ン!!!!!!


『うわぁぁ――!!!!!!!!』

 フローラは国王の側近を瞬時に切り裂く!


「バカな!!ここまで何年もワシは!ワシは――!?」

 困惑する国王の喉元にアサシン、トイレット・スリーノック・ハナフォサンが刃を音もなく突きつける。


「汚れ仕事は私が…………」


 ハナは刃を少しだけずらした。


 ブシュゥゥ――!!!!


「ぐぅぅぅ!!お前達!!許さんぞ!!許さんぞぉ――ぉぉ……ぉ」

 国王は首から吹き出る血を押さえながら息絶えた。


「……終わったな」


「マスキさん……」


 俺は悲しそうに立ち尽くすフローラに近寄り、頭をポンポンと叩く。


「さぁ、エリッサを治療しないとな。みんな、帰るぞ」


 力を使い果たし、ぐったりしているエリッサをタンクが両手でかかえていた。


「たいした母親だよ……お前は」


 <次回、最終話【42話】死に逝く者>

 

 

 




 

 

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