第40話『イルミナティ』【怖さ★★★】
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
洞窟の奥から男の悲鳴が聞こえる。
「お許しください!お許しくださいムー様!!」
男は這いつくばりながら、ムーと呼ばれた一つ目の覆面を被った何者かにすがる。
「ドウマン、お前が転移させた男が『口裂け様』に接触したそうじゃないか」
「あやつは話せばわかる奴で!!必ずやこちら側に引き入れます故!!」
「信用ならん!『口裂け様』が誕生して21年。もうすぐ我らの宿願が叶うというのに!!」
一つ目覆面の男が右手をドウマンに向けると、右手から黒い
「そ、それだけは!それだけは――!!」
「残念だよ。アシヤドウマン」
ムーは左手で覆面を取る。
「!!!!?あ、あなた様は……そ、そんな!!」
ムーは呪文を唱え、ドウマンに向けて黒い靄を飛ばした。
「フリーメイソン!!」
「ぐぐががががぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドウマンの体が闇に吸い込まれる。
「ぁぁぁぁ………………」
やがて、ドウマンの姿は跡形もなく消えた。
「ムー様、良かったのですか?ドウマンはまだ使えたのでは?」
同じく一つ目の覆面を被った人物が話しかけてくる。今度は女性の声のようだ。
「かまわん。『百鬼夜行』の終着点へ行くぞ。間に合わなくなる……『
二つの影は闇に紛れるように消え去った。
その頃【英雄の村 ユシャイルーン】
「オギャア!!オギャア!!」
「また生まれた!?お――!!エリッサ!がんばったな!男の子と女の子の双子だ!!」
タンクがエリッサの手を握る。
「そっか……よかった。さすがに初めて死ぬかと思ったよ……」
エリッサは目に涙を浮かべながら生まれてきた我が子を眺める。
「不死身の勇者エリッサも出産には敵わないか!ハッハッハ!」
タンクは大声で笑った。
「ぶ~!本当に大変だったんだからね……パパ」
「お、おう……無事でよかった。愛してるぞ」
パパと呼ばれ、タンクは照れながらもエリッサのがんばりを労った。
勇者が男女の双子を授かった吉報は大陸全土に知れ渡り、人々に希望と活力を生み出した。
【マスキ邸宅】
ガチャガチャ!
「勇者様が……男女の双子を授かったようです!」
バタン!
玄関の扉を閉まるより早く、メイドのコックリさんが珍しく慌てた様子で吉報を伝える。
「まぁ!素敵!」
台所でお皿を洗っていた妻のフローラが手を止めて喜ぶ。
「ガハハ!こりゃめでたい!!どれ、酒を追加しよう」
作戦会議という名目で遊びに来ていた騎士団副団長オヤジーノが空になったコップに酒を注ごうとするが、酒はすでに空だった。
「ありゃ?」
「これは一大事!すぐに酒とおつまみを調達してきます!」
同じく遊びに来ていた俺の部隊の特別隊員トイレット・スリーノック・ハナフォサンが寝転んでいたソファーから立ち上がる。
「その必要はない。宴会は終わりだ。ほら、帰った帰った」
俺は立ち上がり、飲み食いの後始末を始める。
「なんと!残念!」
オヤジーノが両手を頭の上に乗せ、残念がる。
「マスキ部隊長!片付けなら自分が!」
俺より先にテーブルの上の皿をかき集めるハナ。
それにしても、ひとりが好きだった俺が、まさか自宅パーティーをするまでになるとは、二度目の人生、何があるかわからないものだ。
「フローラ、自室に行っている」
「はい!マスキさん!」
俺はフローラに一言告げてから、自室に入った。
カチャ。
「コン!」
自室に入ると、待ってましたと言わんばかりに、白狐のクスノハが俺の体をよじ登り、いつもの定位置(俺の頭の上)でくつろぐ。クスノハは転生前の俺の元嫁だ。
「均衡が崩れたな」
俺はそのまま椅子に座ると、頭の上のクスノハに話しかけた。
「勇者の出産は想像以上に人間どもの希望の光になったようね。光が強くなると、影も濃くなるものよ。気をつけなさい」
クスノハが話す。
やはりか。
俺は少し考え込む。
転生前に俺は怪談話『口裂け女』を観客に話している最中に呪われ、転生した。
もし、転生したこの世界に『呪い』も一緒に連れてきてしまっていたら……。
この世界の『怪異』『都市伝説』『怪談話』『妖怪』、どれも俺のいた世界と酷似している。
魔王と呼ばれるほど力をつけてしまった『口裂け女』。
俺はまた、奴に殺されてしまうのだろうか?
ふにぃ。
「なぁ!?」
考え込む俺に、人の形に化けたクスノハが自慢のおっぱいで俺の顔をはさむ。
「ほれ、元気でたか?考えすぎはよくないぞ」
「クスノハ!俺にはフローラという良妻が!!」
椅子から立ち上がり、クスノハを振り払う。
「なんじゃ、連れないのぉ。バレない浮気は浮気ではないぞ。まぁ、お主が転生前に浮気をしていたら、死んでも呪い殺すがな」
怖い怖い怖い。普通、呪い殺すのは死ぬまでだろ!死んでも呪われるなんて、クスノハが言うと冗談に聞こえない!
「クスクス、相変わらず感がいいのか悪いのかわからぬ男よ。お主も気づいておろう、妙な連中が動いているのを……」
「ああ、晴明から聞いたよ」
転生前に俺の息子だった晴明と話した。
晴明は「イルミナティに気をつけろ」という言葉を俺に伝えた。
いつの時代も秘密結社のひとつやふたつあるものだ。別に不思議ではない。
問題は、何を企んでいるのかだ。
魔物の大軍行進『百鬼夜行』。
勇者の出産。
魔王『口避け女』。
国王 オカルティ・アトランティス・ムー
いくつもの点が、線になる感覚。
ふにぃ。
俺の視界が再びクスノハによって遮られる。
「だ――!!だから!おっぱいで顔を挟むな!!」
「なんじゃ、嬉しいくせに。難しい顔をして探偵気取りをしておるからじゃ。お前さんは怪談師だろ?」
クスノハの言葉に目が覚める。
そうだ、俺はただの怪談師だ。
探偵でも勇者でも英雄でも何でもない。
だったら、俺がやることは決まっている。
大切な人の……笑顔を守る!
「クスノハ、ありがとう。行ってくる!」
俺はクスノハに礼を言って部屋を出る。
「……また死ぬではないぞ」
クスノハの寂しげな言葉が耳に残った。
<つづく>
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