第39話『口裂け女』【怖さ★★☆】
私達は『
「セイメイ!無事だったのか!話を聞かせてくれ!」
マスキさんが「セイメイ」と呼んだその男は、以前、魔術師団との交流戦で大将を務めた男だ。
奇妙な魔法を使う男だったが、我が騎士団の大将マスキさんの前に敗れている。
マスキさんはセイメイさんを呼び寄せ、何やら話している。マスキさんはいつの間にセイメイさんと仲良くなったのだろうか?やはり、男子は一度拳を交えると親友になるという噂は本当なのだろう。女の私にはわからない。
マスキさんが戻ってくる。
「やはり、魔物の大量発生『百鬼夜行』のリーダーは魔王『口裂け女』のようだ」
「『口裂け女』!?何やら怖そうな名前ですね」
やはり口が裂けているのだろうか?
「『口裂け女』は、ある地方でもっとも有名な怪異だ。無論、俺も怪談話を知っている。だが、人々が怖がるほど奴の力は強くなる。人を呪い殺すほどにな。だから、俺は『口裂け女』の怪談話は封印した」
マスキさんの表情が暗い。過去に何かあったのだろうか?
「俺達だけでは、部が悪い。勇者エリッサの出産を待ち、体制を整えよう」
「わかりました。王にも報告して、『百鬼夜行』『魔王 口裂け女』討伐の準備を整えましょう」
私達は帰路につくことにした。
帰り道、私はいけないと思いつつも好奇心に負け、帰りの馬車の中でマスキさんに聞いてしまった。
「マスキさん……あの……やはり『口裂け女』は口が裂けているのですか?」
「え?」
マスキさんは一瞬、驚いた顔をしたが、私の問いに答えてくれた。
「口裂け女は最初は小さな怪異だったんだ。マスクをかけた女が近寄ってきて、子供達に聞くんだ……」
『私、きれい?』って……。
マスキさんは真剣な眼差しを私に向け、私は不謹慎にも頬を赤らめてしまう。
「……それで?」
私は恥ずかしくなり、目を反らせながら聞く。
「子供達は「きれい!」って素直に答えるとマスクを取って……」
マスキさんがゆっくりと口元からマスクを取る仕草をする。
『これでも……きれい――!!!?』
マスキさんがニタァと笑う。
「ひゃぁぁぁ――!!!!!!!!」
私はマスキさんの話に引き込まれて、大声で叫んでしまう。
「ヒヒ~ン!!」
ガクン!!
馬車が急に止まって、御者が慌てて降りて、私達が乗っている屋形に駆け寄る。
「どうしなすった!!?」
「あ、いや、すまん!寝ぼけてた……」
私は顔を赤らめながら、言い訳をして謝る。
「そ、そうですか……?」
御者は納得がいかない素振りをみせながらも、引き続き馬の手綱を握る。
「くくく……」
マスキさんは笑いを堪えるのに必死だ。
「もう!本当に怖かったのだからね!」
私が拗ねると、マスキさんは「ごめんごめん」と謝り、話の続きをしてくれた。
「マスクを取ると口が裂けているだけなんだ。ただ、単純な話なだけに『口裂け女』は急速に広まった。やれ「きれいじゃない」と答えると鎌で殺されるだ、ポマードの匂いが嫌いだなど、尾ひれはひれつけながらな……」
「広まりすぎて、人々の恐怖が形になったのが『魔王 口裂け女』の正体ということですか?」
「そうだ。魔物のエネルギーは人間の恐怖だ。
マスキさんの言葉に胸が痛む。
私は怖がりだ。
知らず知らずに魔物を強くしていた。
怪談小屋で皆に怪談話をしているマスキさんは、恐怖の耐性をつけさせようとしていたのかもしれない。
私は私より一回りもふた回りも考えが大人なマスキさんを尊敬の眼差しで眺めた。
『剣聖』の私が恐れてどうする!
私は心の中で誓う。
魔王 口裂け女は私が倒す!
そのあとは……マスキさんと共に幸せに暮らそう。
子供は何人がいいかな?
ビシッ!
「痛っ!!」
私はなぜかマスキさんからチョップを食らった!
「なんで?」
「……なんとなくだ!」
え?なんで?なんとなくって……何?
見つめ過ぎて照れたの?
それとも、私、顔がにやけてた?
私はあたふたしながらも、すでに眠りについてしまったマスキさんから目を離すことができなかった――。
<つづく>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます