第38話『赤いフードの女の子』【怖さ★★★】

 北へ向かう俺達に赤いフードを被った女の子が話しかけてきた。


「あ、あの……。お願いします!食べられたおばあちゃんを助けてください!!」

 女の子は目に涙を浮かべながらフローラに向かって叫ぶ。

 白銀の鎧に大きな剣を帯刀しているフローラは剣聖と知らずとも名のある剣士とわかる。


「詳しく話を聞かせてくれ」

 フローラは跪き、女の子と同じ目線になると、親身になって話を聞いた。


「突然、魔物が村を襲ったの……。おばあちゃんが食べられちゃったの!でも、おばあちゃん生きてるの!魔物の口からおばあちゃんの声が聞こえたもん!」

 赤いフードを被った女の子は流れる涙を指でぬぐいながら話した。


「なんて、酷い。マスキさん!行きましょう!」

 フローラが俺を見る。


「ああ、急いだほうがいいな。たぶん『大噛おおかみ』だ。巨漢で、人間を丸のみして、ゆっくりと溶かして食べる魔物だ。お嬢ちゃん、おばあちゃんが食べられたのはいつだ!?」


「昨日の夜……」


「だとしたら、消化が始まるまで遅くてもあと半日の猶予しかない!急ごう!」


 俺達は女の子の案内で村へ急いだ。


 【崩壊した村 グリム】


「酷い有り様ね……」

 フローラが村の惨状に目を覆う。


 家は焼け落ち、所々に食い散らかされた人間が放置されていた。


『おぉぉぉぉぉ――!!!!』

 魔物の雄叫びが聞こえた。


「あ、あいつだ!おばあちゃん食べちゃった奴!」

 赤いフードの女の子は3メートルはある巨漢の魔物を指差す。


「デカイな。だが、あの大きさのお陰で婆さんが助かってる可能性がある!いくぞ!」

 俺は捕縛の札を奴の足下へ投げる。


『ぐぉ!?おおお――!!!!』

 

「よし!動きを止めた!!フローラ!中の婆さんに気をつけながら腹を切ってくれ!難しいが、できるか!?」


「マスキさん、任せてください!」


「お姉ちゃん後ろ!!」

 女の子がフローラの後ろを指差すと、2メートルほどの巨漢の『大噛み』が口を大きく開け、フローラを丸のみにした!!


「え!?きゃぁ――!!!!!!!!」


『ごくん!!ぐふふふふぅ――!!』

 フローラを丸のみにした大噛みは腹をパンパンと叩きながら満足そうだ。


「お姉ちゃん――!!」


「やばい!離れろ!」

 俺は、叫ぶ女の子を抱きかかえて距離を取る。


「お兄ちゃん!お姉ちゃんが!!!!」


「フローラなら大丈夫だ!!それより、近くにいては危ない!!」


『ぐふぅ!?』

 突如、大噛みの腹から剣が飛び出た!


 フローラが中から切ったのだ!


 ズバ……ズバババババ――ン!!


 次の瞬間、大噛みの腹が切り刻まれて弾け飛ぶ!


「ううう……」


 中から服が溶けかかったフローラが出てきた。


「お姉ちゃん!!」

 赤いフードの女の子がかけよる。


「うふふふ……私を丸のみにする屈辱……許さんぞ……許さんぞ『大噛み』!!」

 ヤバい!フローラがキレている!服が溶け落ち、裸に軽鎧のみの恥ずかしい格好になっても、体を隠そうとしない。だが、女の子の婆さんも心配だ。


「ふ、フローラ、あっちの……女の子の婆さんを飲み込んだ大噛みを……」

 

「ふふふ……任せてくださいマスキさん、八つ裂きですね!」

 いや、そんなことは一言も言ってない!


「ふふふ……ふふふ……」


 フラフラと3メートル級の大噛みに近くフローラ。


『ぐぉぉおおおお――!!!!!!!!』

 俺の捕縛の札で身動きのとれない大噛みは激昂している。


「ふふふ……お前さん、どうしてそんなに大きなお耳をしているの?」

 ズバ――ン!!!!


 フローラは大噛みの耳を切り落とした!


『ぐわぁぁ!!!!』


「お前さん……お前さんの鼻はどうしてそんなに大きいの?」

 ズバ――ン!!


『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 次は鼻を切り落とす。大噛みは耳と鼻を切られてうずくまる。


「ふ、フローラ……さん?」

 鬼と化したフローラに声をかけるが、彼女の耳には届かない。赤いフードの女の子は俺の足にしがみついてガタガタ震えている。


「え~ん!お姉ちゃん怖い……」


「うふふ……お前さんの足は、どうしてそんなに大きいの?」

 ズバ――ン!!ズバ――ン!!


『ぐわぁぁぁぁぁぁ…………』

 両足を切られた『大噛み』は余りの激痛で気を失った。


「うふふ……お前さんのお腹は、どうしてそんなに大きいの?」

 フローラが剣を天に向け、大きく息を吸ってから叫んだ……。


「私を飲み込むためかぁぁぁぁ――――!!」


 ズバババババ――ン!!


 フローラが『大噛み』の背中を切り刻むと、中から婆さんが出てきた。


「う、う~ん……おや?ここは?」

 良かった!婆さんの意識はまだある。


 俺は急いで婆さんに駆け寄り、回復の札を貼る。


「おばぁちゃん!おばぁちゃん!え~ん!!」

 赤いフードの女の子が泣き叫ぶ。


「おやおや、ズキンかい?心配かけてごめんね」

 赤いフードの女の子の名前はズキンというらしい。婆さんはズキンを抱きしめた。


「あ、あれ?きゃぁ――!!私、なんて格好!!?」

 フローラが正気に戻って、服が溶けていることに気づき、うずくまる。


「フローラ、よくやった。しかし、人を丸のみにする『大噛み』の大量発生か……。魔王が関係しているのか?」

 俺は来ていた羽織をフローラに被せながら不穏に淀む空を眺めた――。


 <つづく>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る