第35話 『こっくりさん』【怖さ★★☆】
「はじめまして、コックリです」
凛とした顔立ちには似合わない可愛らしいメイド服に身を包んだコックリさんが深々と頭を下げる。
「よろしくコックリさん!新米領主ですまんが、力を貸してくれ」
マスキさんに続いて、私も挨拶をする。
「わ、私も特技は剣を振ることだけで……役に立ちそうにありません……すいません」
領主になった私達だが、もちろん領主が何をしたらいいのか、さっぱりわからない。
勇者パーティーのタンクさんは村長の息子らしく、話を聞いたところ、『領土とは』交易網の整備や外交、領民に対する生活保護に絡んだ様々な問題解決が仕事と、なかなか大変そうだった。
困っていた私達に勇者エリッサ様が「私が王に頼んであげるよ!」と、王に管理ができる人材を依頼してくれたところ、コックリさんが派遣されてきた。
「あの……、雑務もやってくれるそうですが、大抵が領土の管理が主なので、メイド服は無理に着なくても大丈夫ですよ……」
スラッとした足には余りにも短すぎるスカートに女の私でさえドキドキしてしまう。
「あ、いえ、これは趣味で着ているだけなので、ご心配なく」
コックリさんはスカートの両端を持ちながら、ひざを折って片足を後ろに引き、身を低くしておじぎする。ものすごく礼儀正しい!さすが、王が派遣してきただけのことはある。でも、マスキさんの視線が今にも見えそうなコックリさんのスカートに向いているのが気になる……。
コックリさんに数ヶ月働いてもらってわかったことだが、彼女の能力は予想を上回るほど高かった。
掃除、洗濯はもちろん、財務管理から領民の問題解決まで全てを完璧にこなした。特に目を引くのは、その決断力だ。
「マスキ様、東側の土地にはジャガイモなどの根菜が適しています」
「そうか!農家のメイクィーンさんに頼んでみるよ!」
マスキさんも今ではコックリさんをすごく頼りにしている。
「フロラディーテ様、ルームウェアはこのサラサラ手触りのシルクという素材を使ったパジャマにしたら、マスキ様も喜びかと……」
「ほ、本当!?……これにします」
……私も公私ともに本当にお世話になった。
ある時、私はコックリさんに「どうやったら決断力が上がるのか?」を聞いてみた。
「決断力ですか?フロラディーテ様、実は我がコックリ家に伝わる
「是非、見てみたいです!」
「マスキ様は占いの類いは信じていなさそうですので、内密にお願いします。では、私の部屋へどうぞ……」
コックリさんは住み込みで働いてくれていて、2階の一番奥の部屋を使っている。
ガチャ。
部屋の中に入ると、大した物はなく、ベッドと机、数冊の本があるだけだった。
「これが、私の秘密です」
コックリさんが机の上に置いてある紙を指差す。
「これ……ですか?」
文字が書いてある紙を覗き込む。左上に『はい』右上に『いいえ』あとは文字がバラバラに書いてあった。
「では一度、やって見せます」
コックリさんは紙の中央にコインを置いて、コインを人差し指で押さえる。
『こっくりさん……こっくりさん……来てますか?』
コックリさんがコインに話しかけると、コインはゆっくりと動きだし、左上の『はい』で止まる。
「ええ!?すごい!」
コックリさんの指には力が入っていないように見える。勝手に動いたんだ!目に見えない、何かがいる!!
「フロラディーテ様もコインに人差し指を乗せてください。二人の方が効果も高いのです。ただし、私が『こっくりさんお帰りください』と言うまで絶対に手をコインから離してはいけませんよ!」
「わ、わかった……」
私は恐る恐る人差し指をコックリさんと同じコインの上に乗せる。
『こっくりさん……こっくりさん……領土の西はどうしたら栄えるのでしょう』
コックリさんがコインに向かって話すと、力もいれてないのに、ゆっくりとコインが動く。
「……や……ど……や」
私はコインが通過した文字を読む。
「フロラディーテ様、宿屋です。西からは商人がたくさん来るので宿屋を建設すれば商人の数が増えると思います」
コックリさんがすぐさま分析をする。
「なるほど!すごい!あの……私も質問してもいいのか?」
私はすっかりこっくりさんにハマってしまった。
「どうぞ!」
「では……コックリさん……コックリさん……マスキさんの好きな人は誰ですか」
私は顔を真っ赤にして話す。
私に足りないのは『決断力』それはマスキさんに対してもそうだった。いつまで経ってもマスキさんに甘えてしまう。私はそんな自分が嫌いだった。
「フロラディーテ様?」
不思議そうに私の顔を見るコックリさん。
私は……妻としてマスキさんの隣にいても大丈夫だという確かな自信が欲しかった。だから、
ゆっくりとコインが動き出す。
「……く」
――!!?
『く』!?
や、やだ!私の名前じゃない!!
「やっ!!」
私は咄嗟にコインから手を離す!
「フロラディーテ様!
シュ――!!!!
紙から白い煙が立ち上る!
「ご、ごめっ……ごめんなさい――!!」
私は部屋から飛び出した!!
ガチャ!!
私は走り出した。
情けない。
マスキさんの好きな人を聞くのも、自分に自信がないのも、
私は自室にこもり、体を丸めて泣いた。
「しくしく……え~ん、え~ん」
私には、マスキさんの隣を歩く資格はないのかもしれない……。
【コックリさんの部屋】
シュ――!!ポンッ!!
紙から立ち上る白い壁から白狐のクスノハが現れた!
「え!?クスノハ?」
初めての現象に戸惑う。マスキ様のペットのクスノハが現れるなんて?我がコックリ家に伝わる降霊術に召喚の類いは報告されてない。
『……悪戯のつもりだったのだがな』
「……クスノハが……喋った!?」
マスキ様のペットの白狐は喋るのか?
「コックリとやら……『こっくりさん』とは、そもそも『狐狗狸さん』と書く。そう、狐の霊を呼び出す降霊術のことだ。悪戯で『クスノハ』と文字を読ませようとしたのだが、やり過ぎてしまったようだ……。お主、代わりにフロラディーテに謝ってはくれぬか?」
「わ、わかりました!クスノハ……様!!」
私は白狐のクスノハ様に跪き、頭を下げる。
まさか、コックリ家に伝わる儀式で神が降臨されるとは!我が主、いえ、コックリ家はこれよりクスノハ様を生涯、命を懸けて崇拝致します!
それから私は部屋でうずくまっていたフロラディーテ様をなんとか立ち直らせた。
「本当に!?本当にこっくりさんのコインは『く……苦難を共にしたフロラディーテ』と動いたの?」
「はい!フロラディーテ様!マスキ様は間違いなくフロラディーテ様を愛しております!」
「そっか……えへへ、ありがとうコックリさん」
フロラディーテ様は元気を取り戻した。
【食卓】
「クスノハのご飯、多くない?」
コックリさんが運んだクスノハのお皿に俺はびっくりする。
皿にはステーキが積み上がっていたのだ。
「コン!」
「クスノハ様のお食事は今後、ステーキとさせていただきます」
「クスノハが喜んでからいいと思うわ!ね、マスキさん!」
ステーキにかぶりつくクスノハ、クスノハに『様』をつけるコックリさん、やけにご機嫌のフローラに俺は戸惑う。
「どうなってるんだ?」
俺は頭に?《ハテナ》を浮かべながら食事を口に運んだ……。
<つづく>
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