第34話『ピラミッド』【怖さ★☆☆】

 次の日、俺達は警備隊に案内され、エシプカーメン王国最大のピラミッド『ツァタンキャミャン』へ案内された。


「昨日はすいませんでした。本日は貸し切りとなっておりますので、思う存分楽しんでください!こちらのピラミッドは中に魔物がいますので普段はAランク以上な冒険者しか入れませんが、剣聖様がいらしておりますので大丈夫かと。あ、もちろん危なくてガイドはいませんので!では、私はこれで……」

 警備隊の男は説明をすると足早に帰っていった。


「マスキさん、今日こそ楽しもうね!」

 フローラが意気揚々とピラミッド内に足を踏み入れる。


 Aランク以上の冒険者以外は立ち入り禁止って、高難度ダンジョンなんじゃないか!?


『ケキョ!ケキョ!』

 ピラミッドに入ると、さっそくB級モンスターのスケルトンアンシエントが襲ってきた。


「はぁ――!」

 

 スバァ――ン!!


 すかさず、フローラが短剣で斬り刻む。


 今日はデートなのだから仕方がないのだが、白いワンピース姿のフローラが、太ももにくくりつけた鞘から剣を取り出す度に下着が見えて、俺は柄にもなくドキドキする。


「きゃ!マスキさん……すいません」

 フローラも下着が見えたことに気がついて、ワンピースの裾を両手で持って恥ずかしそうな仕草をする。


「あ!危ない!『封』!」

 倒したはずのスケルトンアンシエントが起き上がろうとしたところを俺が動きを封じる。


『ケタケタケタ……』


「ありがとうございます!マスキさん!はぁ!!」

 

 スババァ――ン!!


 フローラは太ももから短剣を取り出し、斬り刻む。……だから、下着が見えるって。


「ふふ……楽しいですね」

 危険な場所だが、フローラは楽しそうだ。


「そうだな。フローラがいれば安全だし、デートをたのしむか」


「わ、私も!!……マスキさんが側に居てくれて……安心です」

 フローラは照れた顔をこちらへ向ける。


「『剣聖』と言われ、負けることが許されなくなってからは、戦いもずっと気が張っていて辛い時もありました。でも、マスキさんと一緒だと安心します!」

 フローラが俺の腕に抱きつきながら嬉しそうに話した。

 『剣聖』と言えば、国家の力の象徴だ。それが、フローラに見えないプレッシャーを与えていたのだろう。だから、妥協を許さず、団長を勤める騎士団でも『冷血のフロラディーテ』などと呼ばれるようになってしまったようだ。

 少しでもフローラの役に立っているようで、俺は嬉しくなった。


「頼りない俺だけど、少しは頼ってな」

 俺も照れながらフローラの頭を撫でた。


「うん!」

 フローラから元気な返事が返ってくる。


「あ!宝箱だ!」

 フローラが通路に置いてある宝箱を見つけ、近づく。

 ダンジョンに置いてある宝箱は当たり前だけど、100%罠だ。だいたい、誰があんな重たい鉄でできた箱を持ってきて、回復薬や自分のレベルよりちょっとだけ優れた装備を入れておくんだ!ありえない!少し考えれば子供でもわかる罠だ。


 パカッ!

「マスキ殿!やった!指輪が入ってた!綺麗!」

 フローラは宝箱から取り出した指輪をはめて嬉しそうに眺める。


「開けたの――!?」

 しまった!フローラはしっかりしてそうで、ド天然だった!まさか、開けるとは思わなかった!俺と一緒だからって、安心しすぎたのか!?


「うふふ……マスキさん……好きぃ~」

 ああ……フローラの様子があからさまにおかしい……。目がとろんとして、ダラダラ涎を垂らしながらフラフラ近づいてくる……。


 ぽさっ。


 フローラは着ていたワンピースを脱ぎ捨てて、下着姿になる。

「おっと……ヤバいヤバい……『解呪』!」

 俺が呪い系の扱いが得意でよかったよ。


「ひゃ!?きゃぁ――――!!!!」

 正気に戻ったフローラは下着姿の自分に気づき、恥ずかしくてしゃがむ。


「これは、欲望が増幅すると言われている『ファラオの呪い』だな。むやみに宝箱を開けちゃだめだぞ。指輪もすぐにめない!わかった?」


「ううう……ごめんなさい」

 まったく。俺だけしかいなかったからいいものを、誰かにフローラの下着姿なんか見られたら、さすがの俺も怒るよ。


「そばにいたのがマスキさんで良かった……。他の男だったら小間切れにするところでした」

 フローラが怖いことを言っている……。


 少し進むと、扉を発見する。


「ま、マスキさん!扉!」

 フローラが扉を開けたくてウズウズしている。

 だいたいが罠だが、そんな餌を待つ子犬のような顔をされたら、断れない。


「いいよ。開けて」


「やった!」


 ガチャ!


 フローラが勢いよく扉を開けると、これまでのごつごつした石の壁とは違った、大理石のような高級感ある部屋が眼前に広がる。


『ほぉ……ご来賓とは珍しい』

 中央の玉座らしき椅子に座った人物が話しかけてきた。その姿は王冠を被った骸骨だ!


 そ、そんな……アイツは初代エシプカーメン王『始まりのファラオ』!?

 そんなバカな!噂でしか聞いたことのないS級ランクのモンスターだ。それが、なんでピラミッドの最初の扉の中にいるのだ!?普通、最深部にいるもんだろ?


「どうしてエリアボスがこんなところに!?」

 俺の疑問は、すぐさまファラオが答えてくれた。


『確かにワレはこの迷宮の最深部に部屋を持っているが、なにぶん外に出るのに時間かかってな。入口に近いところにもう一部屋作ったのだ』


「そ、そんな……」

 確かに、効率的だ。ボスがエリア最深部にいないといけないなんて誰が決めた?うちだって、玄関を開けたらすぐにくつろげる居間になってるのに。気づかなかった自分が恥ずかしい。


『しかし愉快じゃ。久々の来訪者がそんな軽装だとはな。食ってくれと言うとるようなものだ!我『始まりのファラオ』其方の血肉が我の中で生き続けることを誇りに思え!!』

 ファラオが玉座かれ立ち上がる。


「……ファラオ?貴様!ファラオと言ったか?」

 フローラの様子がおかしい。


『いかにも。我はエシプカーメン王初代ファラオ。ファラオの名を継いだ後も君臨する永遠の王なり!』


「宝箱の中の指輪は貴様の仕業か?」


『ファラオの指輪か?一度つけたら、外しても呪いは解けぬわ!ククク……欲望が己から溢れる苦しみを永遠に味わうがいい!!』


 なに!?指輪を外しても呪いは解けないのか!?やはり、呪いの元、こいつを倒さないとダメなのか。しかし、今日は装備も軽装だ!どうする!?

 焦っている俺に対して、フローラは太ももの短剣を抜き、ゆっくりとファラオに近づく。


「お前のせいで――――!!!!」


 ガギィィ―――ン!!


『ヌゥ!?お!お主……何者だ!?』

 

 フローラの短剣をファラオはかろうじて杖で防ぐが、フローラの短剣は何度も何度もファラオに降り注ぐ!


「お前の!せいで!私は!恥ずかしい思いを!この!この!この!この!この――!!」


 ガギィィ!!ガン!!ダァン!!ドガァ――ン!!

 ファラオの骸骨がどんどん削れていく!


『グゥゥ!?バカな!?ただの短剣の攻撃で我が!?我が!?我がぁぁぁ――!!グワァァァ――…………』


「うふふ……マスキさん……」

  

 ハラッ……。


 フローラは崩れ去る『始まりのファラオ』に背を向け、ワンピースを脱ぎながら俺の方へフラフラ歩いてきた。


「ふ、フローラ!ちょっと待て!待て!待って~!!」

 フローラは下着も全て脱ぎ捨てて、俺に覆い被さる。呪われているフローラは自身の欲望を抑えることができない!


『……これが……恐怖か』

 『始まりのファラオ』は骸骨の最後の欠片まで塵と化した。


「……!!?」

 ファラオが完全に消え、フローラは正気を取り戻す。


「あ、あのだな!ファラオは消えたから、もう呪いは大丈夫だぞ!」

 裸のまま固まっているフローラに、俺は精一杯の優しい言葉をかける。


「すぅ~」

 

「いぃぃぃやぁぁぁぁ――!!!!!!!!」


「うぉ!!」

 すぅっと息を吸ってから叫んだフローラの声は高難度ダンジョン『ピラミッド』の全ての魔物にエリアボス『始まりのファラオ』の消失を知らせ、魔物自身も身の危険を察知し一目散に逃げだした!


 ドドドドド…………。

『ギャァギャァ!グフ!グフ!カタカタカタ……』


 【ピラミッド 入口】

 フローラをなだめてからピラミッドを出ると、何やら警備隊が騒いでいた。一人の警備隊が俺達に気づき、慌てて駆け寄る。


「剣聖フロラディーテ様!先ほど高難度ダンジョン『ピラミッド』内のすべての魔物の逃亡が確認されました!ま、まさかフロラディーテ様が?」


「ボスは……たぶん倒した」

 俺の背中に隠れながら警備隊に話す。フローラはファラオの呪いで錯乱していた時の記憶は曖昧だ。


「やはりそうでしたか!さすが剣聖様!!」


『わぁ――!!!!』


 歓声が沸き起こる。

 

 後で聞いた話だが、観光業で栄えたエシプカーメン王国だが、初代ファラオのピラミッドだけ魔物が蔓延はびこりダンジョン化してしまい、困っていたという。


 それから、俺達はエシプカーメン現国王から手厚い歓迎と俺達の領土との交友を約束し、波乱の新婚旅行から帰宅した。


 【マスキ邸宅】


「コン!」

 白狐姿のクスノハがフローラに飛びつく。


「ただいま~!寂しかった!?きゃ!そんなとこ触らないで!」

 嫁と元嫁(クスノハ)がじゃれあってる姿に恐怖を覚える。


「あれ?ハナは?」

 クスノハの世話を頼んだハナフォサンの姿がない。

 ガチャ。


 扉が開くと、今にも落ちそうなバスタオルを体に巻き付けたハナがフラフラと歩いてきた。


「ハナフォサン!?どうしたの!?」

 心配になったフローラがハナに駆け寄る。


「コン!」

 クスノハは俺の体を肩までよじ登ると、耳元で囁いた。

(な~に、ちょっと呪力を吸い取っただけよ……ククク)


「なっ!?」


 フラフラのハナが口を開く。

「……すごかったっす」

 

 バタン!

 ハナはその場で崩れ落ちた。


「ハナフォサン!」


 心配するフローラを見ながら、俺は(クスノハの呪いは初代ファラオより上か……)と呑気に考えるのであった――。


 <つづく>




 


 

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