第31話『伝説の演説』【怖さ★☆☆】

「え~っと……まずは皆さん、私の領主就任式にお越しいただき、ありがとうございます」

 俺は大観衆の前に立たされ、柄にもなく緊張をする。


『がんばれー!』

『怖い話してー!』

 怪談小屋の馴染みの客が前列で声援をくれた。


「怖い話はまた今度な。え~、たまたまなのですが、領主に任命されましたマスキです。いきなりですが、皆さん、好きなことをして死んでください」

 ザワザワザワ……。

 観衆がざわつく。


「お主……」

 白狐のクスノハが真剣な眼差しを俺に向ける。

 俺は転生前、怪談を話ながら死んだ。


「人間、いつ死ぬか分かりません。10年後かもしれません、100年後かもしれません、今日かもしれません。私は皆さんに後悔してほしくない!」


 観衆が真剣に俺の話を聞いてくれる。


「いい加減な私ですが、私にはもったいないフロラディーテという伴侶を得ました……」


「マスキさん……」

 フローラが頬を赤らめる。


「私は領主となりましたが、皆さんの命とフロラディーテの命が天秤にかけられたら……俺は迷わずフロラディーテを取ります」


 観衆は笑顔で答える。

『当たり前だ――!』

『フロラディーテ様を泣かすなよ――!』


「ありがとうございます。私は、そんな皆さんの領主として、生涯かけてこの土地を幸せにすると誓います!!」


『わ――!!』

 

「そのためにも、必ず妻を幸せにします。それから、みなさんを幸せにします。ただし、私が良い領主になれるかどうかは、皆さんにかかっています!皆さん、死ぬ気で今の仕事を楽しんでください!死ぬまで楽しんでください!笑って死んでください!!」


『俺は旨いもんを死ぬまで提供するぞ――!!』

 食堂のリィツが大声を上げる。

『私は家具よ――!!』

 家具屋のサリューシュだ。

『米なら俺に任せろ――!!』

 農家のゴサンも声を上げる。

『俺も!』『私も!』『僕だって!』

 観衆の声はどんどん増幅される。


「そうです!皆さん、必ず笑顔で死んでください!!私はその全てを見届けます!!」


『わ――!!!!!!!!』

 なりやまない歓声が小さな町にこだまする。


 二度目の人生、俺はここからだ。


 生には意味がある。


 意味のない生などない。


 ただ、答えもない。


 やれることをやる。


 やれないことはやらない。


 やれることを、全力でやる。


 それだけだ。


「いつもは怪談話……過去にあった出来事しか話せない俺だけど、自分の言葉で話すのはこれで初めてで……うまく喋れんものだな。俺が失敗したら、都市伝説にでもしてくれ、以上」


『わ――!!!!!!』

 なりやまない声援を受けながら、最後は俺らしく演説を締めた。


「マスキ軍団長ぉ~ハナは涙が止まりません~」

 ハナが駆け寄る。


「気のせいだ。花粉症じゃないのか?」

 俺はハナの頭をポンポンと撫でる。


「ガハハ!ワシは戦場で死ぬぞ」

 オヤジーノが強めに俺の肩を叩く。


「オヤジーノは殺しても死なないよ」

 俺は軽口を叩く。


「マスキさん……素晴らしい演説でした。私もマスキさんを幸せにできるように日々、努力します!」

 一番後方でフローラが涙ぐんでいる。


「一緒に……だろ?ちょっと疲れたから、横になるよ」

 さすがに疲れた。俺は休憩室で休むことにした。

 休憩室には白狐の姿をしたクスノハが待っていた。


「楽しんで死ねか……お主らしい」

 心なしか喜んでいるように見える。


「お堅いのは苦手でな。そういえば、クスノハはどうやってこっちの世界に来たのだ?」


「なんじゃ、気づいておらんかったのか?私を転移させたのは主の子、清明じゃ。なんでも、交流戦とかで父と戦ったと言っておったぞ?」


「え――!!!!!!!!」


 知らなかった。


 あれが俺の子?清明?


 確か清明が10歳くらいで俺が死んで……。


 転生して21年で……。


「清明、31歳!?俺より年上かぁ~!通りで見覚えのある術を使うと思ったら!そうか~立派になったなぁ~」

 

「主が死んだあと、私が厳しく育てたからな。当たり前じゃ」


 そうか~大変だったな清明~。


 クスノハのしごきは地獄のしごきだからなぁ~


 おっと、地獄に失礼だったな。クスノハは地獄ほど甘くない……。


「……何か失礼なことを考えている気がするが……まぁ、よい。実はな……清明が出会ってしまったようなのじゃ……口裂け女に」


「――な!?」


 その名を聞いて、背筋が凍りつくのがわかる。


 俺が死んだ時、話していた演目。


 それが……"口裂け女"――だ!


 <つづく!>

 


 

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