第30話『ノストーラの大予言』【怖さ★★★】

 稀代の冒険家ノストーラは冒険の果てに5つの予言を残してこの世を去った。


 一つ 天より降りし女神の雫は種族を越えた絆を結ぶであろう。


 一つ 女神の湖は真実を照らす。全てを受け入れよ。


 一つ 恵みの作物は万物に与えよ。さもなくば悲劇に見舞われるであろう。


 一つ 空が黒く染まる時、生命は活動を閉ざされる。耐えるもまた、人生。


「そして、最後の一つ『1999年7の月に、恐怖の大王が来る』っす!ちょうど、今月でっす!!」

 ギオン騎士団怨霊対策特別隊員のトイレット・サードノック・ハナフォサンは買い出しの手荷物を両手に持ちながら俺に話しかける。


「それって、有名なノストーラの大予言だろ?種族間の平和や環境問題を訴えた冒険家だよな。そんな大変な日に宴会用の酒やら食料やら買い込んで大丈夫なのか?」

 そう言う俺も、ハナに連れ出され両手いっぱいに買い物袋を持たされていた。

 

「何を言ってるのですかマスキ軍団長!マスキ様の領主就任記念パーティー用の食材の買い出しです!重要任務です!」


「尚更、主役に荷物持ちをさせるなよ……」

 歩きながら文句を言う。


「仕方ないのです!フロラディーテ団長達は西の村に大量発生したゴブリン退治で大忙しなのです!」


「まぁ、俺は今日は暇だからいいけど。だが、食材を運んだら帰るからな!引っ越し作業、全然やってないのだ!」


「はい!フロラディーテ団長との新居にですね!グフフ……」

 ハナは荷物を持った両手を口元に持っていき、下品な笑い方をする。

 

「オヤジみたいな笑い方はよせ。いきなり、怪談小屋の近くに邸宅が建っていたんだ!王の仕業だろ?まったく……」

 俺がフローラと実家に帰っている間に、王は勝手に俺とフローラが住む邸宅を建築ギルドに頼んで建てていた。

 建築ギルドの連中の話では、災害級の魔物を倒した俺達の力を王は、なるべく手元に置いておきたいらしく、プレゼントと称して自分の目の届く範囲に邸宅を建てたということだ。


 勇者ヨミュカ・エリッサも戦士のタンクと同じ領土を貰ったが、勇者は魔王討伐のため、各地を転々とすることが多く、手元に置いておくのは困難と判断されたようだ。


「ここまでで大丈夫です。マスキ軍団長ありがとうございました!」

 ハナと別れ、帰路につく。


 【マスキ邸宅】


「はぁ~、しかし大邸宅だな~。おや?雨か……」

 新居に着くなり雨が降ってきた。


 俺は急いで新居の中に入った。


「コン!」

 邸宅の中に一匹の白い狐が紛れ込んでいた。


「おやおや、どこから入ったんだ?ほら、出ていきなさい……」

 俺は白狐を邸宅の外へ追い出す。


「くぅ~ん……」

 白狐は甘えた声を出しながら邸宅の外へ走っていった。


 どこかで見たような狐だが……ま、気のせいか。


 ダッダッダッダ!


「ひゃ~急に降ってきたのだ。あ!マスキ……さん、ただいま!」

 フローラが雨の中、走って帰ってきた。


 昨日までは呼び捨てだったが、急に恥ずかしくなったらしく、呼び方が『マスキさん』になった。女心は、やはり分からん。


「俺も今、帰ったところだよ。あれ?その狐……」

 フローラの足元に先程の白い狐がいた。


「きゃぁ~!かわいい!マスキさん、狐さんを飼うのか!?一気に家族が増えたみたいで私は嬉しいぞ!よし、一緒にお風呂に入ってこよう!……マスキさんも一緒に入る?」

 フローラが上目遣いで誘ってくる。


「あ、俺は後でいいよ。怪談小屋の荷物をこっちに持ってこないといけないし……」


「む――、わかったのだ。よし、狐さん!お風呂へ行こう!」


「コン!!」

 少し不貞腐ふてくされたフローラだったが、すぐに笑顔になり白狐と風呂場へと消えた。


 あれ?あの狐……飼うの?


 俺は少し考えたあと、すぐに考えるのをやめてて、引っ越しに専念をした。


 【その後 風呂場】

  

 俺は引っ越しの準備を終え、風呂場で一息をつく。

 しかし、デカイ風呂場だ。これならフローラと一緒に入っても大丈夫だろう。


 バシャバシャ!

「いかんいかん……」

 俺はよこしまな妄想を顔を洗って振り払う。


 どうも、最近、らしくない。


「相変わらず、巨乳好きだのぉ?マスキ。ま、私の方が大きいけどな……」


「え!?」

 声が聞こえて慌てて風呂場を見渡す!


 風呂場の入り口に、白狐が座っていた。


「……なんだ、空耳か」

 俺が「ふぅ~」と深い溜め息をつくと、すぐに白狐が喋り出す。


「呪力を見ればすぐにわかったわ。まさか、お主が転生して女と暮らしているとはな……」


 ザバン!!


 俺はびっくりして立ち上がった!

「え!?え!?その声……まさかクスノハか?」


「やっと気づいたか……。妻の存在に気づかぬとは、転生して力が弱まったか?」


 こわい――。


 最初に思った感情が「こわい」だった。


 転生前に婚約した白狐が化けたクスノハは、その美貌から数多の男を虜にしたが、実際はかなりの恐妻家であった。


 妻より先に起きるのは当たり前、掃除、洗濯、子育ても全て俺。とにかく、休むことなく、いつも怒られていた。怪談小屋で怪談話をしているときだけが、俺の自由だった。


「ふ、フローラは!?」

 俺は真っ先にフローラの心配をした。


「たわけ。私が危害を加えるわけがなかろう。お主は呪力はそのままだが、私と婚姻した益材とは別人。今さら取って食おうとも思わんわ」

 

 こわいこわい。


 取って食うとか、クスノハが言うと冗談に聞こえない。


 とりあえず、危害は加えなさそうでも、あのクスノハだ。どんな嫌がらせをされるのか、わかったもんじゃない。


「しかし……お主が死んで、私は随分と泣いたぞ。転生したとはいえ……会えてよかった」

 白狐のクスノハが目に涙を浮かべる。


「……クスノハ」


 そうだよな……俺が先に死んで、クスノハには悲しい思いをさせてしまった。


「すまんな……クスノハ」


「いやなに、たまに呪力を貰うだけで私は一向に構わないぞ」


 ドロォン!


 そういうとクスノハは昔の絶世の美女の姿になり、俺に迫ってきた。もちろん、真っ裸だ。


「待て待て待て――!!あ――!!」


 俺が女を苦手になったのは、クスノハのせいであった――。


 【食堂】

「あ、マスキさん!ご飯できてるよ!」

 フローラが満面の笑みで手を振る。


 テーブルにはところ畝ましと、ご馳走が並んでいた。二人で食べるには多い気がするが……。


「ああ……すごいな。いただこう」

 風呂場の件があって、まともにフローラの顔が見れない。


「はい、狐さんの分も、ちゃんとあるわよ!」


「コン!!」

 フローラはペット用の皿に食事を取り分ける。


 こわいこわいこわい。


 クスノハは何を考えているのだ?


 まさか、ずっとここにいるつもりか?


 考えただけで、ゾッとした。


「この狐さんに名前をつけようと思うのだけれど、どんな名前がいいかな?」

 フローラが俺に聞いてきた。


「コン!!」

 クスノハが俺を睨みつけているような気がする……。


「……クスノハ……なんてどうかな?……はは」


「クスノハ!かわいい名前ね!そうしましょう!クスノハ、いっぱい食べてね!」


「コン!!」


 嫁と元嫁が笑顔でご飯食べてる姿に俺は恐怖を覚えた。

 怪談師の俺だが、こんな怖い話は聞いたことがない――。


 【その夜】

「マスキさん……今日は元気ない」

 布団に潜ったフローラが顔を出す。


「あ、ああ……今日はちょっと疲れててな……はは」

 

「ククク……」

 部屋の隅に設置されたペット用の小さな小屋から顔を出したクスノハが嫌みったらしく笑う。


 やっぱりクスノハだ!


 関わるとろくなことがない!


 そういえば、ノストーラの予言にもあったな……耐えるもまた、人生……か。


 俺は明日、ノストーラの予言書の本を買ってこようと心に決め、恐怖の大王(=クスノハ)に怯えながら眠りについた――。


 <つづく!>

 

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