第27話『死の商人』【怖さ★★☆】

 ――マスキ殿――ちゅ。


 ちゅ――…………。


「ぶはぁ!!苦しい!!」


「きゃ!!」

 急に起き上がるマスキ殿に私はびっくりしてのけ反る。


「あ、あれ?ここは?ヤマタノオロチは?」  

 マスキ殿が部屋をキョロキョロと見渡す。


「ああ、ここはギオン騎士団総本部の私の部屋だ。ヤマタノオロチはマスキ殿が気絶しているうちに勇者様が倒したんだ!マスキ殿にも見せたかったな~。クサナギの剣があんな形に変化するなんて……」

 私は身振り手振りをして、あの時の状況を説明しようとしたが、マスキ殿の反応はいまいちだ。上手く伝えるのは難しい。私は伝えるのをあきらめて、現状報告をする。


「それで、マスキ殿が起きる前にエリッサ様とタンクさんが王に報告に行ってくれることになって、私はマスキ殿を看病しながら帰りを待っていたのだ」


「看病?キスで窒息させるのが看病か?」


「……気づいてたの――!!?」

 きゃ――!!恥ずかしい!!

 ただただ恥ずかしい!!

 だって、戦場でいい雰囲気になって、戦いが終わってからってマスキ殿が言うから……。


「息が止まるまでキスする奴がいるか!」

 ビシ!

「あたぁ!」

 私はマスキ殿のチョップを頭にモロにくらう。


「そういうことは起きてる時にしなさい!」


「は~い……え!?」

 今……起きてるよね?

 あれ?今、キスしていいの?

 マスキ殿の顔が心なしか照れている気が……。

 どっちなの?

 私が目をつむるの?

 目をつむって待てばいいの?

 合ってる?

 そうだ!目をつむったフリをしてマスキ殿の様子を見ようかな?

 よ、よし!それで行こう!!


 私はゆっくりと、目を閉じた。


 んっ…………。


 ガチャ!

「起きたか~?おや?お楽しみ中だったか?」

 私がつむった目をうっすら開けると、いきなりドアを開けて覗くタンクさんの姿が見えた。


「きゃぁぁぁ――!!!!!」

 私は恥ずかしさのあまり大声で叫んだ!


「タンク、あんたは顔が『怪談顔』なのだから、いきなり覗いたらだめよ」

 勇者エリッサ様が次いで顔を出す。


「誰の顔が怪談顔だって!?お前だって――……まぁ、お前はかわいいけど」


「……なによ……ありがと」

 きゃ――!エリッサ様の照れた顔を見たら、こっちまで照れてしまう!

 タンクさんの変に素直なところにエリッサ様は惚れたのであろうと、勝手に妄想する。


「で、なんだって?」

 マスキ殿が冷静に声をかける。

 マスキ殿は恋愛とか興味ないのか?

 ひとりで浮わつく自分が悲しくなってくる。


「国を救った私達、一人一人に『爵位』と『領土』をくれるって」

 エリッサ様はさらっととんでもないことを話した。


「ええ!!?いきなり、爵位とか領土とか言われても!!……困ります」

 私はひどく困惑する。


「でしょ!?だから、私は王に言ってやったの!「私はタンクと結婚するので、爵位も領土もひとつでいいです!」って!!」

 いや……エリッサ様、そういうことではなくて……。まぁ、私も……ゆくゆくは……ま、マスキ殿の元へ……。


「そうそう、マスキとフロラディーテも一緒になると思って、爵位と領土はひとつでいい!って言っておいたから」


「俺は本人達に確かめたほうがいいと言ったぞ」

 タンクさんが頬を掻きながら言い訳をする。実際、エリッサ様を止められなかったのだろう。


「あれ?まずかった?」

 エリッサ様は心配そうな顔をこちらへ向ける。

 私は困ってしまい、助けを求めるようにマスキ殿へ顔を向けると、マスキ殿が頷く。


「まぁ、まだ早い気はするが、フローラが嫌じゃなければ、俺はそれでもいいよ」


「嫌じゃない!!!!」

 私は咄嗟に叫んでしまった。


「そっか!良かった!」

 エリッサ様が満面の笑みを私に向けてくれた。

 私はただただマスキ殿に必要とされたことが嬉しかった。


「じゃ、私とタンクは村に報告に戻るね」

 そっか。エリッサ様とタンクさんは幼馴染みって言ってたから、同じ村の出身なんだ。


「そうなると……俺も気乗りはしないが一度、戻るか……フローラと一緒に実家に……」

 マスキ殿は深いため息をつく。


「……へ?」

 実家?私も一緒?結婚の挨拶?私は少し頭の整理が追いつかず途方にくれた……。


 【商人の町 ショロファン】


「実家を追い出されて、もう6年だ。さすがに変わったな」

 俺は見慣れた建物を探すが、町の入り口の看板以外は大きな建物が増え、記憶との相違に戸惑う。


「マスキ殿!何が合っても私はマスキ殿と一緒だ!か、駆け落ちだってしてみせる!!」

 白のワンピースに身を包んだフローラがひとり気合を入れている。

 本当に町を歩けば誰もが振り向く美人がどう間違って怪談ばかり話す俺を好いたのか……。七不思議があったら絶対に入るな。俺は頭の中でひとりで頷く。


 それにしても、俺が家から追い出されたと聞いてからのフローラはどこか変だ。


 まぁ、そこがかわいいとこなのだが……。


「フローラ」


「ん?なんだ?マスキ殿……」


 俺はフローラに真剣な顔を作りながら話し始める。

「『死の商人』って、知っているか?」


「え!?し、知らないが……」


 【死の商人】


「毎度あり、また来月に来ます」

 雨避けの頭につける傘と合羽かっぱを身につけた男は深々と頭を下げる。


「ガハハ!!良い買い物をした!!金ならいくらでもある!!」

 全部の指に宝石を散りばめた恰幅の良い富豪の男性が高笑いをする。


 それからというもの、商人は毎月、男の元を訪れるようになった。


 数年が経った頃、ある噂が町に溢れた。


「あの富豪、歳を取っていない!むしろ若返っているぞ!?」

「どうやら毎月、訪れる商人の販売するものが原因らしい!」


 フローラが俺の話を聞きながら真剣な様子でボソボソ呟く。

「健康に良い食品を売っていたのだろうか?」


「半分正解だな。男の売っていたものは……『不老不死』だ」


「不老不死!!!!」

 フローラが身を乗り出して驚く。


「そして、また噂が流れる……」


「最近、人攫ひとさらいが多いらしいぞ」

さらわれるのは子供ばかりだ……」


 ある時、いつものように馬車でやってきた商人を村の子供がこっそり後をつけて、富豪との会話を盗み聞きしたそうだ。


「どうですか?調子は」

「ガハハ!!お主のお陰で元気だわい!」

「それは良かったです。では、今回はこれで……」

「あ、いや待て。最近、尿の色が気になるのだが?」

「尿……それは腎臓が原因かと。どうします」

「そうだな……どうせなら早いほうがいい。取り替えよう」

「かしこまりました。馬車の中で取ってきます。少々お待ちくださいませ」

 子供は商人が出てくる前に逃げ出した。


「ヤバい!父ちゃんに知らせなきゃ!馬車の中に子供達がいた!きっと、富豪の調子の悪くなった臓器を子供達の臓器と取り替えしていたんだ!」


 そう、商人が販売していたのは『若い臓器』。子供を人身売買しながら、売れ残った子供の臓器を富豪に売っていたのだ。


 ダン!!

 曲がり角で子供は誰かに頭からぶつかって尻餅をつく。

「痛てて……」

 子供が頭を両手で押さえながら見上げると、そこには先程の商人の姿があった!!


 商人はニタァ~と笑いながら、こう言った。


「おや?元気の良さそうな内臓ですね」


「きゃぁぁぁ――!!!!」

 フローラが町の入り口で大声を出す。


「こら!不審者に間違えられるだろ!」

 俺はフローラの手を握り、路地裏まで引っ張った。


 路地裏に連れ込まれたフローラは神妙な面持ちで口を開く。


「その……人攫いをして……臓器を売っていた商人というのが……マスキ殿の親……なのか?」

 フローラは俺の目を真っ直ぐに見た。


 澄んだ目だ。

 一切の淀みがない。

 たとえ自分以外の全員が俺の敵になっても、最後まで俺だけを信じてくれる。そんな目だ。


 俺はそんなフローラの想いに答えるかのように、重い口を開いた。


「あ、ゴメン。ただの都市伝説。俺の親は服屋だ」


「へぁ!?……マ~ス~キ~殿ぉ――!!」

 フローラの顔がみるみる鬼の形相に変わる。


 まずい、からかい過ぎた。


 俺はただ、服のセンスがなくて追い出されただけなのだ。


 よし、逃げよう!


「俺の家、港の近くなんだ!」

 俺はそれだけ言って走り出した。

  

 タッタッタッタ!


「待て――!!マスキ殿――!!」


 ビュゥ――ン!ガシィ!!


 さすがの剣聖。俺はすぐに追いつかれ、フローラに説教をされてから、実家に向かう羽目になった……。


「まったくマスキ殿は!言っていい冗談と悪い冗談がありますよ!罰として今日はお風呂に一緒に入ってもらいます!私はマスキ殿のせいでここ最近、お風呂にゆっくり入れなくなってしまったのです!いいですね!約束ですよ!」

 


 ……え?お風呂?

 

 <つづく!>




 

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