第26話『ヤマタノオロチ』【怖さ★★☆】
「どうやら、スケルトンドラゴンの住みかに着いたようね……くちゃい!!」
勇者ヨミュカ・エリッサはあまりの腐敗臭に鼻をつまむ。
「すごい臭いだな。こんなところでいつまでも待ってられないぞ?」
戦士のタンクがしかめっ面をする。
スケルトンドラゴンが現れてから一夜にして村が3つ壊滅した。
スケルトンドラゴンの毒性の強いブレスは生身の人間では数分も待たずに息を引き取るだろう。
何より恐ろしいのは、その速さ。村に降り立ち、ブレスを吐く。そして、飛び立つ。ものの数分で村が壊滅するのだ。
そこで、先行の近衛兵が命がけで探し出したスケルトンドラゴンのねぐらに先回りして罠をはる張ることになったわけだ。
「さて、俺の出番だな。浄化の札
四方に
「ふぁ~!!マスキ殿!!すごいぞ!空気がうまい!」
鼻をつまんでいたフローラが、一転、大きく深呼吸をする。
「本当だ!怪談師というのは、そんなこともできるのか!」
タンクが両手を上げて大袈裟に感心する。
「大したことないさ。さ、罠を張るぞ。この酒をスケルトンドラゴンのねぐらに設置だ」
俺は用意していた杯に強めの酒を注ぐ。
「へ~!酒を飲ませて浄化させるのか!ヤマタノオロチ作戦ね!」
エリッサから珍しい言葉を聞く。
「お!ヤマタノオロチ伝説を知っているのか!!」
俺は嬉しくなり、少し大きな声を上げてしまった。
「むぅ。私、知らない……」
なぜかフローラが俺の袖を引っ張りながらむくれている。
仕方なく、簡単に説明する。
「ヤマタノオロチは胴体に八つの頭と八つの尾をもち、目はホオズキのように真っ赤で、身体じゅうにヒノキやスギが生え、カヅラが生い茂り、八つの谷と八つの丘にまたがるほど巨大な大蛇のことだよ。昔、老夫婦の八人の娘が毎年、生け贄にされ、最後のひとりとなった時、スナノオという勇者が酒に酔わせて倒したとされているのさ」
「そう、それが私の父ちゃんだ!」
エリッサが手を腰につけ「えっへん!」とポーズを取る。
「ええ!?エリッサ様のお父様も勇者だったのですか!?」
フローラが驚く。俺も驚いた。
タンクが話に割り込む。
「そうなんだよ~。で、こいつの父ちゃんがヤマタノオロチに剣を刺しっぱなしで帰ってきちゃったから、勇者の剣『クサナギの剣』が行方不明になっちゃって、エリッサは素手で戦ってるんだぜ!アホだよな~」
「アホって言う奴がアホだ!」
またエリッサとタンクのケンカが始まった。
『グワァァァ――!!!!』
突如、ものすごい咆哮と共に、八つの頭と八つの尾のガイコツが現れた。
「あ!もしかして、あれか?ヤマタノオロチってのは!」
フローラが無邪気に指差す。
「……ああ」
そうだな……あれだな。スケルトンヤマタノオロチ……だな。
「ねぇ……あれって……ヤバい?」
物陰に隠れているエリッサがタンクに言う。
「そうだな……災害級の魔物の上位タイプだから……世界の終焉級かな?」
タンクが冗談を言うかのように話す。本当に冗談だったらよかった。
あれを……倒せるのか?
用意した罠も、あの巨体では少し弱体化したらラッキー程度だろう。
スケルトンヤマタノオロチの存在は絶望という言葉がぴったり当てはまる。
それほどまでに、ひと目見ただけで力の差を感じた。
しかし、勇者エリッサに逃走の二文字はないだろう。
勇者パーティー『ラストリゾート』はその名の通り『最後の砦』。逃げても『今死ぬか』と『後で死ぬか』の違いしかなく、それはたいした違いにはならなかった。
「100回死んでも、倒せなさそうね。ま、行くしかないか」
エリッサが意を決する。
「エリッサが100回死ぬまでは、俺も耐えて見せるさ」
タンクが冗談交じりに話すが、笑みはない。
「まぁ、待て、俺に考えがある。フローラ、3番目のしっぽ、斬れるか?」
俺は怪談師だ。死者の伝言は消さずに伝えるが、
「3番目?わかった!マスキ殿!任されよう!」
フローラが剣の柄を力強く握る。
「よし、では、タンクさんスケルトンヤマタノオロチの動きを10秒止められますか?」
「ははは!出来なくてもやるよ。その代わり、失敗しても怒るなよ」
「私が怒る!!」
エリッサが涙目になりながら、タンクの厚い胸板に両手を握り叩きつける。
「……悪かった。絶対にうまくやるさ」
そう言いながら、タンクはエリッサにキスをした。
「……腐敗臭がする」
エリッサは笑顔で答えた。
「……ん」
俺の隣でフローラがこっちを向いて目をつむっているが……悪いが俺は死ぬつもりはない。
「生きて帰れたらな」
俺はフローラの頭をポンポンと叩いた。
「……承知した」
少し膨れっ面をしたが、わかってくれたようだ。
勇者エリッサが号令をかける。
「さぁ!ラストリゾートの初陣だ!みんな!世界を救うよ!!」
『おう!!』
グゥルゥゥ??
タンクが酒を飲んで浄化の湯気が出ているスケルトンヤマタノオロチの正面に立つ。
「おっしゃ!骨骨トカゲ野郎!!こっちだ!!」
『グガガァァァ――!!!!』
激昂したスケルトンヤマタノオロチがタンクに向かって突進する。
ドガガガガァァァ!!!
タンクは大きな盾で受け止めた!
「ぐぅおおお!!!フロラディーテ!!10秒持たない!5秒だ!!5――!!4――!!3――!!」
タンクは勝手に制限時間を縮めると、フローラを急かす。だが、それが適正な時間だろう。むしろスケルトンヤマタノオロチの攻撃を受け止めれただけでも奇跡だ。
「上等だ!!りゃぁ――!!!!」
フローラは3番目のしっぽに斬りかかる!!
ズバァァ――ン!!!!
「あ、あれは!?クサナギノの剣!?」
エリッサが切り落とされたしっぽに刺さっている剣を見つける。
「そうだ!エリッサ!クサナギの剣を拾え!!俺はこいつを……生き返らせる!!!!」
さて……俺の使える術で奴を止めることが出来るのやら……。ま、やるしかないか……。
「地獄の十王の一人、泰山府君よ……ちょっくら力を貸してくれっと!!」
俺は五枚の札をスケルトンヤマタノオロチの上空へ投げ、印を結ぶ。
「
札が奴の上空で五芒星を描く。
「陰陽五行説、
俺が印を結ぶと、スケルトンヤマタノオロチが苦しみだす。
『グガガガガァァァァぁぁぁぁあああ!!!』
「な!!そ、蘇生!?」
フローラがどんどん血肉が再生していくスケルトンヤマタノオロチに驚愕する。
やがて、死する前の姿を取り戻す。
『ぐがぁぁ!!』
キョトンとする勇者エリッサに声をかける。
「ほら、終焉級から災害級にランクが下がったぞ。手に持っている剣はなんだ?親父さんがヤマタノオロチを倒したクサナギの剣だろ?」
エリッサの顔が徐々に高揚する。
「ああ……そうだ!父ちゃんに倒せて、私に倒せぬ者はない――!!!!」
ズバァァ――ン!!!!
慌ててタンクもエリッサを援護に走る。
「ば、バカ!それでも災害級だ!ひとりで行くな!!」
「マスキ殿!!」
フローラが餌を待つ子犬のような顔をする。
「ああ、行ってこい。俺は呪力切れだ。休ませてもらう」
「ああ!行ってくる!!」
目の中に炎を浮かべフローラは走り出した。
スバババァァ――ン!!!!
「もう、大丈夫……だろ……ちょっとばかり……無理をして……しまっ……た」
俺は、そのまま意識を失った――。
<つづく!>
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