第25話『ろくろ首』【怖さ★★☆】
「みっともない姿を見せてしまいました。申し訳ない」
私は勇者エリッサ様の『自動蘇生』を目の当たりにして、あろうことか気絶してしまい、山の中腹までマスキ殿におんぶしてもらったようだ。
「いやいや、こちらこそ先に伝えておかなくてごめんね。私は常に女神の加護『甦り』が発動しているから死なないんだ。こんなふうに……」
スパァ――ン!!
エリッサ様は自ら首をナイフで切り、血が吹き出る!
ビュー!!!
「きゃぁ――!!!!」
私は思いっきり叫ぶ。
「やめんか!」
ビシ!
戦士でエリッサ様の恋人のタンクがエリッサ様にチョップする。
「まるで『ろくろ首』だな」
マスキ殿が言う。『ろくろ首』?怪談話だろうか?
「マスキ殿……『ろくろ首』とは?」
「お!噂の怪談!?私も聞きたい!」
首の切り傷が光ながら回復していくエリッサ様が私の肩に両手を当てながら顔を出す。
「きゃぁ――!!!!」
まだエリッサ様の『甦り』には馴れそうもない……。
「S級クエストの最中に怪談話が聞きたいのか?まぁ、あまり気を張りすぎるのも逆効果か……」
マスキ殿は歩きながら怪談話を始めた。
【ろくろ首】
むかしむかし、シホンと言う、聖女を目指す回復術士がいました。
たまたま隣国ヤミャナンへ来た時、山道の途中で日が暮れてしまいました。
「仕方がないわね。今夜はここで野宿ね」
シホンの性格は勝ち気で怖い物知らず。
そのまま、ゴロリと道ばたの草の上に寝ころぶと、すぐに寝てしまいました。
「もしもし……もしもし」
呼ぶ声に目を覚ますと、一人の農民の男が立っていました。
「お嬢さん、こんなところで寝ていてはいけませんよ。この山には人を食う、それはそれは恐ろしい魔物がいて、何人もの冒険者が襲われてるのです。よかったら、私達の小屋へ来ませんか?」
「そうなのですか!?それは貴重な情報をありがとうこざいます。では、お言葉に甘えて、一晩泊めてもらおうかしら」
シホンが男の後をついていくと、山の中に一軒の粗末な家が建っていました。
「お邪魔します」
「おやおや客人とは珍しい。何もない場所ですが、どうぞお寛ぎ下さいませ」
家の中には案内してくれた男のほかに、三人の男と一人の女がいました。
貧しい身なりをしているのに、どこか礼儀正しくて、とても農民とは思えません。
そこでシホンは、思い切って尋ねてみました。
「みなさんは、もしかして王都の人ではありませんか?」
すると、一番年上の男が言いました。
「はい。おっしゃる通り、元は王都の近衛兵でした。お恥ずかしい話ですが、訳あって人を殺してしまい、部下とともにこうして山の中に暮らしながら、自分の犯した罪を反省しているしだいです」
「それは、よくぞ話してくれました。私も聖女を目指す身です。神語を唱え、亡くなった方の冥福をお祈りましょう」
そう言ってシホンは夕食をいただいた後、夜遅くまで神語を唱えました。
もうすっかり夜もふけて、隣の部屋からは物音ひとつ聞こえてきません。
「さて、そろそろわたしも寝ようかしら」
シホンは立ちあがって、戸の破れから何気なく隣の部屋をのぞきました。
「え!?……これは!」
シホンは、思わず息を飲み込みました。
何と布団の中には、首のない体が五つ並んでいるではありませんか!!
「ひゃあ!!!!」
「……フロラディーテ、もう少し静かに。魔物に気づかれるよ」
勇者エリッサ様は驚く私をなだめるように手を握ってくれる。
その様子を見て安心してのか、マスキ殿が話を進める。
「さては、人食いの魔物にやられたか。お気の毒に……」
シホンは恐ろしさも忘れて、部屋に入りました。
ところがどこにも血の跡がなく、どの体も動かされた様子がありません!
「おかしいぞ?」
しばらく考えこんでいたシホンは、ふと、ろくろ首の話を思い出しました。
首の伸びるろくろ首は、体から首を離して遠くへ散歩に行くと言います。
「もしや、あの五人がろくろ首であったか?よし、もう二度と首が戻れない様に、こいつらの体を隠してしまおう!」
シホンは床板をはがすと首のない体を次々と下へ投げ込み、元の様に床板をはめて外へ出ました。
『……ひそひそ……ひそひそ』
外には生暖かい風が吹いていて、その風に乗って人の話し声が聞こえてきます。
シホンがその話し声の方に近づいていくと、五つの首が、あっちへゆらゆら、こっちへゆらゆら飛びまわりながら話していました。
「あの聖女見習い、なかなかうまそうじゃ」
シホンを案内してきた、農民のろくろ首が言いました。
「しかし、いつまでも神語を唱えられては近寄る事も出来ん。だが、もうだいぶ夜もふけた。今頃は、すっかり眠り込んでいるはずだ。だれか様子を見て来い!」
一番年上のろくろ首が、言いました。
「はいよ!大丈夫、つまみ食いはしないよ……ケケケ」
すると女のろくろ首が、フワフワと飛んで行ったかと思うと、すぐに戻って来ました。
「大変よ!女の姿がないわ!それに、私達の体がどこにも見当たらないの!」
「何だと!」
一番年上のろくろ首は、みるみる恐ろしい顔になりました。
髪の毛を逆立てて、歯をむきながら目をつり上げる姿は、さすがのシホンもぞっとするほどです。
「体がなくては死んでしまうぞ!!こうなったら、何としても女を探し出し、八つ裂きにしてくれるわ!!」
五つのろくろ首は、ものすごい顔で火の玉の様に飛び交い、シホンを探し始めました。
シホンは、じっと木の後ろに隠れていましたが、ついに五つのろくろ首はシホンの姿を見つけ出しました。
「よくも、わしらの正体を見破ったな!」
五つのろくろ首は、一度にシホン目掛けて飛びかかってきます。
しかしシホンは、隠し持っていた短剣を取り出し応戦します。
「私を甘く見ないことね!」
と、いきなり、一番年上のろくろ首を斬りつけました。
「ギャァァァ!」
ろくろ首は、叫び声をあげて頭から血を流しました。
「おお!!」
エリッサ様が拳を握る。
「ひゃぁ――!!!!」
「こら、フローラ。これから話の佳境に入るとこだから」
私に抱きつかれたマスキ殿が私を振りほどこうとする。違うの!あれ!あれ――!!!!
「なんだ!?首なし馬だ!!」
戦士のタンクさんが叫ぶ。
そうなの!首のない馬が走ってきたの!!
「首なしの馬!?デュラルハンか!?」
マスキ殿が叫ぶ!
デュラルハン!?デュラルハンはA級の魔物だが、馬に乗った首のない騎士のはずだ!馬も首がなかったっけ?
どちらにせよ、驚いたが別に幽霊の類いではない!だったら、斬れる!!
ガン!!
「よし!動きを止めた!!」
タンクさんが大きな盾で首なしの馬の動きを止める。
私は剣を抜き、首なしの馬に斬りかかる!
「やぁ――!!」
ズバァァ――!!
『ヒヒィィィ――ン!!!!』
手応えあり!首なしの馬が横たわる。
「ありゃ?出番なし……と、見せかけて!」
エリッサ様が振り向き拳を振るう!
茂みに隠れていた首なしの騎士が襲いかかる!
デュラルハンの本体が隠れていたのだ!
ボゴォォォン!!
「よっしゃぁぁ――!!」
エリッサ様がデュラルハンを再起不能に叩きのめした!
「エリッサ様!さすがです!!」
「ま、待て!フローラ!」
エリッサ様に駆け寄る私をなぜかマスキ殿が止める。
「え!?なんで――!?」
突然、私の目の前でエリッサ様の首がスゥ――っと横にズレ、落ちた頭を自らキャッチして私に向かって声を発した。
「ありゃ?斬られてた?失敗、失敗!」
「うぎゃゃぁぁぁぁ――!!!!」
「はぁ……早く魔王を倒してこいつを人間に戻してやらないとな……」
薄れゆく意識の中で、タンクさんのため息まじりの声が聞こえたような気がした……。
<つづく!>
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