第24話『勇者ヨミュカ・エリッサ』【怖さ★★☆】
フロラディーテはS級スキル『剣聖』を女神から与えられた。普段はギオン騎士団団長として部下の育成、魔物の討伐部隊編成を仕事としているが、国が指定する災害級の魔物が出現した場合、勇者パーティーに招集されることとなる。
しかし、21歳の若さで『剣聖』となったフロラディーテは、まだ一度も勇者パーティーに招集されたことがなかったが……。
「王!!大変です!ドラゴンです!しかも……スケルトンドラゴンが現れました!」
兵士は王の前で跪き、絶望を噛みしめ、力なく叫んだ。
「なんじゃと……死して尚、闇の魔力を纏うドラゴン種の最上位種……スケルトンドラゴン!!」
王座から立ち上がった王は力なく天を仰ぐ。
「はい……すでに近衛部隊が数隊ほど向かいましたが……いずれも、全滅……しました」
兵士の目から大粒の涙が溺れる。
「仕方あるまい……神の使者、勇者エリッサを呼ぶのじゃ!!勇者パーティー『ラストリゾート(最後の砦)』の結成じゃ!!」
「仰せのままに!!」
王命はすぐに全土へと伝わった。
【英雄の村 ユシャイルーン】
「エリッサ!王命だってよ!」
小麦色の肌に逞しい体、エリッサの幼馴染みで戦士のタンクは白い歯を見せる。
「もう!もうちょっとでトウモロコシの苗を植え終わるとこだったのに、仕方ないわね。急ぎましょう!世界を救いに!」
赤いショートヘアーに農作業用のオーバーオールを着た元気な少女は土のついた手で額の汗を拭う。
【スケルトンドラゴン生息地 ヤツオモテ山脈】
「初めまして、私が勇者ヨミュカ・エリッサよ」
エリッサと名乗った少女はフローラに握手を求める。
まさか、勇者が女の子だとは思わなかった。
「初めまして。私は剣聖フロラディーテ、ギオン騎士団団長をしている」
「ギオン騎士団っていや~王国最強の部隊じゃね~か!その団長がこんなベッピンさんだとは驚いた!あ、俺は戦士のタンクだ。よろしく」
ガン!
「痛っ!」
急に勇者エリッサがタンクの足を蹴る。
「あ、エリッサとは幼馴染みで……恋人だ。……よろしく」
……どうやら、勇者はタンクがフローラを褒めたのが気に入らなかったようだ。
「……ふん!最初からそう、言いなさいよ」
エリッサがブツブツ呟く。
「えっと、俺は怨霊部隊長のマスキだ。本来は魔術師団から派遣されるらしいが、なぜか俺が呼ばれた」
俺が勇者パーティーの仲間なんてとんでもないと激しく抵抗したのだが、王の命令に逆らうことなどできようもなく……。そもそも、魔術師団の立場が、あの模擬戦の影響でかなり悪くなっていて今回の招集は辞退したらしい。嫌がらせは減ったが、何を企んでいるのやら……。
「怪談小屋のマスキか!?噂では聞いている!魔術師団との対抗戦で魔術師団を壊滅させたという大賢者!」
タンクの視線に俺は反論する。
「どんな噂だよ!!俺は賢者でも大賢者でもない!申し訳ないが、俺はあまり役に立たないぞ!ただ少しアンデッド系の知識が豊富なだけで、あとは回復の効果がある札を何枚か持っているくらいだ」
「そう……なのか?」
タンクが少し残念そうな顔をする。
ツンツン……。
さっきから、フローラの視線を感じ、俺の背中をずっとツンツンしてくる……。
「あ――、あと……一応、フロラディーテの恋人だ」
「こちらも恋人同士だ!ふふふ……」
満足そうなフローラ。女心はよくわからない。
「まぁ!!それではダブルデートですわね!」
勇者エリッサが両手を胸の前で握り、目をキラキラさせる。
「災害級の魔物に向かってダブルデートするバカがどこにいるんだよ」
「む~!ここにいるわ!タンクのバカ!」
タンクとエリッサが言い合っている。仲が良いのか悪いのかわからん……。
「ねぇねぇ、フロラディーテさん、マスキさんとはどこまでいったの?」
フローラに駆け寄るエリッサ。
「え!?……えっと……キス……までゴニョゴニョ」
「そうなんだ~私は……ゴニョゴニョ」
「ひゃぁ!!もう、そんなに!!」
エリッサとフローラが何やらこそこそ話しているが放っておこう……。
「さて、お喋りはここまでのようだ。出たぞ」
俺は鞄から札を取り出し、魔物に投げつける!
『ギャァァァ!!!』
襲ってきたトロールが燃え上がる。
「いきなりA級のトロールか!厄介なとこだな」
灰色の肌で全長4メートルのトロールにタンクが斬りかかる!
ドドン!!
『グガガ!!』
タンクの武器は斧だ。それは斬るというより叩きつけるといったほうが合っているだろう。
「やぁ――!!」
ボゴォ――ン!!!!
勇者の一撃!勇者は空高く飛び上がると、全力で拳をトロールに打ち込む!驚いた、勇者の武器は『素手』だ。
ズズ……ン!!
トロールが倒れる。
「マスキさん初動、見事でした。トロールが大したことなくてよかった……」
エリッサは手をパンパンと払いながら戻ってくる。
俺は、トロールから嫌な予感を感じる。
「エリッサ!後ろ!」
スバァ――ン!!!!
「……あ」
エリッサの右肩から左脇腹まで血が吹き出る!
死んだと見せかけたトロールが隠し持っていた刀でエリッサを切ったのだ!
「貴様!!」
素早く駆け出したフローラがトロールにとどめを刺す!
ジャキィィィィン!!
『グワァァァ……』
トロールは息、耐えた。
「あはは……失敗してしまった」
エリッサは笑っているが、今にも上半身と下半身で別れてしまいそうな傷は誰がどうみても致命傷であった。
「ひぃぃ――!!エリッサ様……」
怖がりのフローラが懸命になんとかしようとするが、あまりの残酷な光景に近づくこともできない。
「まったく!ドジだな!とどめを刺すまで気を抜くなって、いつも言ってるだろ?」
戦士のタンクは呆気カランとしている。
恋人の最期だというのに、どういうつもりだ?
「ああ……ごめんごめん……んぐぅ!!」
突如、エリッサの傷口が光だした!
パァァァ――!!!!
「あの噂は本当だったのか……『勇者は死して尚、輝く』勇者のスキルは自動蘇生……『甦り』だ!」
俺は思い出したことを口にする。
勇者ヨミュカ・エリッサの女神から与えられた恩恵。それは魔王を倒すまで死ねない呪い。頑丈が取り柄の戦士のタンクと死なない勇者の最強パーティーのため、元来いるはずのヒーラ-不要の猪突猛進タイプの戦闘特化パーティー。
「はい!元通り!」
まるで手品を見せるかのように、くっついた体を見せるエリッサ。
「う~ん……」
バタン!!
フローラは、そのあまりにもグロテスクな現象を目の当たりにして気絶した。
「ありゃ?」
不思議がるエリッサ。
「すまん。フロラディーテはそういうのに弱いのだ。俺がおんぶするから、先へ進もう」
俺はフローラをおんぶして、ヤツオモテ山脈を歩き出した。
「私もおんぶして~」
「誰がするか!バカ!」
エリッサとタンクもケンカしながら頂上を目指した。
<つづく!>
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