第23話『サーラ伯爵家』【怖さ★★★】


 


「ここが怪奇現象が頻繁に起こるというサーラ・ヤシーキ伯爵家ですか!すごい豪邸ですね!」

 正式に俺の部隊に配属になったハナが飛び跳ねて驚いている。


「うむ。確かメイドのオキィクが伯爵の大事な皿を割って、責任を取って庭の井戸に身を投げてから怪奇現象が起こるという……皿ぐらいで身を投げるとは……」

 フローラが意味がわからんという顔をする。


「フロラディーテ団長!割れた皿、1000万コセンもするらしいですよ」

 ハナが左手の人差し指を立てて『1』を作り、右手の指を丸めて『0』を作り、右手の『0』を果てしなく右へずらしていく。

 

「な!!1000万コセン!!?なんだその皿は!でかいのか!?」

 フローラが驚く。……でかさは普通だろ。

 

「それより、団長。マスキ軍団長とつき合っていると町中、噂なのですが……何かあったですか?」


「な!!何もない!あるわけなかろう!!」

 俺と数メートルも距離を取って歩くフローラに、ハナは直球の質問を投げつける。


 実は池のボートでフローラのお尻を見てから、まともに顔も合わせてくれない。

 

「じゃあ……」

 ハナが俺のところへトコトコ歩みより俺の手を掴み、フローラのところまで引っ張っていき、フローラと手を握らせる。


「はい!これで仲直りでっす!」

 ハナは手を繋いだ俺とフローラを見て笑顔を作る。


「な!?……ま、マスキ殿……す、すまない」

 フローラが繋いだ手をギュッと握り、俺に謝る。


 え?避けられていたこと?ハナの行為?依頼のこと?フローラが何に謝ったか理解が追いつかなかったが、俺も久しぶりに話したフローラの声に安堵する。


「ああ……俺もごめんな。依頼、がんばろうな」


「マスキ殿……うん!私もがんばる!」


「で、実際は何があったですか?」

 いい雰囲気の二人の間にハナが顔を挟む。


「な!!?何もない!!何もないぞ――!!」

 フローラが絶対に何かあったときの言い方をして慌てた……。


 【サーラ伯爵家】


「まったく!あのダメメイド!死んでも迷惑かけて!!早く祓ってよ!忌々しい!!」

 サーラ伯爵家に着くなり、口の悪い女性が話しかけてくる。


「……ノロ-ワレィロ夫人です。ヤシーキ伯爵の第一夫人です。何でも最初に生まれたて子供が醜かったので井戸に投げ入れて殺したと悪名高い……」

 ハナがこっそり教えてくれる。


 豪華なドレスを見に纏った夫人はそれだけ言うと足早に立ち去った。


「……ごめんなさい」

 ノローワレィロ夫人のドレスの袖を掴んでいた女の子が頭を下げて夫人の後を追う。


「あの子は?」


「夫人と浮気相手との間にできた子供らしいです……。他にも何人も浮気相手がいるとか……」

 ハナがこそこそ俺に耳打ちする。


「マスキ殿……なんだか、私はあの夫人が好きにではない……」

 ハナの耳打ちが聞こえたのかフローラは腕を組み不機嫌な表情を浮かべる。


「キャァ――――!!」


 突如、庭の方から夫人の叫び声が聞こえる!


「急ごう!」

 俺達は庭へ急いだ。


 庭にたどり着くと、夫人が井戸のそばで腰を抜かしていた。


「どうしたのだ!」

 フローラが夫人の元へ駆けつける。


「い、井戸の中から声が……」

 夫人が井戸を指差す。


『イチマーイ……ニマーイ……サンマーイ……イチマイタリナイ……シクシクシクシク』


「ひゃぁ!!」

 フローラも腰を抜かす。


 テクテクテク……そばにいた夫人の子供が井戸を覗き込む。


「こ、こら!危ないわよ!」

 夫人が子供を止めに入ると、子供は振り向き、こう言った。


「……今度は、押さないでね!」


「ひぃ!!」

 夫人はその場でヘタリこむ。


「ここから離れるぞ!ハナ!夫人と女の子を!俺はフローラを!」


「かしこまりました!!」

 ハナは素早く夫人と女の子をかかえ、俺はフローラをお姫様抱っこして、公爵家に入った。


 【公爵家 応接間】


「これは、いったい……」

 憔悴している夫人が口を開く。

 女の子は意識をなくしソファーで横になって眠っている。


「あまり信じたくはないですが……呪いの類いですね。夫人、他に何か気になることはありましたか?」


 夫人は両手で顔を隠しながら話す。


「町で……迷子の子供がいたので……私……聞いたんです……「お母さんはどこ?」って……。そしたら……」


 ゴクリ……全員が固唾を飲む。


「その子、バッ!と顔を上げ……」


『オマエダ――――!!!!』


「ひゃぁ!!」

 フローラが俺に抱きつく。


「……マスキ軍団長」

 俺とハナは目を合わせて(……それはあんたの浮気相手の子供だろ)と意見を合わせて頷く。


「わかりました……。ノローワレィロ夫人、これはあなたに恨みを持った者の仕業です。ヤシーキ伯爵の部屋は入れますか?」

 俺は真剣な眼差しを夫人へ向ける。


「え?主人の?ええ……確か鍵がかかっていますが、マスターキーがありますので……」


 俺は執事にマスターキーを借りてヤシーキ伯爵の部屋の前まで来た。


「……開けますね」


 ガチャ……。


「――!?そ、そんな……」

 部屋を見た夫人がその場にヘタリこむ。


 部屋の中には『魔方陣』『蝋燭』『人形』とありとあらゆる呪具と『呪い』と書かれた髪が所狭しと貼られていた。


「マスキ殿……あれ」

 俺の腕にしがみつきながらフローラが祭壇の中央に置いてある髑髏どくろを指差す。


「ああ……たぶんメイドのオキィクだな。ここからは警備隊の仕事だ。引き上げよう」

 

 俺達はなるべく部屋を荒らさないようにして、あとの処理を警備隊に引き継いだ。


 憔悴したノローワレィロ夫人はメイドの殺害を自供し、ヤシーキ伯爵もまた禁じられた術の使用で罪に問われた。


 これは俺の推測だが、最初にサーラ伯爵家が授かった命は……オキィクとの子供だったんじゃないかな。自分の子供を投げ入れられた井戸に自分も身を投げる……まぁ、俺の推測でしかないがな。


「なんだか、悲しい依頼主だったですね~」

 帰り道、ハナが両手を頭の後ろに組んで言う。


「ハナ……お前、サーラ伯爵家で何も盗んでいないよな?」


「へぇあ!?」

 俺の言葉にハナがドキッとする。


 ヤシーキ伯爵の部屋は呪具で溢れていた。呪具コレクターのハナが見逃すわけがない。彼女は双剣の上位職アサシンだ。皆に気づかれず呪具のひとつやふたつ簡単に盗めるだろう。


「ほほ~う、ハナフォサン……ちょっと服を脱ぎましょうね……」

 フローラが剣の柄に手を掛ける。


「だだだ、団長~やだな~盗るわけないじゃないですかぁ~」


 シュパァ――ン!!!!


 フローラは目にも止まらぬ早さでハナの服だけを切り刻む!


「きゃぁ!!」


「ば、バカ!!こんなとこで!!」

 俺はなるべく見ないように顔を背ける。


 ……パラパラ。


「……あ!」

 ハナの切り刻まれた服から呪具のようなものが落ちる。


「ハ~ナ~フォ~サ~ン!!」

 フローラが剣を上段に構える!本気のやつだ!


「マスキ軍団長!それでは、また!」

 ハナは小さな胸を手で隠しながら、スゥ――っと消えるように姿を消した。


「あ!こら!ハナフォサン!!」


 フローラは誰もいなくなった空間にひたすらに剣を振るのであった――。


 ブン!ブン!ブン!ブン!


「ハ~ナ~フォ~サ――――ン!!」


 <つづく!>


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