第19話『はないちもんめ』【怖さ★☆☆】

 オークジェネラルクイーン討伐後、ギオン騎士団総本部へフローラ(をおんぶして)共に帰宅した俺を待っていたのは……宴会だった!


「飲め!マスキ!ガハハ!!まさか災害級の魔物を倒しちまうとは恐れ入ったよ!」

 オヤジーノ副団長が俺に酒を注ぐ。


「いや、倒したのはフロー、フロラディーテ団長だって!俺は罠を張っただけだよ」

 昔(転生前)の趣味で呪力の宿る物を集めるのが趣味でよかった。


「うまいっす!騎士団の料理はこんなにうまいっすか!?」

 双剣ギルド所属のトイレット・スリーノック・ハナフォサン(通称ハナちゃん)も主役席で豪快に飯を食らう。

 時々、両面宿儺の指を食べた後遺症で頬っぺたに口が現れ飯を食っているが、誰も気づいていないから黙っておこう。


「ほ~れ、団長!せっかくの飯が冷めてしまいますぞ!せっかく、王からたんまり報償金を貰ったのだ!ぱぁ~っとやりましょう!」

 オヤジーノは宴会場の隅っこで丸くなってるフローラに大声をかける。

 俺が無頓着なせいか、おんぶしたまま帰ってきたのが恥ずかしかったらしい。


「う、うるさいぞ!オヤジーノ!私はここでいいのだ!ふん!」

 隅っこで一人ジュースを飲むフローラを可愛く思ってしまう。

 だが、あのままにしてはおけないな……よし!


「では、宴会の遊びにまつわる怪談をしてやろう!」


「お!待ってました!!」

 俺の提案に団員が集まってくる。


「……怪談……聞きたい」

 作戦通り怖がりだが大の怪談好きのフローラが俺の声が聞こえるところまで少しずつ近づく。


「お前たち、『はないちもんめ』という遊びを知っているか?」


「子供の時にやったっす!」

 俺の問いに団員Aが答える。ちなみに団員Aは魔術師団との副将戦が評価され、今では兵長に位を上げた。


「それを今からやってもらう」


 団員達は2グループに分かれ、グループは向かい合って、手をつないで一列になり、歌い始めた。


 リズムに合わせて相手の方へ歩いていき、セリフの最後で足を蹴りだします。相手の番になったら、リズムに合わせて後ろに下がるのを繰り返していきます。


 かってうれしい はないちもんめ

 まけてくやしい はないちもんめ


 となりのおばさん ちょっときておくれ


 おにがこわくて いかれない


 おふとんかぶって ちょっときておくれ


 おふとんボロボロ いかれない


 おなべかぶって ちょっときておくれ


 おなべそこぬけ いかれない


 びんぼ びんぼ びんぼ


 びんぼじゃないよ


 あのこがほしい


 あのこじゃわからん


 このこがほしい


 このこじゃわからん


 そうだんしよう


 そうしよう

 

「あはは!楽しい!」

 ハナがグループの真ん中で豪快に足を蹴り出す。楽しそうで何よりだ。


 ここで、グループごとに相談をします。相談内容は、相手グループの誰を自分のグループに持ってきたいか。


 きーまった

 きーまった


 団長がほしい


 兵長がほしい


「ふふふ……貴様か!じゃんけんぽん!」

 選ばれたフローラは前に出て、相手グループの兵長Aとじゃんけんをする。


「やった!勝ったでやんす!」


「くぅ!!……貴様、明日から素振り3000回だ」


「さ……3000回!?」

 真面目な兵長Aは次の日から毎日、素振りを3000回行い、後に剣豪ミヤーモト・ムシャシと呼ばれたとか呼ばれないとか……。


 やがて、兵長率いるBグループがAグループ全員を引き取り、ゲームは終了した。


「負けた……がっくり」

 落ち込むフローラ。


「ガハハ!!久しぶりの遊び、楽しかったぞ!」

 オヤジーノ副団長はことごとくじゃんけんに勝ちご満悦だ。


「さて、この遊び。実は昔は子供の人身売買の歌だったんだ」


「そ、そうなのか!?」

 俺の話にいつの間にか先頭で聞いているフローラが驚く。


「ああ……意味は、こうだ」

 俺は目の前のロウソクに火をつけて話し始める。


 『はないちもんめ』


 かってうれしい はないちもんめ(子供を安く買えて嬉しい)


 まけてくやしい はないちもんめ(子供を安く値切られて悔しい)


 となりのおばさん ちょっときておくれ(隣のおばさん、来てください)


 おにがこわくて いかれない(子買いが怖くて行けません)


 おふとんかぶって ちょっときておくれ(布団をかぶって来てください)


 おふとんボロボロ いかれない(布団はボロボロだから行けません)


 おなべかぶって ちょっときておくれ(鍋をかぶって来てください)


 おなべそこぬけ いかれない(鍋は底が壊れて行けません)


 びんぼ びんぼ びんぼ(貧乏・貧乏・貧乏!)


 びんぼじゃないよ(貧乏じゃないです)


 あのこがほしい(あの子が欲しい)


 あのこじゃわからん(あの子は必要だから安くできません)


 このこがほしい(この子が欲しい)


 このこじゃわからん(この子も安くできません)


 そうだんしよう(相談しよう)


 そうしよう(そうします)


「子供を安く売ることになって残念がっている親。泣く泣く手放す子供でも、いっそ売るなら高額がいいだろう?」

 俺の顔がロウソクの灯りで不気味に揺れる。


「そうだが……」

 悲しい顔をするフローラ。


「この件で隣のおばさんと立ち話をしているうちに、また子買いに見つかってしまって、値段交渉をされるんだ……この家の子供が子買いに全員連れていかれるまで……な」


「ひぇ!!」

 驚き声を上げるフローラ。団員達も皆、驚きを隠せない。


「そんな輩が出ないために我ら騎士団がおるのだろう!!ガハハ!!」

 オヤジーノが高らかに宣言する。


『お――!!ギオン騎士団!!ギオン騎士団!!』

 怪談ムードは一変して大合唱へと変わった。


「さすがマスキ殿!団員達の士気が一気に高まったな!」

 フローラが俺をべた褒めする。


「あ、ああ……」

 そんなつもりではなかったのだが、オヤジーノに感謝して、しばらく一致団結する団員達を眺めながら酒を飲んだ。


『ギオン騎士団!!ギオン騎士団!!ギオン騎士団!!』


 <つづく!>

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