第15話『安倍晴明』【怖さ★☆☆】
「よし!任せたぞ!晴明!」
魔術師団長アシヤドウマンは晴明をけしかける。
「ふん!ちゃんと、勝ったら元の世界に戻せよ!」
晴明は舞台に向かって歩きだす。
「じゃあ、怪我をする前に負けてくるよ……」
俺は気の抜けた返事をしながら大将戦へ向かう。
俺は冒険者ギルドにも登録してない素人で、戦うスキルなんて生活魔法をちょっと覚えただけだ。負けても攻めてくれるなよ……。
「マスキ殿のすまない!すぐにダウンしてくれ!」
フロラディーテの声援も俺にまったく期待していない。
「マスキ!死ぬ前に帰ってこい!ガハハ!」
オヤジーノ副団長にいたっては他人事感がすごい。とりあえず死んだら帰ってこれないからな!
「やれやれ、お前が対戦相手か……おや?」
晴明を見たマスキはその独特な袴姿を懐かしく思った。
「
「お主、この袴を知っておるのか?」
晴明がマスキに鋭い眼光を向ける。
「いや、気のせいだ……すまぬな」
転生前の記憶を話すとややこしくなる。やめておこう。それにしても、その顔……どこかで見たような?う~ん……気のせいか……?
『それでは大将戦!開始!!』
『わ――!!わ――!!』
大歓声に包まれ、試合が始まる。
あまり騒いでくれるな、すぐ負けるから。
「少しは楽しませてくれ!急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう) 燕!」
男が妙な呪文を唱えると無数の鳥の形の折り紙が襲ってきた!
ビュン!ビュン!
『わ――!!わ――!!』
見たのことのない魔法に観客席が湧く!
「なんだあの魔法は!!創造魔法!?召喚魔法!?いずれにせよ宮廷魔術師でも扱えない幻の魔法だぞ!?」
フロラディーテがかなり驚いているが、俺は見たことがあった。あれは
「なんだってんだ!?六根清浄(ろっこんしょうじょう)!!」
ボウゥ!!
俺が中指と人差し指を揃え、形代に向けると、形代は激しい炎に包まれる!あれは魔法でもなんでもない。呪力を使った陰陽道だ。俺は魔法は苦手だが、呪力は転生前の力を持っていた。なぜだか知らないが、同じ土俵なら負ける気がしない。
『わ――!!』
「すごいぞ!マスキ殿!!」
フロラディーテが大喜びだ。少しは戦えそうで内心ホッとしてる。
「なんだと!?おい!道満!なんだ!?あいつは!」
晴明がアシヤドウマンを睨み付ける。
「知らぬは!ただの怪談師だろ!?いいから、早くやっちまえ!」
「ええい!報酬は弾んでもらうからな!負けるわけにはいかないのでな、悪く思うなよ急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう) 式鬼」
晴明が呪印を結ぶと形代が鬼の姿に変わる!
ぐおぉぉぉぉ――!!
「なんだ!あれは!?トロールか!?いや、角が生えている!!あんな魔物みたことがない!」
フロラディーテは無意識に剣を構える。
「魔物が出ては試合どころではない!審判!中止じゃ!!」
「あの魔物は晴明の使役する魔物だ!!試合は続行だ!ふはは!残念だったな!!」
オヤジーノが試合の中止を訴えるが、アシヤドウマンがそれを認めない。
「まったく……。今度は『鬼』ときたか、どうなってんだ?」
俺は頭をぽりぽり掻く。
「命までは取らぬ。降参せよ」
袴の男が勝ち誇っているが、俺は転生前に鬼は山ほど退治した。残念だったな!
「真理の書・六!略式結界・鬼道凶禍!」
俺が巻物を広げると男の足元から鎖が飛び出し、鬼と袴の男を捕縛する!
ガキィ――ン!!!!
「な!!これは上級心得!?……なるほど、そういうことか……。おい!審判!我の負けだ!!」
男は素直に負けを認めた。
『わ――!!わ――!!』
「勝者!騎士団!!」
『ワーー!!!!』
模擬戦は騎士団勝利で幕を閉じた。
「すごいぞ!マスキ殿!最後のあれは何て魔法なのだ!?」
どぉ~ん!!
フロラディーテがいきなり抱きついてきた!
「いでぇ!!あ、あれか!?あれは……その……捕縛魔法ゴキブリホイホイだ!」
俺は適当に言って誤魔化す。
「なんと!聞いたことがない!私にも教えてほしい!ゴキブリホイホイ!!」
フロラディーテが俺の呪印の真似をして「ゴキブリホイホイ!」「ゴキブリホイホイ!」と言っている……。こちらの世界にゴキブリはいないが、少し申し訳ない気持ちになる。
「今度ちゃんと教えてやるからな!ほら、さっさと帰って怪談小屋を開けるぞ!」
俺はバツが悪くなり!足早に会場を去る。
「え!?今日も怪談を聞けるのか!!行く!私も行くぞ!!」
フロラディーテは餌を待っている子犬のように俺の後をついてきた。
「まったく、困った団長だ……」
オヤジーノも後を追って歩いた。
【陰陽師団 本部】
「晴明!どういうつもりだ!あんな怪談師の若造に負けおって!!」
怒鳴るドウサンに晴明は冷静な目を向ける。
「お主、気づかなかったのか?あやつ……いや、あの方は……私の父だ!」
「な!?……あやつが安倍益材!?まさか……奴は……死んだはずだ!」
ドウサンの目が見開く。
「そうだな。死んでから二十四年か……転生でもしたのだろう?間違いない、あれは父の得意だった捕縛術だ。それにあの呪力……ふふふ、私はもう少しこの世界に留まろうと思う。世話になるぞ、道満」
晴明は晴れ晴れとした笑顔を見せながら去っていった。
「あやつが……益材!?まさか……」
アシヤドウサンはその場で立ち尽くした。
<つづく!>
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